嫌な予感

「ユーヤ行ったぞ」

「ほらよっと」


 背後から近づいてきたゴブリンを振り向きざまに一刀両断する。

 切られたゴブリンは地へ崩れ落ちると光の粒子になって消えていく。

 魔物は死ぬ時、魔力となって霧散するのだ。

 グロテスクな容姿には似つかわしくない綺麗な光景だが、見惚れている暇はない。


「ったく、どれだけいるんだよ!」

「さあね」


 一瞬で二体を切り伏せたフィオは油断なく構える。

 体育館から飛ばされた俺たちは最深部を目指して歩みを進めていた。

 最初のうちはゴブリンも多くて三体ほどしか出てこず、レイナやアイリスも想像以上に戦えたので順調そのものだったのだが、ある階層に到達した時、事件が起きた。

 今までとは違い開かれた空間に違和感を覚え、警戒しながら進んでいるといきなり大量のゴブリンが降ってきたのだ。

 何とかレイナとアイリスは上へと逃がすことができたが、俺たちは囲まれてしまい今に至る。

 いくら一体一体は強くないとは言え、断続的に襲いかかられるのは結構しんどい。流石に無傷とはいかなくなってきた。

 あの魔物と戦った時の頑丈さはどこへやら。微量ながらダメージはある。

 フィオは見る限りダメージもなく、まだまだ余力を残していそうだが、どこまで続くかはわからない現状、楽観視はできない。

 しかし、奥に押し込まれてしまったため、レイナとアイリスの助太刀を期待するのは難しいだろう。


「……おいおい、まだ湧いてくるのかよ!」


 目の前の三体を切り捨て残りを確認しようとした俺の眼に、階段から現れたゴブリンの増援が眼に入った。

 帰還石を使うにせよ全員集合しないといけない。だが、そのためにレイナ達がいる上の階へ行く必要がある。つまり、包囲網に穴を作らなければならない。

 体力には限度がある。決断が遅れたら致命傷になりかねない。


「ユーヤッ!」

「チッ……!」


 考え事をしていたため、反応が遅れる。

 目の前に迫ってくる棍棒をかわすためにバックステップを踏む。

 タイミングはギリギリだったが、何とかかわすことができた。


「あっぶねー!」

「気を抜くな!」


 棍棒は額に掠ったが、直撃は逃れた。痛みはないし、血も出ている様子はない。

 他のことに気を取られて隙をつくるなんて愚の骨頂だ。叱咤するとすぐに臨戦態勢に入るフィオを見習わなければ。


「悪い。でも、どうする?」


 剣を構え、周囲に意識を払いつつフィオに投げかける。

 こういう時こそ魔法が使えたらと思う。RPGだったら広範囲攻撃は魔法の専売特許だ。

 俺はまだ魔法どころか魔力を扱うことすらできない。だが、フィオならと思っての投げかけでもあった。


「……打開策はある」

「本当か!?」


 棍棒を弾き飛ばし、ゴブリンを群れに蹴っ飛ばした隙にフィオへと近づく。


「このまま戦っていてもじり貧だ! 策があるならやろうぜ!」

「…………」


 どうやらフィオの考える策とやらには問題があるらしい。

 とはいえ、他に思いつかないのならばやるしかない。


「どうせイベントだ! 死ぬことはないだろうから、やるだけやってやろうぜ!」


 詭弁であった。俺自身、既に行事だなんて微塵も思っていない。

 戦いの恐ろしさを教えるためにあえてこのような形にしているのか、それとも学園関係者も想定外の事態が起きているのか、どちらかなんてわかりっこないのだから最善を尽くすだけだ。


