スイーツ男子だったりする(嘘

 縁(えん)というものは一度できれば中々に効力を発揮するものらしい。

 例えば、図書館で出会った翌日、通学途中のレイナに会い、一緒に登校することになったり、たまたま昼飯を中庭で食べようとしたらレイナが先にいたり、教室でダベってから帰ろうとしたら勉強を終えたレイナとはちあわせて下校を共にしたり、挙句の果てには休日出かけた先の店で出会うことになるとは。そろそろ偶然という言葉で片付けるのは難しい。


「よっ、何だか最近良く会うな」

「ユーヤ君。ふふっ、そうですね。ついこの間まで一度も喋ったことなかったのに」

「ハハッ、確かにな」


 白を基調としたシンプルなワンピースは余計な飾り付けがないためレイナの美しさを引き立たてている。

 普段は学園指定の制服しか見たことがなかったので私服姿は新鮮だ。


「やっほー! ユーヤ!」

「おう、アイリス。今日も元気だな」


 身長は今はここにいないフィオを含めて最小、150cmあるかないかの小柄な女性――アイリス・コーンウェルはレイナの幼馴染だ。 

 俺達とはクラスは違うが、レイナと出会う時は大体一緒にいたので仲良くなった。

 髪の長さはミディアム、茶色の髪はふわふわとしていてさわり心地が良い。眼も大きく、性格も天然で人懐っこいため小型犬のような子だ。

 ……同級生なんだけど、どうしても子供扱いしてしまい、たまに怒らせてしまう。スタイルは身長の割にそこそこ良いのだが、レイナがいるため霞んでしまう。


「元気が取り柄だからねー!」

「おお、偉いぞ。子どもはそうでなくちゃな」


 右手をピースの形にして胸をはるアイリスの頭をなでる。

 いつも通り良いなで心地だ。動物好きの俺としてはぜひとも飼いたい。……おっと、本音が。


「……なんだか寒気が」


 俺の思考を感じとったのかアイリスが両手で体を抱きしめる。

 流石は小動物。素晴らしい本能だ。


「うりゃりゃりゃ!」

「うにゃー」


 (俺への)ご褒美とばかりに更になでる。

 猫みたいな鳴き声をあげるアイリスはとても可愛い。はっ、これが恋!?


「あー、アイリス最高だー。何が最高かって聞かれたら困るけど最高だー」

「そこはなで心地で良くない!? 困らないでよ!」


 ほんわかな気持ちで繰り出した雑なボケにもしっかりとツッコミをいれてくれる。

 冷静なツッコミを繰り出すフィオやどこかずれたレイナと違って俺の望む反応を見せてくれるのだ。


「ナイスツッコミ! アイリス……の髪、最高! 愛してる! 結婚して!」

「ちゃんと聞えているからね!? というか髪しか愛していないの!!?」


 しっかりと小さく言ったところも拾ってくるアイリス。可愛い女の子がハイテンションツッコミ……いける!


「HAHAHA☆ 馬鹿だな。そんなの冗談に決まっているだろ。ちゃんと愛しているよ……」

「最初の変な笑いは置いとくとして。ユ、ユーヤ……」

「アイリス……」


 見つめ合う俺とアイリス。

 きっと少女漫画ならバックに薔薇でも描かれている良い雰囲気だ。

 心なしかアイリスの頬が赤く染まり、眼もうるんでいる。

 両手を胸の前で組み、上目づかいで見つめてくることも相まって、とても可愛かった。

 ドキッと心臓が飛び跳ねる。まだ知り合って一週間もしないけど、こんな表情はみたことがなかった。 

 俺に向けられる視線に何が込められているかはわからない。けれど、とても緊張していることだけはわかった。


「俺は――」


 もう我慢はできなかった。

 この胸にあふれる想いを眼の前の彼女にぶつけたい。ただ、それだけだった。


「俺は……お前のツッコミも好きだーーーーーッ!!!!!!!!」

「だと思ったよーーーーーッ!!!!!!!!」


 俺の心からの告白にアイリスも間髪いれず答えてくれる。

 俺達は言い終わるとハイタッチをかわす。(背の関係上、俺はミドルタッチだが)


