飛蝶、萌ゆ?

さなゆき

第1話

ざわ……ざわ……。


 群衆の大挙する、百貨店の催事場――。

 飛蝶は民間人に紛れ、そこにいた。

 なぜか? そんな野暮なことを聞く者はない。

 彼女の正体は『量産型アンドロイド【諜報・暗殺型Sinobi】』。この場へも使命を帯び、参上した。


 彼女の目的はただ一つ。

 目的の物を入手し、無事に主へと送り届ける事。

 その使命を胸に抱き――決戦の場へ!


「それでは! 本日の目玉商品【ゴデバの凄腕ショコラティエ厳選・チョコレートの宝石箱エクラン】販売開始とさせていただきます! なお、数量は先着二十名様とさせていただいて――」


 店員のアナウンスが流れると同時に、群衆が目的の店舗へと殺到する!

 その勢いや象の群れが如く、見るものを圧倒する!


 それもその筈だろう。

 ゴデバの限定チョコレートには、魔法がかかっているという。


 技術が発達している現代において、何を幼稚なと言う者も多いだろう。

 だが。

 願いを叶えたい女性たちには、正に宝石箱の如き代物なのだ!


 十秒もかからず、先頭にいた女性が一箱目を入手する。

 まずいな。

 飛蝶は焦りを感じていた。このままでは、自分の番が来る前に売り切れる。

 相手は素人だからとなめ切っていた。

 普段任務ばかりで世俗に疎い彼女には『開店待ち』という概念はなかったのである。


 とんっ――。


 床を蹴り、宙へ舞う。

 その姿、まさに『飛蝶』!


 ふわりと舞う姿に、刹那誰しもが目を奪われた。

 くるりと体をひねり――。


 弾ッ――!


 勢いよく天井を蹴る!


 シュッ!


 会計に金を投げると、呆気に取られた店員の手から品物をかすめ取る!

 そして、飛蝶は会場から疾風の如く走り去る。

「な、何……?」

 後の者は、あっけに取られるのみであった。


 その後。

 彼女たちの主の机には、箱が置かれていた。

 それを見て、主は呟く。

「生きて、帰れよ」

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飛蝶、萌ゆ? さなゆき @sanayuki

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