アンナとイリスタ 1

 「アンナ!ここにいたのね。」

 蒼い海を往く旅客船の上、甲板に置かれたパラソルの下で本を読むアンナに、幼馴染のイリスタが悪戯っぽく声をかけた。

 「もうすぐ到着だって。楽しみだね。」

 「イリスタは着いたらどんなことをするのか、もう決めてるの?」

 「まだ全然!だってやりたいことがたくさんあるんだもの!」


 目的地は、グラブダ王国。

 国を挙げて日夜学問の発展に取り組んでおり、王城自体がグラブダ王立学院として、国の中心に建っている。学問を修めたいと思う者ならば、種族、貧富問わず入学することが出来ることから、各地から多くの新入生を迎えている。

 アンナとイリスタも、そんな中の一員なのだ。


 「ところでアンナ、何の本を読んでいたの?」

イリスタがアンナの手元に目をやった。

 「『グラブダ王国の歴史』っていう本よ。この前の寄港地の古本屋で買ったの。あの国が学問に力を入れているのは有名な話だけど、それはどうしてなのかなって思って。」

 「確かに、よく知らないね。それで、どうしてなのか分かった?」

 アンナはページをパラパラとめくっている。

 「うーん、それがよく分からなくて。「最初から学問に力を入れた国として成立しました」、としか書いていないの。後は発明品が如何に広く使われているかの説明だけ。ああ、この本買ったの、失敗だったかしら。そう言えば何ページか破れて無くなっていたし。」

 そういうとアンナは本を閉じて、イリスタに渡し、ううんと背伸びをした。

 イリスタは渡された本をまじまじと眺めてみた。確かに表装はしっかりしているが、ところどころページの端が破れていたり、文字が滲んでいたりしている。中程のページに至っては、纏めて外れかかっている。


 「まぁ古本屋で買った物なら、そんな失敗もあるよ。破れていたなら尚のこと、分からなくて当然じゃないかな。きっとちゃんとした本が学院にあるはずだから、荷物を降ろしたら一緒に探そうよ。」

 「そうね。ありがとう、イリスタ。」


 船の軌跡は、海に面した崖の上に広がる、グラブダ王国の白亜の街並みへ向かって一直線に伸びていた。

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