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「誕生日、近いんですか!?」
わたしは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。誕生日なんて祝わない選択肢があるのか? あるわけない。
わたしにとっては、前世でも、今世でも、『誕生日は祝うもの』という認識なのだが、ディルミックはきょとんとしている。
身近な人間の誕生日を近くに知らされて焦らない人間がどこにいる? まあ、他人の誕生日を祝わないタイプの人間は焦らないかもしれないけど。このきょとんとして、わたしの焦りが分かってない様子、ディルミックは祝わないタイプの人間なのか?
「……グラベインでは、誕生日を祝う習慣がない……?」
「マルルセーヌでは祝うのが普通なのか?」
そうくるか……。
「勿論! 交友関係が広い人は一か月ぐらいバースデーしてますよ」
「い、一か月もか」
ディルミックが驚いたような声を上げる。
マルルセーヌの誕生日は、茶葉がプレゼントとして主流である。誰しもが、「誕生日おめでとう!」といって茶葉を渡すのだ。たまに、お茶請け用の菓子を渡すパターンもあるが。
そしてたくさんの茶葉を貰った主役は、自分を祝ってくれた人に「一緒にいてくれてありがとう」「育ててくれてありがとう」という意味を込めて、その茶葉でお茶を淹れふるまう。
なので、交友関係や人脈が広い人間は手元に来る茶葉の量が尋常じゃないので、複数日に分けてお茶会を開催することになるのだ。
マルルセーヌにとって、誕生日とは祝われるもので、同時に、他者へ感謝するものなのだ。普段、反抗期をこじらせているような悪ガキでも、この日ばかりは「ありがとう」と親にお茶を淹れるのだ。そういう日なのだ!
わたしがそう説明すると、ディルミックは驚いたような顔をしていた。
「そ、そうなのか……」
というかちょっと引いていた。熱弁しすぎたのかもしれない。一旦落ち着こう。
いやでも、前世でもバースデーケーキとか、プレゼントとか、そういうの、あったよな? 今世でバースデーケーキを再現するのはちょっと無理だが。ケーキ用のろうそくを見たことがないし(ろうそくはもっぱら照明用の大きいものしかない)、何よりケーキ自体、グラベインで用意するのが難しい。市販では当然売っていないし、わたしが作るしかないのだが、作れる自信が全くない。クッキーですらああだったのだから。
「貴族では物を送りあうことはあまりしないな。強いて言えば手紙を送るくらいか」
「手紙、ですか」
「ああ、いざというとき処分しやすい」
なんでも、グラベインは結構連座という、犯罪者の身内も処刑する刑が起きるらしく、親しいものでも親しいと周りにアピールすることが少ないそうだ。友人関係程度では流石に連座とまではいかないが、結構白い目で見られるようになるらしい。
なので、『いざというとき』とは、自分を祝ってくれた相手が犯罪者になったとき。その相手と交流があったことを隠すため、燃やしやすい手紙がプレゼントとして最適らしい。
物騒が過ぎる! そんなの全然プレゼントじゃない!
「平民は? 平民は流石にそんなことないでしょう?」
思わず聞いてしまったが、純粋な貴族のディルミックが平民の誕生日事情なんて知るわけもない。普通に「分からない」と言われてしまった。そりゃそうだ。
何か送れないだろうか、と思っていたが、そういう物騒な誕生日観で育ったのなら、手紙とか、何か形に残らない、思い出のようなプレゼントが最適なのかもしれない。
となれば、原点に戻ってグラベイン語の勉強をするのみである。
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