第11話 作戦終了間際
駅から少々離れたところにあるこじんまりとしたレストラン。ネットの情報によればこの店には最大でも〝四人掛けのテーブル〟しかないとのことで、誕生日席を用意されない限りは自然な流れで別れることができるだろうと思いチョイスしたわけだが……実際正解だった。
隣の席でさっきの映画について和気あいあいと語りあっている二渡と速川の姿を見て、俺はホッと一安心。
振り分けの時、速川のヤツめちゃくちゃ不満そうな顔してたけど、なんだかんだ楽しそうで良かった。
これで二人からの頼みに最低限応えたことにはなっただろう。それもこれも俺の発言に清香が肯定的でいてくれたおかげだ。
後はカラオケで各々好き勝手トークしてもらって今日は終わり、それ以降は「俺にできるのはここまでだ!」とか適当なこと言って身を引こう、そうしよう。
「……………………」
速川達から視線を戻してすぐ、対面に座っている一道と目が合った。じーっと俺を見つめてくる。
「えっと、一道さん? どしたの?」
「…………別に」
そう短く返し、まるで何事もなかったかのように一道はメニュー表に目を落とした。
……なんだコイツ。
***
遅めのランチを終え、駅前にあるカラオケへ。
「――コイコイコイコイ恋してる君にアイアイアイアイ愛しているわッ!」
『恋を愛する』の主題歌を立ち上がって熱唱している速川に、マラカスやらタンバリンでドンドンパフパフウェイこらどっこいしょ! と合の手を入れる清香と二渡。高校生にとって騒げる場所がいかに最強かがよくわかる。
対して一道はといえば、歌詞が表示されているディスプレイをつまらなそうに眺めているだけ。こういう空気が苦手なのか、はたまた見下しているのか……後者が濃厚くさいな。
こんなヤツと普段つるんでて清香と二渡は楽しいと感じてるんだろうか? 甚だ疑問だが、少なくとも俺は感じない、というか半日で逃げ出す自信がある。
一道さんあなたね、今この場に居るのが俺達だからまだ良かったですけども、これが初対面の男ら交えた合コンとかだったらあなたすぐに絡まれますよ? 見てくれだけはいいから。そうですね~だいたい『ねぇねぇ君、静かだけどこういうノリ苦手? あー心配しないで、俺が手取り足取り優しく教えてあげるからさ。まずはそうだね~……俺のマイク、咥えてみない?』みたいに下ネタ丸出しな感じでね…………あヤバい、俺疲れてるのかも。
空いたグラスを手に俺は席を立ち、ちょっと前失礼しますねと上映中に席を外す時の姿勢で部屋を後に。
「……はぁ」
ドリンクバーの機械にグラスを置き、オレンジジュースのボタンを押す。
「だいぶお疲れの様子だね、いーくん」
「……清香か」
声がした方に顔を向けるとそこには清香が。グラスを持ってるとこからして、目的は俺と同じだろう。
「不自然さは拭えなかったけど、でも何とか上手くいったね」
「だな。ほんと清香さまさまだよ。後でモンブラン奢る」
「いいよいいよ、お礼なんて。それより協力の件どうするの? まさかまだ続けるなんて言わないよね?」
「ないない。いくら自分のせいとはいえ、こんなのはもうごめんだ。「俺が手伝えるのはここまで」的なこと言って手を引く」
横にきた清香がジト目で俺を見てくる。
「正直に謝るって話はどこにいっちゃったのかな?」
「あれはそのほら、一応は協力したし? 最低限の役目は果たせたからいいかなっていうね!」
なんてぬかしつつ俺は満たされたグラスを取って清香に機械の前を譲る。
「……いーくん」
なおも
「今回は見逃してあげるけど、次はないからね? わかった?」
「恩に着るでございます」
ぎろりと横目で睨んでくる清香。
「ふ、ざ、け、な、い」
「すいません。もう二度と嫌われたくないからなどという情けない理由で無理な案件を引き受けたりは致しません」
「……
視線を戻した清香は顎に手を当てどれにしようかと迷っている様子。
先に戻るのもあれだし、ちょいと待つか。
「…………やっぱり、ダメなんだよね。凪と速川君、どっちも」
ちょびちょびと果汁100%を味わっていると、依然としてお悩み中の清香がそう呟いた。明言を避けてはいるものの、何がダメかについては察しがつく。
「本人達には悪いが……まぁ無理だな。一道は速川に興味すらなさそうだし、速川は二渡を友達としてしか捉えてないだろうな」
「…………そっか。これっばかりはどうしようも――」
一度は俺に目を向けた清香だったが固定はされず、瞳をやや左に動かし唖然とした表情に。
何を見て驚いているのか。俺は清香が送る視線の先を追って――そして納得した。
「――そういうことだったのね」
壁に背を預け薄笑いを浮かべている一道を目にして、納得した。
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