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 コンロや棚の設置について相談が終わると、とっくにお昼時を過ぎていた。工事は明日から入って、一週間ほどかかるそうだ。

 わくわくとする半面、ふと困ったことに気が付く。

 ディルミックと共に遅めの昼食を取っていたわたしは、食べる手を止める。


「ねえ、ディルミック。離れに、書庫とか図書室とかないんですか?」


 わたしが今使っている教本は、本館の書庫から取ってきた、と彼は言っていたはずだ。だからまあ、本館には書庫があるのだろう。わたしは知らないけど。

 でも、ここに来たばかりのとき、ミルリから受けた説明では、こちら側にそういった類のものがあるとは言ってなかった。


 明日からわたしの部屋に工事が入るのであれば、わたしの部屋で勉強は出来ないと考えた方がいいだろう。職人側からしたら邪魔だろうし、わたしからしたらうるさくて集中できない。到底、同じ部屋で作業はできない。


「折角明日、教本が届くのに、明日から部屋で勉強出来ないじゃないですか」


 そう言うと、ディルミックは少し考え込んだ後、「……なくは、ない」と曖昧な返事をよこした。どっちなんだ。


「……わたしが使ったらまずい場所にあるんですか?」


 試しに聞いてみる。わたしが使えないから言葉を濁したのだろうか。


「別に、君が使ってまずいことはない。ただ……誰も使いたがらない場所にあるから」


「そんなに過酷な道のりを歩かないと行けないんですか?」


 めちゃくちゃ長い階段の先にあるとか、そういうことだろうか。心臓破りの坂とか? それは流石に嫌だな……。それだったらまだ庭園とかに置かれた小さなテーブルとイスで勉強した方がマシだ。

 しかしどうやらそうではないようだ。


「……僕の部屋からしか、行けないんだ」


 なるほど? わざわざディルミックに頼み、入る人間がいないから、使いたがらない場所、ということか。

 まあ、ディルミックが嫌われている云々以前にここの家の当主なわけで、おいそれと簡単に入ることも出来ないだろう。


「まあ、君が気にしないんだったら、使ってもいいけど」


「本当ですか! ぜひ使わせてください。あ、でも仕事の邪魔にならないですか?」


 ディルミックが私室にいるときは、大抵、お貴族様の書類仕事をしているときである。わたしが行って邪魔にならないだろうか、と思ったが、そうでもないらしい。首を横に振られた。


「じゃあ、食べ終わったら僕の部屋に来たらいい。案内する」


「ありがとうございます」


 これで明日から勉強が出来そうだ。

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