「「いえーい!」」

「いやー、流石はアイリス! 完璧なツッコミだぜ!」

「えへへ、それほどでもあるかなー。ユーヤも告白する演技上手かったよー!」

「へへっ、さんきゅー! アイリスも可愛かったぜ!」

「うへへ、そう? ユーヤもカッコ良かったよ!」

「ぬふふ、そうか? アイリスこそ「いい加減にしなさい」あー、良いところだったのに」

「レイナのいけずー」


 褒めあっているようで、実のところ褒められたいだけの俺とアイリスの無限ループする会話にレイナが割って入ってきた。

 そのことに対して文句を垂れるが、それは形式的なもので、むしろ止めにはいってくれるのを待っていたのだ。 


「もう。仲良いのはわかりますけど、ほどほどにしないとダメですよ。街中なんですから」

「つまりは学園内ならいちゃラブ――もといボケまくって良いと!」

「やったね、ユー……じゃなくて兄じゃ!」


 隙を見つけたら、即座にボケを挟み込む俺たち。

 息のあった素晴らしいコンビだ。


「「いえーい!」」


 そして、再びハイタッチをかわす。

 人生これほどまでにやりやすい相方がいただろうか。いや、いない!


「アイリス! やっぱり俺「ユーヤ君」……俺は暇だからぶらぶらしていたんだけど、二人はどこかに行く予定だったり?」


 溢れる情熱はレイナの冷たい一声の前にかき消される。

 急激な方向転換を強いられたため、とっさに出てきた話題は今更といえば今更のものだった。


「僕達はクレープ食べにきたんだよー」

「クレープ?」

「クレープってのはね。甘くて、ふわふわで、一口食べると幸せになれる食べ物なんだ!」

「おおっ! 見事なふやけ顔、表情だけで美味しさが伝わってくるぜ!」


 よっぽど好きなのか、とろけきった表情をうかべるアイリス。

 クレープへの愛がガンガン伝わってくる。


「んで、どんな食べ物なん?」


 アイリスを虜にしていることしかわからなかったので、本命に説明を頼む。

 もとよりまともな説明などアイリスには期待していない。


「そうですね。牛乳、卵、小麦粉、砂糖をまぜた生地を薄くのばして焼いたものに、果物とかを挟んで食べる、というものです」

「ほうほう。故郷のと変わりなさそうだな」


 あまり食べたことはないので調理法は知らないが、薄く伸ばして焼いた生地をつかい、女性が好きそうなのと考えると地球と同じ物と考えて間違っていないだろう。

 リンゴと言い、名称や形状はあまり変わらないようだ。ありがたい。


「ユーヤ君は確か東方の出身でしたよね?」

「そうよー。まあ、故郷は田舎だから皆の思っている東方のイメージとは違うかもしれないけどな」


 さらりと嘘をつく。田舎出身と言ったのは、東方のことを聞かれても知らないと言い逃れしやすいからだ。

 フィオの時もそうだったが、友人をだますのは心が痛い。だからといってどうしようもないのだが。


「国は違えど同じ食べ物が作られているなんて面白いですね」

「確かにな。やっぱ同じ種族って似た考えをもつのかね?」

「どうなのでしょう? 環境とかも関係するみたいですし」

「あー、それは関係するだろうな。いやはや、何だか凄い話だな」

「そうですね」


 日本でも外国でも、そして異世界でも似たような食べ物が作られる。

 色々と違うようで、やはり根っこが同じなのだろうか。


「ねーねー、話してないではやく行こうよー」


 俺とレイナが知的(?)な会話をしていると、妄想から帰って来たアイリスが腕を掴んでくる。

 見た目と合わさって、その姿はまるで親にねだる子供だ。

 俺とレイナはそんなアイリスの可愛らしい姿に一瞬視線をかわし、ともに笑いだす。


「何で笑っているの? それよりはやく!」

「わかったわかった。わかったから腕をそんなに引っ張るなって。行こう、レイナ」

「はい」


 いきなり笑いだした俺たちに怪訝な表情を浮かべるも、クレープの優先順位の方が高いらしく、実力行使にでるアイリス。

 様子や見た目と違ってその力は結構強く、俺は白旗をあげ、歩みをはやめる。


「ここだよ、ユーヤ!」

「……おいおい、また凄いな」


 ほどなくしてクレープが売っている店についた。

 こちらの世界にはデパートやスーパーのような色々な物が取りそろえられている店というのは少ないようで、基本的には専門で売られている。

 またファーストフード店やレストランのように中で食べられると言った形式も主流ではない。そのためクレープを買ったお客さん達は近くのベンチに腰かけて食べている。

 問題はそのことではない。

 生来、行列というものは素晴らしい商品を販売するお店の品を買いたい人が多数いた場合に起こる現象だ。完全なる偏見だが、甘いもの――クレープのような食べ物は女性に多く求められる。

