125
――ガチャン。
鍵が開くような音がして、ふっと目が覚めた。元々眠りが浅かったのか、たまたまそういう周期のタイミングだったのかは分からないが、すっと意識が覚醒する。
まだ眠たいが、もう朝か……と目を開け、辺りの暗さに、反射的に目をつむった。
あれ、おかしくない?
確かに天蓋のあるベッドだが、遮光カーテンの様に完全に光を遮断するほど厚い布ではない。まあ、かといってレース素材ほど薄くもないのだが。朝日が上っていれば、少なくとも周りはそれなりの明るさになるはず。
え、誰……?
鍵が開いたとするならば、確実に今いる部屋の入口が開いたはず。大窓を開けるのにも鍵が必要ではあるが、先に入口の鍵を開けないといけないだろう。
わたしは体を動かさないように、目だけを開ける。カーテンの厚さを考えれば、動く影は分かっても、目が開いているかなどの詳細は分からないはずだ。
きい、と扉が開くと同時に誰かが入ってくる。シルエット的には――女性か。あまり身長が高くないし、ふんわりとスカートが広がっている。
一瞬、メイドの誰かか? と思ったものの、そんなわけはない。客人が寝静まった部屋で、一体何をしようというのだ。朝だったら、「ああ、起こしに来たのか」と分かるものの、生憎、まだ朝の気配はない。大窓から朝日は差し込んでこないのだから。
気がつかれないように、わたしはいつでも逃げられる心づもりをしておく。それでも心臓はばっくばくだが。
少し、人影が立ち止まる。起きているのに気が付かれたか、と思ったが、再び動き出した。
――怖い。
誰なのかも分からないし、相手が何を目的にここへ来たのかも分からない。
寝ているふりをするのが正解か。それとも先手必勝で逃げるのが正解か。
ぐるぐると考えている間にも相手はこちらへ向かってくる。
恐怖と混乱でパニックになったわたしは、どうにでもなれ! と、天蓋が開かれるのと同時に、相手へ枕を投げつけた。
「きゃあ」という小さな悲鳴を聞きながら、わたしはいつでも逃げれる準備をする。
枕が落ちると、相手が誰だか分かった。
――第三王子の婚約者。
名前はすっかり忘れてしまったが(義叔母様が言っていたのはなんとなく覚えている)、婚約パーティーのとき、第三王子の隣に立ってた人だ。
「ご、ごめんなさ――、あ、いや、申し訳ありません、あの……」
こんな、まだ朝になっていないような時間帯にやってくる方が悪い、と思いながらも、相手が相手なのでわたしは咄嗟に謝る。問題ごとに発展して、結婚式に影響が出ても困る。
でも、彼女の表情を見て、言おうと思っていた言い訳が、全部頭の中から抜け落ちてしまった。
怒っているようにも、わたしを憐れんで見下しているようにも見える、なんとも冷たい表情を、彼女はしていた。
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