「……そうだね。やれるだけのことはやってみよう。ユーヤ、君の力を貸してほしい」

「へっ、わざわざ頼むなっての。同じパーティーなんだしよ。何より友達なんだから頼まれなくても貸してやるぜ」

「こういう状況でも君は変わらないね」


 フィオの表情から硬さが抜ける。


「なんたって俺だからな! ……って言いたいところだけど、さっきテンパってやられかけたばっかりなんですよね」


 本当ならもう少し調子にのってツッコミ待ちをしたいところだが、そんな余裕は残念ながらない。


「ユーヤがいてくれて本当に頼もしいよ」

「よせやい。たかだが行事の戦闘だぜ? そういうのは本当の死地で戦っているときに聞かせてくれや」


 もし、このゴブリンの量が学園の想定していたものを遥かに超えていたとしよう。それでも所詮はゴブリンだ。

 こんな戦闘でラストバトルのような空気を出されても恥ずかしいったらありゃしない。

 ……まあ、俺たちひよっこにはふさわしい相手だが。


「それもそうか。なら、こんな奴らとっとと片付けることにしよう」

「おー、やってやれやってやれ! んで、俺は何をしたら良いんだ? なんでもやってやるぜ」

「魔法を詠唱するための時間稼ぎをしてほしい。1分で良い。僕を守ってくれ」


 ……マジかよ。

 耳を疑う内容に脳が理解することを拒否する。

 なるほど、ためらうわけだ。二人でもしんどいのに、一人で捌き切るなど二倍どころか、守るぶん負担は三倍にも四倍にもなるだろう。


「うへ、またしんどいことを……」

「じゃあ、やめるかい」


 フィオがまるで答えはわかっていると言わんばかりに軽く聞いてくる。

 できればやりたくない。んな、大変なこと。

 だけど、なんでもやると言ってしまった手前逃げるわけにはいかない。


「へっ、なめんなよ。それぐらい朝飯前だっての」


 ここは大いに調子に乗るところ。どうせやらないといけないんだ。だったら、大きな口を叩こうではないか。


「ふっ!」

「はあ!」


 互いに近くにいるゴブリンを切り捨て距離を縮める。


「僕の命、任せたよ」

「大船に乗ったつもりで安心しな! フィオの方こそ詠唱しくじるなよ!」


 返事のかわりに後ろで魔力が収束し始める。

 頼むぜ、フィオ。

 フィオは威力に関しては問題点を口にしなかった。つまり、発動さえできれば殲滅できる自信があるのだ。だから、後は俺が時間を稼げるかどうかにかかっている。

 壁側に押されていたのは不幸中の幸いだった。フィオを俺と壁で挟むようにして立つ。

 これで前と横だけを気にして戦えば良い。負担はだいぶ軽くなる。


「まあ、軽くなってもしんどいんだけどな……!」


 ゴブリンもバカではないみたいだ。俺を無視して詠唱を始めたフィオを攻撃しようとしてくる。

 だが、逆効果だ。完全に俺を視界から外したゴブリンを撃退するのはたやすい。

 この世界の剣は軽い。軽い金属でもあるのか、それとも魔法のためかは知らないが、腕力だけでもそれなりの速度で連続で斬ることができる。尚且つ、切れ味が落ちることがない。

 上手く使えば一度に三体……四体までなら攻撃できる。


「言ってるそばから五体かよ!」


 タイミング良く五体のゴブリンが向かってくる。

 隊列を組むような知恵はないので、一人一人好き勝手に襲い掛かってきているだけだ。出し抜かれる心配はないかわりに技量が試される。

 生まれは知らないけど、俺は日本育ちだ。もちろん剣なんてあっちだと触ったこともない。そんな奴に技量を期待するほうが間違っている。

 なら、何に期待するか。そんなの……!


「根性に決まってんだろうがぁぁぁあああああッ!」


 雄たけびをあげながら一太刀で先頭にいた二体の首を撥ねる。

 その勢いを全て引いた左足にため、他のゴブリンが横を抜けようとした瞬間に解き放つ。

 斬るなんて大きな動作を使う必要はない。ただ、相手のむき出しになっている脇腹を突けば良いだけだ。

 右足をつく、左足のバネを溜めると同時に前かがみになっていた上半身により、体重がしっかりと乗った突きは一体を貫くだけでは留まらず、少し遅れてやってきたゴブリンをも仕留める。これで四体。

