〇〇の〇〇

望月朔菜

第1話 突然の異世界?!「頑張れ!・・・頑張れ・・・」

「ここ、どこ?」

私は独り見たこともない景色を前に立ち尽くしていた。


今日私は土曜日ということもあり羽を伸ばそうと

そろそろ高二に進級するし、とか

そろそろ春休みだし、とか

そんな何でもない理由をつけて

とある人気漫画を手にするため近所の書店に足を運んだ。


私は客観的に見ても一般的な可愛らしい女子高生だと思う。


そんな私の生活に何か劇的な変化があるはずがない

もしあったとしても宝くじの10等が当たったり、美味しいものを食べたり、きれいな景色を見たりと、そんな小さな幸せだろう。



そう思っていた・・・



書店の自動ドアをくぐると、このわけのわからない世界にいたのだ。

いや、正確に言うと全くわけがわからないわけではないが。

私の目の前には本どころか、天井すらなかった。



まるで江戸時代にタイムスリップしたみたいな景色だ。

あたりを見渡すと木造の街並みの中を牛車が闊歩している。

ただ聞こえてくる会話はおよそ江戸時代とは思えない。


「魔石は如何かなー!」とか

「大陸の方で龍が目を覚ましたって」とか

「でも私達には関係ないね」とか

ファンタジーな会話が繰り広げられている。


急いで戻ろうとしたが、振り返ると自動ドアは消えていて

そこにはレトロな雰囲気の扉があるだけだ。

その扉だけ、この空間の中でひときわ異彩を放っている。


私は叫んだつもりだったのだ、しかし蚊の鳴くような声だった。

「・・・あ、あれぇーー?私一万人目のお客様的な感じ・・・?」

自分が思っているより驚いていたのかもしれない

・・・・・・ドッキリだと言ってくれ!!


そんなことを言う私を見る周りの視線が真冬の雨のように冷たい。


というより誰も見ていない。

私は、なぜここに居るのだろう。

もしかしたらこのレトロな雰囲気の扉を開けると

意外と簡単に帰れたりするのかも知れない・・・



そんなはずがなかった



「いらっしゃいませー!」

木造の店内に、エプロンを着けた店員?

お酒を飲んでいる様子もない、まるで・・・

「喫茶店青菜へようこそ!」

どうやらここは喫茶店らしい、取り敢えず何食わぬ顔で席に座ってみる。


そしてメニュー表を手に取っ・・・え!?