 そのため、眼前に広がる光景は当り前と言えば当り前であった。


「ここのクレープは評判ですからね。今日は並んでいる人が少なくてラッキーです」

「これで少ないの!?」


 眼の前の長蛇の列――しかも、ほとんどが女性――が普段と比べると短いという事実に驚愕を隠せない。

 一度、幼馴染に誘われて人気スイーツを食べに行ったことがあるのだが、その時の列と同等か、それ以上だ。

 俺の人生史上最長の列はレイナやアイリスにとって長いものではないらしい。

 その証拠に二人は今日は早く食べられるね、といった会話をしている。

 二人は慣れているかもしれないけど、俺はあまり並ぶのが好きじゃない。食べること自体は好きなのだが、そこまで繊細な舌を持っているわけではないからだ。

 質より量。素晴らしいものを少量よりは、そこそこのものをたくさん食べたい年頃なのだ。

 まあ、レイナやアイリスは名家のお嬢様だし、腰も細いから量より質と言われても違和感はない。

 そんなことより今は、これから繰り広げられる苦行から逃れる術を探すのが先決。自慢じゃないが、我慢は好きくない。何が悲しくて休日に並ばないといけないんだ。


「あっ、そういえば、俺「じゃあ、並びましょうか」……へーい」


 出鼻をくじかれる、という日本語がある。

 ありもしない用事でこの場を去ろうとした俺は、レイナの純粋な笑顔に嘘を続ける勇気をもてなかった。

 ちなみにアイリスは既に列の最後尾で眼をらんらんと輝かせている。

 まあ、後ろ向きでいても良いことないし、ここは二人とおしゃべりできてラッキーと思っておくか。


「うへへっ、待っててねー! すぐに行くからー!」

「どこへ行くんだよ」

「ふふっ、アイリスはクレープが大好きなんですよ」


 うん、大好きなんだろうね。もはや全身から好き好きオーラがでているもの。

 テンションがふりきれ、わけがわからないことをいうアイリスに呆れていると、その様子をほほ笑みながら見ているレイナがフォローをいれる。

 レイナさん。とても優しいまなざしなんですが、あなたの視線の先にいるアイリスさんヨダレたらしていますよ。


「アイリス」

「ぐへへ、クレープちゃ……なに?」

「ダメですよ。ちゃんとしないと」


 そろそろ女性としてアウトな顔になってきたなと思っていると、レイナが取り出したハンカチでアイリスの口元を拭く。

 もはや犯罪者のそれに近づいていたクレープを求める表情も元に戻る。


「にゃははっ、クレープが待ち遠しくて」

「もうすぐ買えますからね」


 容姿も含め、誰がこの二人が同い年の幼馴染と思おうか。

 知っている俺でさえ何だか姉妹みたいに見えてくる。

 昔からアイリスが自由きままにふるまい、それをレイナが優しく見守り、時にはフォローしていたのが眼に浮かぶ。

 でも、レイナも結構天然なところがあるんだよな。恐ろしい事をするアイリスを見てもフォローするどころか、笑顔でいるような気もする。

 しかし、もうすぐって(少ないらしいけど)結構人いるよな。


「んー、何分ぐらいかかるんだ」

「この長さでしたら一時間くらいですかね?」

「へー、そんぐら……一時間!?」


 提示された時間が想定外だったため、脳が理解するのに時間がかかった。

 確かに遊園地などのアトラクションで一時間以上並ぶことがあることは知っている。けれど、(そこまで大がかりなものではないと思われる)クレープを買うのにそこまで時間がかかるとは全く思っていなかった。