 一番後ろから襲ってきた残りの一体がフィオ目がけて猛進する。

 ゴブリンが消えるまで多少の時間がかかるため剣は使えない。俺はためらうことなく手を離した。

 そして、今まさにフィオへと飛びかかろうとするゴブリンの顔面を蹴る。サッカーで言うボレーシュートだ。

 俺はこっちの世界に来てから身体能力が何倍にも上がっている。“英雄の記憶”を使った時ほどではないが、防御力は人間と変わらないゴブリン相手には十分。

 俺の本気の蹴りを喰らったゴブリンの頭が吹き飛ぶ。薄々感じてはいたが、放たれた一撃の威力に改めて自分が化け物染みた力を手に入れたことを理解する。


「間違っても人にやったらいけないな、これ……」


 感想はそこそこに、突き刺さっていたゴブリンが消えたことで自由となった剣を拾う。

 良くもまあ武器を手放すことができたものだ。当初の予定として蹴りで倒すつもりなんてなかったのだが。

 まさか、剣が抜けなくなるとは。これだから素人はいけない。今は結果が良ければ気にする必要はないが、後で反省しなければ。


「……結果オーライって喜ぶにはまだ早いってか?」


 流石に学んだのかゴブリンは半円状に俺達を覆ってきた。コンビネーションを見せてくるかはわからないが、闇雲に襲い掛かってくる気配はない。

 所詮は第一陣を退けたに過ぎない。そして、さっきので俺の限界は五体までとわかってしまった。それ以上の数となると守るだけとはいえ苦しい。

 今は警戒してくれているけど、そんなに長く持つことはないだろう。

 フィオはまだか……。今、どれくらい時間が経過した……。

 じれったくなったのか集団から三体のゴブリンが飛び出してくる。

 この数なら問題ない。


「はあ!」


 これだけ倒せばどこを攻撃すれば良いかはわかる。

 首を飛ばす。倒した後、次の行動に移りやすいのだ。


「てりゃ!」


 蹴りの威力を知ったからには使わない手はない。

 回し蹴りで顔面をうちぬく。


「とりゃ!」


 最後に体をひねり、逆側から来たゴブリンの頭を斬り裂く。

 偶然だろうか。真ん中、左、右の順で襲って来た。

 額に汗が流れる。剣を持つ手に力が入ってしまう。


「…………ワイルドな方がカッコ良いぜ?」


 ほぼ獣と言って差し支えはない。本能でしか行動しないとの記述は嘘だったのか。

 ゴブリン達の口角があがる。醜い。理性を介する暇もなく本能が嫌悪感を覚える。

 攻略法はわかったとでも言いたげだ。……まあ、わかるよな。

 唯でさえ六体以上が来たらヤバいってのに、方向までバラバラとなると五体ですら耐えられないかもしれない。

 山場ってやつか。中々どうして厳しいではないか。

 ゴブリン達の殺気が高まっていくのを感じる。


 ――来る!


「ちっ!」


 数は六体。それだけでもキツイのに予想通り三方向から来る。

 だが、速度は若干違う。最初に来るのは、右か。


「はっ!」


 右上から左下にかけて斜めに振り下ろして一体を倒す。続けざまにやってくるもう一体をなぞるように次は左下から右上に斬りあげる。

 倒したかどうかなど確認する暇はない。そのまま視界の右側にかすったゴブリンを薙ぎ払う。

 一体は倒せたが、もう一体には剣が届かなかった。


「くっ……!」


 眼をつぶって詠唱しているフィオに向かって眼前のゴブリンが棍棒を振り上げる。

 左腕は伸びきっており、もう一度剣を振るうことはできない。


「なら……!」


 右手で剣の柄に掌底をくらわす。

 打ち出された剣がゴブリンの両眼を貫く。

 安堵している余裕はない。左側から襲い掛かってきた二体のゴブリンは既に攻撃態勢にはいっていた。


「喰らいやがれ……!」


 持ち主が力尽きたことにより、手からすりぬけて自然落下してきた棍棒を空中でキャッチし、そのまま投げつける。

 棍棒は手前のゴブリンの胴体に直撃した。その反動で飛ばされたゴブリンは斜め後ろにいるゴブリンを巻き添えにして倒れる。


「これでしまいだ!」


 重なるようにして倒れているゴブリン二体の息の根をとめる。

 危なかった……! 今のはマジでやられるかと思った。

 ホッと安堵する。安堵してしまった。


「しまっ……!」


 背後にプレッシャーを感じて振り返ると他のゴブリンより一回り大きく、肌の色が赤みがかっている何かが血で汚れた棍棒を、今まさに俺へと振り下ろさんとしていた。

 狙いは俺だったのか。さっきの六体は囮か。

 棍棒が眼の前に迫ってくる。一撃でやられることはないかもしれないが、致命的な隙を作ってしまう。帰還石を持っている俺がやられたらフィオ達も危ない。

 どうにかしないと……! 