読めるっ!てか日本語じゃん


まぁ、しかしメニューを見たところで私日本円と図書カードしか持ってないしなぁ。

この世界で使えるかどうかわかんないし・・・

なんて、悩んでいると店員さんが話しかけてきた。


「ご注文はお決まりですか?」


「え、いや、あのー、えーと、わたしお金持ってないんですけど・・・」


「そうなの!?・・・あ、すいませんびっくりしてしまって」


「これで何とかならないでしょうか?」

と、私は自分の持っていた財布から本を買うはずだったお金を出した


「なにこれ面白ーい!」

と言われた


「そっ、そうですか?」


「わーすごー光に透かすと絵が浮かび上がるー!こっちのコインは大陸の数字が掘ってある!」

やはり異世界の人にはめずらしく見えるのだろう。


「あのー、これ私の二千ゼルと交換してくださいっ!」

びっくりした、そんなに欲しいのだろうか、というかお金なら私が欲しい。


「いいんですか?!」


「いや、それはこっちの台詞ですよ!」

こっちの台詞でもあるのだけれど。


そうして私たちは千五百円と二千ゼルというものを交換した

千ゼルが二枚『仟世瑠』と書かれていた。絶妙に読める・・・


交換したお金は紙幣のようだったしかし紙幣といっても片面印刷だった

いや、べつに片面印刷だから何か悪いことがあるわけではないのだけれど

ちょっと気になったのだ。


お金も手に入ったし、一息つきたいので飲み物でも頼もうかなと思う。


「取り敢えず・・・ココアを下さい」


「はーいっ六百ゼルです」


あっ思ったより高い、こっちと日本じゃ物価が違うのかな。なんて思ったりして。


程なくして頼んだココアが運ばれてきた。


「いただきまーす」私は口にコップを運ぶ 


「苦っ」


それは普段飲みなれているそれとは違い砂糖というか、

甘味という概念を感じないくらい苦かった。


私は頑張ってココアを飲み干すと

行くとこも、することも無いので店内でぼーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとしていた。






「・・・・・・・・・ふぅ」


このまま何もしないのも少し良くない気がしたので、カウンターへ向かい六百ゼルを支払う。


店内をを見渡すと相変わらず賑やかで、お客の顔ぶれは変わっているものの

雰囲気は何ら変わっていない。

けっこうな人気店だったのかもしれない

さながら、日本の某人気チェーン店のようだ

ここの給料は結構いいのだろう。

手入れも行き届いていて綺麗だし、店のどこを見ても皆笑顔というと過剰な表現かもしれないけど。


そう、アットホームな職場ですって感じだ。


急に異世界にきて不安だったけどやっぱりお金は必要だろう。意を決し申し出てみる。


「あのーわたしお金も行く当てもないんですがここで働かせて頂けないでしょうか」

なんてちょっと弱気に聞いてみる、まあここで強気に出るのもどうかと思うが。


「そうですねーお父さ、あっ店長に聞いてみますね」

どうやら店長の娘だったらしい。


そういえばさっきお金を交換もとい換金してくれたのもこの人だった。見た目は私より一歳か二歳年上だろうか。小柄ながらも大人っぽさというか色気というか、余裕を感じさせるような雰囲気を醸し出している。


そんなことを考えているといつの間にか店長がこちらに足を運んでいた。料理中だったのか手をふきながら。


「店長、この子がうちで働きたいって子よ。行く当てもないんですって。」


「・・・そうか、そうだなぁまあいいと思うよ、ウチも最近忙しくなってきたことだし、バイトでも募集しようと思ってたところだ。」

かなりの好感触だ。


「じゃあ・・・いいんですか?」


「いいよ。」

端的で少しそっけない返事だったが今の私はとてもうれしい言葉だった。


「行く当てもないんだったね。」


「はい。」


「では、うちに住み込みで働くというのはどうだろう部屋も余ってるし、生活に余裕もあるし・・・レインもそれでいいかな?」


「全然いいわよ。」


「あ、ありがとうございます!」


本当にアットホームな職場になった。


話がトントン拍子に進んでいる。まるで私が物語の主人公にでもなったみたいだ。


しかしこんなにも調子が良くていいのだろうか。調子に乗っていると怒られないか心配になる。


「ただし!」


ほら調子に乗りすぎた。

「住み込みで働くのなら、うちのルールは守ってもらわないとね。一つ目は必要最低限の家事は自分ですること、洗濯や掃除だね料理は当番制になっている。二つ目は...まぁお互いに人のことに首を突っ込まないことかな、過干渉は時に悪い方向に事を運ぶことがあるからね、だからといって全く助け合わないというわけではないからね。」

「守れるかい?」


「はい!守りますっ」


「そうか、じゃあ今日はもう日も落ちてくるし明日からでいいかな、教育係はレインにお願いしようかな」


「オッケー」

二つ返事とはこのことをいうのだろう、まるで何を言われるか分かっていたかのように承諾の返事をした。


「明日からよろしくね!私はレイン、ポテロニ・レインよ。そういえば歳はいくつ?さっきからため口でしゃべっているけれど、歳上だったら...ごめんなさい。」


「いえいえこちらこそ、歳はえっと、17歳です」


「そう!、なら私と同い年ねあなたも全然くだけた話し方でいいわよ。」


「そうですか。頑張ってみます!あっ頑張るね!」


なんだかよくある感じになってしまった。


そうして私は、二階の部屋へ案内された。


その間レインからいくつか質問されたが、とても曖昧で煮え切らない返答になってしまった。


というか私が、ここにどうっやて来たのか、なんでこうなったのかを知りたいくらいだ。


その日は精神的にも肉体的にも色々と疲労していたので、羊を数える暇もなく眠りについた。

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