05

 ルリィの言葉にわたしの頭は真っ白になる。

 今日は五歳の誕生日のはず。だって『わたくし』が目覚めたのだから。

 まさか、今回はイレギュラー? 嘘でしょう? こんな初手から全く状況が分からなくなってしまうなんて!


 びっくりしすぎて思わず、「今日は五歳の誕生日、よね……?」とルリィに聞いてしまった。

 わたしの動揺に気がつかないのか、それとも気がついてあえてそうしているのかルリィは変わらずに落ち着いた様子で答えた。


「ええ、本日は五歳の誕生日で間違いないですよ。なんでもセルニオッド殿下がどうしても、とおっしゃったようで……」


 セルニオッド様が!?

 今度こそわたしの頭は思考停止した。


 えっ、あのセルニオッド様が? わたしに会いたいということ? どうして?


 この国では、王族に子供が生まれると、その子供に合わせて作られ誕生した赤子のなかから婚約者の選別が始まる。もちろん、家柄によっては多少の例外はあるものの。


 選別が始まるのが三歳くらいで、五歳にもなればほどんど確定するはずだ。

 そして六歳には顔合わせ。

 成人であり、同時に貴族が通う高等学院入学する歳である十五歳に、入学パーティーで貴族の間に告知され、卒業パーティーの十八歳で国民にも告知される。それが通例だ。


 なので五歳の時点では確かにわたしとセルニオッド様の婚約は決まっているようなものだが、それにしたって気が早い。

 今まで、セルニオッド様との顔合わせが六歳のときでなかったことはなかった。


 しかし、もう決まってしまったのなら覆らない。急いで準備をしないと。

 どうして邂逅が早まったのか原因は分からない。しかし、 出会うのが一年早まったのなら、一年分今までより多く交流できる。親密度を上げておくチャンスととらえよう。

 パニックになったところでどうにもならないのだから。


 わたしは深呼吸をひとつすると、覚悟を決めた。


「ルリィ、お母様に会いに行きます。挨拶に失礼がないか、見てもらわないと」


 本当はもう何度となく挨拶をこなしているので、貴族としての勝手は分かっている。

 けれど、ルリィから見たらわたしは五歳の幼女で、ここで断るのは不自然に見えるだろう。どれだけ過信してるんだという話になってしまう。

 それに、わたくにとってはお母様に会うのは十数年ぶり。久しぶりに元気な顔を見たいという気持ちもあるのだ。


 それにしても、どうして顔合わせが早まったのかだけは気にかけておかないと。いきなり今までとは違う展開に戸惑いっぱなしだが、そのまま対応に手一杯になってしまうようでは今後の行動に影響がでるはず。

 わたしは着替えを済ませ、気合いを入れ直して、お母様の部屋へと向かった。

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