隣の魔法使い
すみれ屋
隣の魔法使い
彼女は折り紙が上手だった。ほんの手のひらほどの大きさの紙から、彼女はうさぎだの猫だのを折りあげる。
今も隣の席で一心に手を動かしている。彼女の知的そうな横顔は真剣そのもの表情だった。
昼休みが終わった五限目の現代文の時間。生徒たちはみんなぼんやりと黒板を眺めたり、あるいはうたた寝したりと眠たげだ。聞こえるのは、先生のぼそぼそ話す声と彼女が髪に指を滑らせるしゅっしゅっという微かな音だけ。
多分私にしか聞こえていない。
何を作っているのだろうとこっそり彼女の机上を覗き込んだ。
桜の花びらみたいな薄いピンク色の折り紙を繊細な手つきで折り込んでゆく。しゅっしゅっという音は、どうやら指先で紙にくっきりと跡をつけるときもののようだった。
やがて、彼女の手の動きが止まった。私はそれを視界の端で捕らえると、彼女の机の上を確認した。
手で握ればすっぽりと隠れてしまいそうなサイズの小鳥が小さな翼を広げていた。丁寧にも、小鳥の顔にはごま粒みたいな目が書き込んであった。
彼女は左手でほんの少しだけ窓を開けた。五月の風が私の頬を撫でる。彼女は手のひらに小鳥を乗せ、ふう、とそっと息を吹きかけた。
すると、桜色の小鳥は小さく震え、翼をはためかせて青空へ去っていった。風に吹かれて舞い上がる本当の花びらみたいだった。
私は驚いて彼女の顔を見た。彼女は得意げに少し口角を上げ、それから人差し指を薄い唇の前に当てる。片目を瞑り、器用にウィンクもして見せた。
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