 だが、切っ先を下ろしてしまった剣は追いつかない。唯一できたことは、反射的に右手を上げることだけだった。

 それが、運命を分ける。


「ッ!」


 突然の出来事に思考が停止してしまう。

 俺は呆然と自分の右手を見る。右手は青白いオーラに包まれていた。


「……俺、魔法を?」


 一風変わったゴブリンの攻撃が当たると思った瞬間だった。

 上げられた右手が光ると同時に、光線のようなものをだして棍棒もろとも大ゴブリンの両手を消滅させたのだ。

 自覚はないが、あんなの魔法しかありえない。


「あっ」


 ようやく我に返り、周りの光景を確認する。

 あの大ゴブリンがリーダーだったのか、ゴブリン達は混乱しているようだ。

 それが災いした。統制を失ったゴブリンは再び好き勝手に行動を始めていたのだ。

 一体のゴブリンがフィオへと飛びかかる。声を出す時間もなかった。


「ハッ」


 だが、運命の神様は俺達にほほ笑んでくれた。

 攻撃を喰らう直前に眼を開けたフィオがゴブリンを一刀両断する。


「フィオ!」

「すまない。待たせた」


 大量の白銀のオーラに包まれたフィオが剣をゴブリン達へと向ける。


「これで終わりだ!」


 ――封印の氷地獄(コキュートス)――


 魔法名が耳に届くと同時にフィオの全身から放たれた青い光が、線を引くように部屋全体を侵食して行く。

 光は瞬く間に広がり、次の瞬間には俺とフィオを除く全てを氷漬けにしていた。

 先ほどまで絶えまなく響いていたゴブリンの声がなくなり、部屋は沈黙を保っている。

 ごくりと唾を飲む。あまりの威力に眼を見開いてフィオを見る。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 この魔法は負担が大きいのだろうか、膝をついて呼吸を乱している。