 もしかして地球のクレープとは違うものなのか? 一個一個作るとしても掛かりすぎだろ。


「はい。多分、それぐらいかかると思います」

「最長は二時間くらいだったっけ? いつもは一時間三十分はかかるんだよ!」

「……うへ、それなら一時間は早いわな」


 顔が引きつり、声が沈んでしまうのを許してくれ。

 こういう価値観は人それぞれなのはわかってはいるけど、もはや尊敬の域に達するよ。


「喋っていたらすぐだって!」

「そういうもんか?」


 アトラクションや人気店の行列に並ぶ人は口を揃えてそう言うのだ。

 授業の間の小休憩の時とかは、友達と話しているとあっという間に過ぎてしまうように感じるから、あながちウソではないのだろう。


「そういえば、最近良く絡みはするけど、長々と話すことって一度もなかったな」

「小休憩とか下校の時ぐらいですからね」

「レイナの家は寄り道とかに厳しいもんね~」


 レイナは苦笑するだけで何も返さない。

 家庭の事情については噂になっている程度しか知らないが、お金持ちもとい貴族の一人娘ともなると色々と大変なのだろう。

 一般家庭だったとしても可愛いから心配になるけど。


「俺の家は逆に放任主義だったから、よそ様に迷惑をかけない限りは好き勝手にやれだから想像もつかねーや」

「何かわかる。ユーヤ、自由きままだし」

「自由きままさだったらアイリスも中々レベル高いと思うぜ?」

「ざーんねーん! アイリスちゃんはこれでも昔は病弱だったからいっつも家にいたんだよ」


 朗らかな笑顔からサラリと語られる過去の話。

 今の様子からするともう体は治ったのだろうが、そんなイメージなんて全然なかったから驚いた。

 ただ、アイリスを見ているレイナの表情が気になる。昔を思い出しているだけかもしれないが。


「昔は、ってことはもう大丈夫なのか?」

「えへへ、今のアイリスちゃんを見て体が弱いって誰が思うよー!」


 列の前後の人に当たらないように気を付けながら、アイリスはくるりと一回転してみせる。

 非常に軽やかな動きだ。とても病弱とは思えない。


「ハハハッ、確かにアイリスが病弱とか欠片も思った事なかったわ」

「でしょ~!」


 更に反復横とびまではじめたので、わかったわかったと頭を撫でまわす。

 言葉や力で止めるより、これが一番手っ取り早いのは既に学習済みだ。


「うにゃにゃ~」

「なははっ! まんま猫じゃねぇか!」

「本当、猫みたいですね」


 猫だ猫だとは思っていたけど、ここまでくると笑ってしまう。

 人懐っこさは犬だが、言葉が猫っぽい。人懐っこい猫でなのか、猫っぽい小型犬なのか。

 レイナも同じ気持ちなのか笑っている。

 だが、アイリスとしては納得がいかないらしく俺の手を頭の上からどかす。


「僕そんなに猫っぽくないもん!」

「いやいや、どっからどう見ても猫だったっての。なあ、レイナ」

「そうですよ。どこからどう見ても猫でした。ねぇ、ユーヤ君」

「ちがーう!」


 両手を高々と上に突き上げて叫ぶ様は非常にお子様っぽい。


「違うって何がだよ」

「ユーヤが悪い!」


 逆ギレかよ!? 何で俺に責任が回ってくる。意味がわからん……。

 そんな思考が顔にでていたのか、アイリスはキッと睨んできた。

 まあ、睨まれても全く迫力はないんだけどね。

 おー、よしよしーってからかってやろうか。噛まれそうだからやらないけど。


「噛まないよ!」

「何で俺が思っていたことを……! ハッ、もしや読心術をマスターしているというのか!?」

「思いっきり言っていたからね! っていうか、わざとでしょ!」

「ぬぬっ、そこまでバレているならしょうがない。教えてやろう! わざとだ!」


 後半はしっかりと胸を張り、尚且つドヤ顔で言い放つ。

 小学生の時代から得意とした十八番のからかい方だ。


「む~! ユーヤ、話が進まないから邪魔しないで!」

「えー。だって、アイリスが俺……ユーヤのせいにするから~」


 くねくねと体を揺らしながら、かつアイリスの喋り方を真似してみる。

 真似と言っても全然似ていないんだけどな。


「……ユーヤ、噛むよ」

「心の底からごめんなさい」


 ちょっと涙目でにらんでくるアイリスに速攻で頭を下げる。

 もちろん謝罪の気持ちを表すために九十度だ。俺ぐらいになれば、呼吸するごとく綺麗なおじぎができる。更に上の段階として伝家の宝刀――土下座もあるが今回は必要なさそうだ。

