週末日記

大滝のぐれ

1月30日



 大切な友人と会う約束をしていたので、日が昇るくらいに起きて身支度を始めた。当然ながら携帯は使えないため、今は生理食塩水に浸した割り箸を使って脳をこねくり回し洗脳したコー・ギーの幼体を伝書鳩のように使って遠くの人とやり取りしている。まだ電波が生きている頃にユーチューバーが紹介していた方法だが、今でもばりばり現役だ。外に出れば、首にいちご柄のスカーフを巻いた俺のコー・ギー以外に、めいめいの目印をつけたコー・ギーが行き交っているのが確認できる。


 約束を取り付けたのは二週間前のことだったので、上手く合流できるかが不安だったが、太陽がてっぺんに来たあたりで到着した待ち合わせ場所に友人が立っているのを見つけ、思わず顔がほころんだ。かつてはデパートととして機能していた建物も、今ではコー・ギーたちの手によって跡形もなく破壊されてしまっていた。が、看板らしきものと銅像のようなものはなぜか近くに残っており、それはランドマークのように機能していた。辺りにも、同じように待ち合わせをしていると思しき人たちが何人か突っ立っている。


「大変だったよ、さっき中型コー・ギーが現れてさ。自警団の人が殺してくれたけど」

 友人が指で示した先には、腹をかっさばかれた状態で茶色と白の毛に覆われた肉塊が横たわっていた。ライフルやマシンガン、カッターをそのまま大きくしたようなもの(アンチ・コー・ギーナイフというらしい)を背負ったいかつい男たちが、亡骸の周りでああでもないこうでもないと話しながら解体作業をおこなっている。後で食料に加工するために、しかるべきところへ運ぶ準備をしているのだ。


「コー・ギーの肉、もう少しおいしく食べれるようになればいいのにね」

 そうだね、と友人の言葉に頷きながら、俺たちは瓦礫にまみれた街の方へと繰り出していく。自警団の人たちの視線を感じ、ほんの少しの罪悪感を覚える。だが、遊びたいものは遊びたい。でも、きっとだめなんだろうな。そう考えながらも、俺たちは喫茶店(だったもの)で漬け込み置かれたままだったオレンジシロップのソーダ割りを飲んでお喋りし、まだわりあい原型を留めている商業施設(だったもの)で本とぬいぐるみ、スケジュール帳を略奪し、日が暮れる前にそそくさと帰路についた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る