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 絢爛豪華という言葉はこの為にある、というほど煌びやかでゴージャスで華やかな部屋に置かれたソファの上で、わたしは居心地悪くちょこんと座っていた。

 婚約パーティーのホールも見事だったし、王城、というくらいなのだから派手なのは分かっていたが、限度というものがある。根っからの平民であるわたしには落ち着かない。


 そんなわけで、ついにやってきてしまった。結婚式の前日である。


 今は丁度、王城について、わたしが今晩泊まる部屋に案内されたところだ。

 恐ろしいことに、明日の結婚式直前までディルミックに会うことが出来ない。

 男女では準備が異なるため、部屋を分けるらしい。男性もやるにはやるが、女性の方がギリギリまでエステやらマッサージやら、やることが多いので、効率よく行うために別部屋らしい。まあ、男性サイドの使用人には男もいるだろうし、既婚者がマッサージを受けている部屋へ気軽に入るわけにも行かないだろう。

 理屈は分かるのだが、貴族のしきたりやマナー等、フォローしてくれるディルミックがいないというのは非常に不安である。


 わたしだって、義叔母様からいろいろと教育されて、こちらに来た時とは比べ物にならないくらい成長したと思う。


 でも、安心できるかどうかはまた別の話なのである!


 一応、メイドの付き添いは許可されているので、ミルリがついてきてくれているのだが、いくら貴族の館で働いているとはいえ、彼女も出身は平民。普段通り無表情に見えて、どことなく緊張しているのが見て取れた。

 あらかたディルミックから説明をされているし、義叔母様からどうしようもなくなったときの、いざというときの為の対応も教わっている。教わってはいるものの、やっぱりどうにも居心地が悪い。


 がちがちになって固まっていると、扉がノックされる音が、静まり返った室内に響いた。


「よろしいでしょうか」


 先ほどわたしをこの部屋に案内したメイドさんの声だ。王城は最下層の下働き――庭師や洗濯・掃除係、下級料理人は平民で、それ以外は皆貴族らしいので、客人を案内するメイドということは、この女性も貴族家の人なんだろう。


「は――」


「――問題ありません、開けさせていただきます」


 わたしが返事するより先に、かぶせるようにミルリが言葉を発した。そのときになってようやく思い出す。普段、ディルミックの屋敷ではわたしが返事をして扉を開閉することが多かったが、本来はメイドの仕事なのである。

 わたしもわたしで焦ったが、ミルリもミルリで少し表情が崩れていた。駄目な緊張だ、これ。義叔母様が見たらなんていうか――。


「ロディナさん、貴女、もっと穏やかにいられないのかしら?」


 そう、こんな感じに――ってあれ。

 わたしの想像のはずなのに義叔母様の声がする……と思ったら、扉が開かれた先に、本当に義叔母様がいた。

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