 まあ、それだけ怒らすようなことをしてきたってわけで、全然ほめられたものじゃないのだが。


「それで、何でユーヤ君のせいなんですか?」


 一連の流れが終わったのを見計らってレイナが本題へと戻す。


「あっ、うん……。えーっと、ね。ユーヤがなでるの上手いからだーって……」


 真剣な表情で見つめてくるレイナから視線をそらし、歯切れ悪くボソボソと喋る。

 俺も似たタイプだから非常にわかるのだが、こういう時って冷静に対応されたり、流れを逃すと途端に言いづらくなるものだ。


「それだけですか? それならユーヤ君は悪くないと思うんですけど」

「うん……。まあ、そう、だね」


 またレイナさんは少々天然らしい。

 クレアさんのように全てにおいてぽわぽわしているタイプと違って、たまにどこか抜けているタイプなのだ。

 この間、どこからかやってきた犬みたいな生物がレイナの席で寝ていたことがあったのだが、その時、真剣な表情で「一緒に勉強したいんですかね? だったら、この子の席をつくってあげないと!」と提案してきたので俺は笑いを堪えるのが大変だった。

 クラスでやらかしたのだから、もちろんクラスメートも見ていたわけで、未だ積極的に絡んでくる人はいないものの前よりは近寄りがたいイメージは薄まったらしい。

 元々、自分を卑下するから絡み辛いといった程度であって心底嫌われているわけではない。


「ダメですよ。ユーヤ君のせいにしちゃ」

「はーい……」


 力ない返事をするアイリスにドンマイの意味を込めて同情のまなざしを送る。

 すると、慣れているから大丈夫……、との返信がきた。あくまでアイコンタクトなのであっているかは保証できない。


「ほら、ユーヤ君に謝りなさい」

「うにゃ。ごめん、ユーヤ」


 こちらに身体を向かせ、謝るように促すレイナの姿はまさしくお母さん。

 俺としては唯のふざけあいなので謝罪などいらない。俺もさんざんいじっているし、そういうノリなので全く気にしていない。

 この場で一番真剣なのが当事者ではないレイナというのがシュールだ。


「いや、俺もさんざんからかっていたし、気にするなって」

「ユーヤ君がそう言うなら……」

「そういえばさ! 二人ってもうパーティー決まった?」


 強引に話題を変える。

 とっさの行動だったので出てきたのは学園の話題だ。


「パーティー、ですか……」

「ユーヤ……」


 だが、触れてはいけない話題だったとすぐに気づく。

 当り前だ。何故なら、彼女はパーティーを組むほど仲の良い友達がいない。

 今回のイベントは同じ学年であるならクラスは関係ないとはいえ、十分予想できた事態だ。

 だったら、俺達と組もうぜ、と言えば良い。ピンとくる人がいないとフィオもまだ決めかねているわけだし、もう一週間しかないのだから勝手に選んでも怒られる筋合いはないはず。

 ……というか、一度聞いたのだ。レイナとアイリスと組むのはどうかって。

 だが、反応は芳しいものではなかった。

 俺としては学年有数の魔力の持ち主であるレイナや上位らしいアイリスはフィオにぴったりだと思ったのだが、何かしらひっかかることがあるらしい。

 フィオの合う人で、と任せている手前ゴリ押しすることもできなかった。


「私たちは、まだです……。ユーヤ君は決まりましたか?」

「あー、俺はフィオに任せているからな! まあ、誰かしら探しているんじゃないかな?」

「そう、ですか……」


 すがるように聞いてきた彼女は俺の返答に表情を曇らせた。

 隣のアイリスもチワワのように、丸い眼を切なげにうるませて訴えてくる。

 …………俺が巻いた種だ。説得が大変そうだけど頑張るか。


「でも、誰か良い人がいるなら言ってくれとも言われているんだよな」

「「えっ?」」


 声と表情をハモらせる二人に俺は満面の笑みを浮かべる。


「だからさ、良かったらだけど俺達と一緒に組まないか?」


 返事は聞かなくてもわかった。



 余談だが、この五十分後にやっと手に入れることができたクレープはとても美味しく、もう一度列に並ぶか真剣に悩むのだった。

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