 無理もない。これだけの規模の魔法だ。リスクなしに使える方がおかしい。


「大丈夫か?」

「……少し休めば、大丈夫だ」

「良いから良いから」

「でも、二人を探しに行かないと……」


 自分の体調を顧みないフィオにため息をつく。


「その前に息を整えるが先だ」

「しかし「フィオ」……わかった」


 立ち上がろうとしたフィオを強引に座らせる。

 部屋全体が凍りついたため気温が低くなってきた。どうやら、どのみち移動しないといけない。

 フィオの息が整ったら上にあがろう。


「音が止んだことだし、もしかしたらレイナ達も階段の近くに来ているかもしれないな」


 そう呟いた時だった。


「ユーヤ君! フィオナちゃん!」

「ユーヤー! フィオくーん! 生きているなら返事してー!」


 噂をすれば何とやら、階段の方から二人の声が聞えた。

 しかし、アイリスの奴め、生きているならとは縁起の悪い。


「おーい! こっちだこっち!!」

「ユーヤ君!」

「ユーヤ! 生きていたんだね!」

「生きてるっての!」


 ビシッとアイリスの額にチョップを入れる。眼に溜まっている水分については触れないでおいてやる。


「良かった……。二人にもしものことがあったら、私……!」

「レイナ……」


 安心したのだろう。レイナは両手で顔を覆う。

 俺はそんな彼女を頭を優しくなでる。


「悪い。心配をかけた」

「…………本当ですよ」


 すすり泣いていたレイナがすねましたと言わんばかりに顔をそっぽに向ける。

 気持ち頬も膨らんでいた。


「いきなり二人して囮になるから逃げろって」

「うーん、でもまあ、申し訳ないけど正しい判断だったろ」

「僕とレイナは多数を相手することはできないからね」


 軽く言っているように聞こえるがアイリスの表情も優れない。

 この事実を重く受け止めているのが丸わかりだ。

 男女平等に文句はないが、現時点で実力不足なのだから仕方がない。

 ……逆の立場だったら俺だって素直に納得はできないだろうが。


「まあまあ、そこら辺は帰ってから考えようぜ」

「……そうですね。今は先にやるべきことがありますものね」

「最深部まで後何階なんだろうね?」

「これだけの規模の敵が配置されていたんだ。もうそろそろゴールだろう」


 攻略を続ける気が満々な三人に唖然とする。

 今さっき明らかにおかしな戦闘があったのだ。とりあえず帰還するだろ、普通。


「では、フィオ君が回復したら向かいましょう」

「オッケー」

「ちょ、ちょっと待てよ!」

「どうしたんですか?」


 慌てて会話を止めに入ると三人が不思議そうに俺を見てくる。

 おかしいのは俺なのだろうか。


「どうしたんですかって、さっきのゴブリンの群れを見ただろ? 明らかにおかしかったじゃないか。なのに、まだ続けるってのか?」

「ユーヤの方こそどうしたの?」


 俺の疑問はアイリスによって疑問として返って来た。他の二人は何も言わないがアイリスと同じ意見らしい。


「いや、ここは一回学園に戻ったほうが良いんじゃないかって……」

「確かに君の意見はもっともだ」

「だ、だろ!」


 まるで俺がおかしいような気がしてきて尻すぼみになってしまったが、フィオが肯定してくれたことで勢いを取り戻す。

 良かった……。とりあえず的外れなことは言っていないみたいだ。


「だけど、リスクもある」

「え?」

「確かにあの量はおかしかった。僕らはそう思った。だけど、ローランス学園は戦場に出ることを前提に魔導師を育てている。だとしたら、気を引き締めさせるために最初に厳しい場面を用意した可能性もあるんじゃないかな」

「そ、それは、そうだけどさ……」


 やはり、俺と三人の間には明らかな考えの違いがあった。

 これは、この三人が変わっているのか。それとも、こちらの世界とあちらの世界の差なのだろうか。


「それに万が一なにかしらが起きているとしたら、下見をした教師たちが見逃しているかな。もちろん、下見から本番までのわずかな時間に変化が起きた可能性もある」


 下見は三日前に行われたと聞いていると続ける。

 確かにフィオの言い分はもっともだ。詳しくは知らないが、試練の洞窟の全容は学園関係者は把握できるらしい。

 本当に何かが起きているのなら見逃したとは考えにくい。

 理性では理解できなくもないが、本能が行くのをやめろとささやく。

 ふと、アリシアさんの言葉を思い出す。


『アイリス達をよろしくね……』


 …………あれ? これって、学園側が何かしらを仕掛けている証なのではないだろうか。

 俺はフィオ、レイナ、アイリスの顔を順々に見る。

 騎士の名門カーティス家の一人息子、魔導師の名門フィニアン家の一人娘、どこまで有力かは知らないが貴族の娘、プラス一般人。

 俺のことは置いといて、エリート揃いだ。となると学園側も期待するわけで、だからこその厳しい試練だとしよう。そうすると、レイナとアイリスの実力を知っているアリシアさんは心配するはず。

 強引だが筋が通らないわけではない。俺は巻き込まれただけになるが。

 だが、勘が帰れと告げている。今までの実績を考えたら俺は自分の勘を信じたいけど……。


「それじゃあ、また変な敵とか大量のゴブリンが出てきたら帰るってことで良いんじゃない?」


 中々口を開かない俺を見かねてか、アイリスが間に入ってきて折衷案を提示してきた。


「そうだね。流石にもう一度同じことが起きたら厳しすぎる。僕はそれで構わないよ」

「私も賛成です」

「ユーヤ、どう?」


 アイリスの案に三人が賛成の意を表す。こうなってしまったら俺だけが反対するわけにもいかない。


「……わかった。それでいこう」


 未だに警報をならす勘を無視し、俺はアイリスの案に頷くのだった。

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