第8話
「私と一緒にNOK部の現部長兼唯一の部員、
凛として煌く瞳を覗かせた如月にそう言われた。
どうやら俺が騙されてまで呼び出された理由は、人探しの依頼のためらしい。もっとも俺が霊能力者である事を見越してのものなので、唯の人探しというわけでもないだろう。
故に俺は逡巡した。
果たしてこの問にどう答えるのが正解なのか、と。
いや、今俺が置かれている状況では従う他ないのだが、経緯を加味するに、これはかなりコアなオカルト案件だと思われる。であるならば、例え脅されようとも、安易に首を縦に振るわけにはいかないのだ。俺が真に避けねばならないのは、半妖という正体が露呈する事態なのだから。
オカルトのガチ案件に近づけば正体露呈の可能性は確実に上がってしまうだろう。ガチ案件、即ち本物が相手だと、四の五の言わずに相応の対処対応を迫られる場面に出会すことが多分に考えられる。そして、それはそのまま正体露呈の機会となり得てしまうからだ。
無論、俺とてバカではないので、その際は最新の注意を払うつもりであるが、どんなに最善を尽くそうとも、思わぬ粗を晒してしまう可能性は拭いきれない。実際、先程コジローに飛び掛かられ、驚いて飛び退いてしまった事により、視えている事を露呈させてしまった俺は、今こうして窮地に立たされているわけで。ガチ案件に近づくという事は、正体の隠匿という側面において不確定要素を増やす行為なのだ。
つまり、この選択肢はYESとNOのどちらを選んでも、俺の本質的な都合おいて状況の悪化が予想されるのである。となれば、どちらがより悪化具合が穏やかであるのかと、必然的に迷いが生じてしまうというものだ。
そうした事情も相俟って俺は逡巡していたわけであるが、時としてこうした状況下では当人の思惑がぞんざいに扱われがちである。特に今対峙しているのは偽りの情報で相手を誘き出してスタンガンで脅す系女子なので、その傾向はより著明だ。
ほんの数秒だけ間をおいて、如月が胸を撫で下ろすように言った。
「何も言わないって事はOKってことね」
何でだよ!?
サスペンスで核心を突かれ言い逃れできなくなった犯人ではないのだ。勝手に意思決定をされては困る。
不満を覚えた俺は、異議申し立てを試みるも――口を開くよりも早く、閃光と轟音が駆け抜け、焦げた臭いが足元より漂ってきた。本日何度目であろう、最早慣れた体験となりつつあるためか、何が起きたか確認する気も起きなかった。
只々絶句する俺。
そこへ如月が満面の笑みで頼んでもいない補足を入れてきた。
「安心して、事前に屋上全体には隠匿系の結界をいくつか張っておいたから、この程度で周囲に気付かれる事はないわ」
安心要素、どこにもありませんけど。
「あなたが霊能力者だと周囲にバレずに済むわね」
今その心遣いは不要である。俺が霊能力の類を知られたくなかったのは、安穏な生活を送りたかったからなのだ。だが、こうして如月に知られる事により、彼女によって既に俺の安穏な生活は脅かされてしまっているのだからな。
もっとも如月のやつはそれを解った上で言っているだろうから、いちいち言及はしない。……というか出来ん。
決局、俺は力なく「そりゃどうも」とだけ答え、またしても如月の軍門に下るのだった。
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