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 義叔母様と一緒に文面を考えて数日。わたしはせっせと文字の練習をしていた。

 これから毎年送るとして、初めての今年が来年以降の文字に劣るのはしかたないとしても、多少はマシな字を書きたいというか。今出来る限り、一番綺麗な文字を送りたいので。

 ノートにカリカリとガラスペンを走らせていると、扉がノックされた。


「はぁい?」


「今、少し時間をとっても大丈夫だろうか?」


 ディルミックの声だ。


「大丈夫ですよ。今そっちに行きますから」


 わたしが返事をすると、わたしが扉を開けるより先に、扉が開かれる。

 立っているのは、ディルミックと、数人の使用人らしき人たちだった。らしき、というか、ミルリ、チェシカにエルーラのメイドが三人と、護衛職らしき人が二人。片方は見たことがある。ミルリと街に出かけた時に来てくれた人で……ええと、そうだ、ハンベルさん。もう一人は全然分からない。

 計六人が、わたしの部屋にだだっと入ってくる。


「再来週の庭園と温室の一般公開の話はしたと思うが、一般公開の期間中、彼らが君の傍に着くことになった」


「傍にって……普段よりも?」


 基本的に普段はわたしは部屋にいて、同室には誰も入れていない。部屋に備え付けられた呼び鈴を鳴らせばすぐにミルリが来てくれるし、たいしたこともしないのに、ずっと傍にいられると落ち着かないからだ。


「ああ、そうだ。同室にも置いてもらう。よほど気になるなら廊下に立たせるでもいいが」


「いや、そっちの方が気になってしかたないので、部屋に入れますよ」


 ディルミック曰く。

 一般客にまぎれて、手癖の悪い人々が屋敷に侵入することがあるらしい。なので、身の安全を確保するため、傍に誰かがいる状態を常に作っておきたいのだとか。

 まあ、二週間の辛抱か。誰かがいれば、勉強にも集中せざるを得ないので、いい環境と言えばまあ、ポジティブにいけるはず……いやでもきっと、流石に多少は気になるか。


「それから、一般公開の間、この五人以外になにか言われたとしても、無視していい」


「えっ、どうしてです?」


「何かあったら大変だからな。……本当に、たまに変な奴が来るんだ」


 ディルミックは頭が痛そうに言った。顔は見えないけど、雰囲気的にはそんな感じがする。

 まあ、確かに。適当に、たとえば、ディルミックから案内を頼まれた、とか言われたらほいほいついていってしまうかもしれない。ここの使用人について、全員把握している分けじゃないので、ここの使用人か外部の人間か、わたしには判別が付かない。


 嫌だと駄々をこねる理由も特にないので、わたしは素直に言うことを聞くことにした。

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