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ディルミックとの昼食は何事もなく終わった――と思う。ディルミックは問題ない、と言ってくれたけど、やっぱりテーブルマナー、学ばないとだめだな。
ずっとしかめっつらだったし、平民にしては綺麗な方、っていうだけで、貴族としては失格なんだろう。挨拶も癖でついしてしまう。前世も、マルルセーヌにいた頃も「いただきます」とあいさつするのが普通だったから。
それと、もっとグラベインのことを知りたいな、とも思った。ディルミックとの話題がないのである。
何かとっかかりでも知っていれば、これは何、あれは何、と聞くこともできるけれど、現状、それすらできない。
と言うわけで。
「ディルミック、街に出かけてもいいですか?」
昼食を終え、食堂を出て、わたしは彼に声をかける。
マルルセーヌの村からこの屋敷に来るまで直通で、わたしはほとんどグラベインの街並みを見れていない。馬車の窓からなんとなく見ただけだ。
ちなみにグラベインの交通手段は馬が主流の模様。わたしがこっちに来るときは流石に馬車を出してくれたけど。国境またぐし、いくら地理的にはすぐ隣でも、五日はかかる旅だったし。
わたしの言葉に、ディルミックは少し固まっていたが、「……構わない」と返事をもらった。しぶしぶというか……うーん、逃げるとでも思われたのだろうか。
「ミルリと一緒に行こうと思うんですけど」
「それなら一人、護衛を連れていけ」
護衛! いかにも貴族らしい言葉に、少しわくわくしてしまう。偉い人になった気分だ。偉い人の身内にはなったのだが。
屋敷から街までは歩いて二十分と少し、といったくらいだろうか。馬車から見たわたしの目測だけど。
ちょっとした散歩というか、グラベインに慣れるための散策のつもりだったので、護衛、と言われると大げさな気もする。
まあ、わたし、一応は辺境伯夫人なわけで。仕方ないと言えば仕方ない……のか?
「ミルリに金を渡しておくから、好きに使え」
「……! はいっ」
わあい、お小遣いだ! 何に使おうかな。
本はディルミックに頼んだし、他に何か暇つぶしになるようなものが欲しい。前世で言う、チェスや将棋みたいなボードゲームか、トランプみたいカードゲームとかも欲しい。
電子機器が普及している世界ではないので、どうしてもアナログなゲームになってしまうが、これはこれで楽しいものだ。相手がいればだけど……ミルリが相手になってくれないかな。ディルミックが相手をしてくれてもいいけれど、仕事があるだろうからそれはちょっと厳しいか。
あとはお菓子とか。ディルミックにもお土産を買いたいけど……貴族って毒見とか必要なんじゃない? 今日の昼間もやっていたし。その辺はミルリと相談だな。
わたしがどこに行こうか考えていると、ディルミックが心配そうに、「暗くなる前には帰って来いよ」と言った。
大丈夫、ちゃんと帰ってきますって!
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