「どうする?」 「方法はいくつかあるスよw」
扉を包む結界は、四角い箱のような形をしていた。
半透明なそれが扉とその周りを覆うようになっており、発生源は床の四隅に配置された青い宝玉らしかった。
「こいつは呪玉スねー。多分、大地の魔力を吸い上げて展開してるんスよ。扉に書かれてる魔法陣が呼応して、この結界を展開してるぽいスねーw」
「どうやって開くんだ?」
「多分、アレっスかねーw」
とイーサが指差した先は、壁だった。
何やら手のひらを、魚拓のように壁に押し付けたようなマークがあり、その横に先ほど壊したハコについていたような文字の浮かぶモノと似た細長い表示がついている。
「多分『ぱすわーど』ってヤツがいるんだと思うスよw」
「なんだそれは」
「暗号みたいなモンっスねー」
「なるほど。後ろ暗い連中が、仲間を確認するために扉越しに交わす言葉のようなものが必要ということだな」
「そーゆーことっス」
イーサとのやり取りの間に、アルゴは結界の中に目を向ける。
彼の言う通り、魔法陣が刻まれた扉と、その横にある謎の穴が見えた。
穴の上には何か大きく書かれた模様と、石板のようなものに刻まれた文字がある。
その穴を覗き込むと、その向こうにも微かに文字のようなものが確認できた。
「あれは何と書いてある?」
「穴の上の魔導文字は、ボク知ってるよー。確か、危険を知らせる文字のはずだねー」
「危険?」
「そう。だよね?」
エルフィリアの問いかけに、イーサがヘラヘラとうなずいた。
「そっスねーw 『ヒジョウヨウ』って書いてあるっス」
「ご主人様! 私は何にも分かりません!!」
「同じく! 魔法とかに関してはさっぱりだ!!」
「別にお前たちに、そういう能力は期待していない」
元気よく手を上げるウルズと、それに賛同するオデッセイにそう言い返している間に、イーサが、んー、と目を細めて石板を見た。
「……結界越しだし、ちょっと刻みが薄くなってるんで、あんま読めないスけど……〝キンキュウ……シンニュウシャ……ボウソウ……サワルベカラズ……エック、ス?〟これは、文字列の意味が分かんないスね。後は〝ウデ……ヲ、ヤカレル〟……とか、書いてあるスね!!」
緊急、侵入者、暴走。触るべからず。腕を焼かれる。
「なんだ、その物騒過ぎる穴は」
何が暴走するのか分からないが、入れるだけで腕まで焼かれるのなら、わざわざ突っ込むヤツがいるとでも思うのだろうか。
「穴の向こうの文字はさらに見にくいスねー。多分、そこの石板に書かれてる『X』って古代文字だと思うんスけど」
「なるほどな……まぁいい。とりあえず結界の解除が先だ」
現状触れず、触る気もない穴のことを考えても仕方がない。
「どうする?」
「方法はいくつかあるスよw」
イーサは指を一本ピッと立てた。
「一つ。『ぱすわーど』を解除する。一番正攻法の手段スね! ただ、暗号の内容分かんないんで、何かヒントないとめっちゃツライっス!」
「そうだねー。後はボク、あの手のひらみたいなの見覚えあるけど、アレがついてるトコって、暗号知ってても解除出来なかった気がする」
「え、そうなんスか?w」
エルフィリアの言葉は、イーサも初耳だったらしい。
「なんか、別のダンジョンでパーティーの魔導士が難しいこと言ってたけど、『セータイニンショー』かなんかで、『シキベツタイショー』になってないといけないって。解除しようとした時に『ブー!』ってなってた」
「全く意味が分からんな」
「確かにwww」
すると、黙っていたサンドラが口を開く。
「多分【魔法の鍵】とか【契約の腕輪】に類するものである可能性が高そうだが」
そう言われて、アルゴは理解した。
「なるほど、このダンジョンの持ち主以外には開けないということか」
「可能性は高いだろう?」
「だから、最深部が攻略されてなかったのかなー?」
「いやでも、コレを開いた形跡はあるんス。多分残り二つの方法で開けたんじゃないスかね?w」
「どんな方法だ?」
「二つ目! この扉以外のところから入る! っスw でも多分、コレ失敗してるスねw」
イーサが、二本立てた指で、入り口の横にある壁を指差した。
そこをよく見ると、うっすらと凹んだような凹凸が補修されたような跡が見える。
「多分、分厚すぎて壊せなかった感じスねw この方法でも『最後の敵』とやらが出現する可能性が高いっスw」
「壊し切る前に最後の敵が現れて、ソイツが倒せなかった、ということか」
どうやらそれは、カラクリよりも遥かに強い相手である可能性が高くなってきた。
「三つ目は?」
「これも壊す方向スけど、その呪玉一個ぶっ壊したら、結界は解除出来ると思うスw ただ、お宝を一個ぶっ壊すってことスけどwww」
確かに、呪玉は高い。
それもかなり大粒なので、これ一つでも、上手くやれば凄まじい高値がつくだろう。
「欲との兼ね合いか」
「まぁ、絶対最後の敵が来るスけどねー。その間に、扉を壊すか突破するかして、最奥部にたどり着けるかどーか、じゃないスか?w」
ーーーネックなのは、壊すことよりも、最後の敵の存在だった。
「Sランクパーティーでも倒せない敵、か」
どんなモノか想像もつかないが、強大な魔獣に類するモノであることは間違いがない。
「私が倒しますよー! エルフィリアさんと一緒にー!」
「強い奴には興味があるなー、ボク」
前衛2人はやる気満々ではあるが、ここまで来て一か八かの賭けに出るのは、なるべく避けたいところだ。
しかし『ぱすわーど』の解除が望めない、となれば、最後の敵の出現は免れない。
なら、賭けの勝率を上げることを考える方が、幾分合理的だ。
「最後の敵に対して有効に試せる方法は、一つだけあるな」
「どんな方法スか?w」
言われてアルゴは【カバン玉】からポーションの瓶を取り出した。
「ーーーこのスライムに干し肉のカケラを与えて、敵の中で炸裂させるんだ」
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