最強の力を手に入れたが、使いこなせない上に異世界は化け物だらけ。それでも案外やれているし、やっぱりこの力はズルい。そんな俺が魔導師学園でハーレムを作っていると地球の幼馴染が激おこだ
@kabakaba
第一章 流転の軌跡
異世界転移は突然に!?
祖父が亡くなった。
両親も親戚もいない俺の唯一の肉親であり、世界で一番尊敬している人だ。
……いや、もうだったと言うべきか。
周りの手伝いもあり、何とか葬式を終えた俺は居間で寝転がる。
閑静な住宅街にかまえる一軒家は住人を一人失ったためか、酷く静かだ。
二人が暮らすには少々広いが、祖父も俺も騒がしい方なので家の中は笑い声が良く響いていた。
ただ、いくら騒がしい方と言えど話す相手がいなければ口を開く理由はない。
「……腹、へったな」
誰に言うでもなく呟く。
別に耐えられないほどお腹がすいたわけではないが、眠気やご飯をつくるめんどくささより空腹が勝った。
「えっと、確かカップ麺があったよな」
冷蔵庫の中身は記憶が正しければ、買いだしをしていないためロクなものがない。
夕飯のことは後で考えるとしてストックしておいたカップ麺を取り出す。好物のとんこつ味だ。
電気ケトルで沸かしたお湯を注ぎ、蓋をする。後は三分ほど待つだけでお昼御飯の完成だ。
アラームをセットし、三分間何をするでもなく座っている。
ほどなくして完成をつげる音が耳に届く。
「いただきまーす」
ズズズッと麺をすする。
うん、美味い。流石に店とかには負けるだろうが、値段や手頃さを考えたら素晴らしい。
腹がふくれれば思考もプラスに働く。先ほどまで感じていた寂しさは少しだけおさまっていた。
「ごちそうさまでした」
スープまで飲みほし、食事を終えた。
身体に悪いのはわかっているだのが、やめられない。
容器を片づけ、冷蔵庫から飲み物をとりだしたところであることを思いだした。
「そういえば、蔵のことを言っていたな」
祖父の部屋を掃除している時に発見した遺言は唐突の入院だったためか、途中までしか書かれていなかった。
と言うか長々としょうもないことを書き連ね、本題に入った途端に筆が途切れているなど我が祖父ながら呆れる。
秘蔵の(何が秘蔵かわからないが)プリンは泣く泣く譲るとか、酒屋のゲンちゃんから300円借りているとか、女性の落とし方~これであなたもモテモテに!~などなど。
……まじで何を書いているんだよ、じいちゃん。
ちなみにプリンはしっかりと食べており、ゲンちゃんに借りていた額は1000円で、女性の落とし方は「女性がピンチになった時にさっそうと現れて相手を倒す!」みたいな漫画でしかありえないだろうといったシチュエーションが前提であった。
豪快と言うか、もはやアホとか馬鹿とか頭が痛くなる事ばかりやる人。そんな人柄だった。
「感傷に浸ってても仕方がないよな」
故人のためを思うのなら、尚更明るくあるべきだ。
だが、重要な本題が『色々と書いたがここからが本題じゃ。わしが死んだら蔵を』で終わっていたことについてはあっちで問い詰めてやると心に決める。
そんな未来のことはひとまず置いといて、途切れてるとはいえ今までほとんど使ってこなかった蔵をとくれば――。
「掃除してくれってことだよな。じいちゃんが昔使っていた道具とかをしまっているらしいし」
祖父が昔何をしていたかあまり知らない。ものごころついた時には特定の仕事についていなかったからだ。
一時期、とても気になったので聞いてみたのだがはぐらかされ、ならばと写真を探したのだが一枚もなかった。
……そういえば小学生の時だったか。それまで蔵は危ないから入るなと言われていたが、かくれんぼをしていた時に初めて入り込んだ。
しかし、その時の事が思いだせない。入ったのがばれ、凄く怒られた記憶ならあるのだが。
それ以来、蔵には近づいてない。よほどトラウマだったのか遺言を読むまで存在を忘れていた。
思いだしたことで好奇心がむくむくと湧いてくる。早速行ってみよう。
「うーん、このくたびれ具合は掃除が大変そうだ」
久方ぶりに見た蔵はイメージよりだいぶくたびれていた。
そりゃ、最後に見たのは十年ほど前だしな。むしろ、全く変わっていない方がおかしい。
扉についている南京錠――珍しいタイプなのか初めて見る形だ――の鍵は遺言が入っていた棚にしまわれていたものを試す。
――ガチャ――
これで開かなかったらどうしよう、との心配は杞憂に終わった。
運の良いことにサビてはいなかったらしい。あまり力をいれずにあけることができた。手入れされていたのだろうか。
扉の方も少し開け辛い程度で問題なく開いた。
「思ったよりは汚くないな」
中は想像していた状況よりはるかに良かった。
これなら掃除は楽そうだ。祖父がたまにやっていたのかもしれない。
キョロキョロと見渡しながら歩く。大雑把な祖父にしては珍しく整頓されている。
色々な物があるなか眼をひくのは鎧や刀剣類だ。どちらも観賞用にしては汚れている。まるで使っていたみたいだ。
刀剣類を所持するには許可を得ないといけないはずだが……祖父を信じよう。
ふと、近くにある剣道(剣術?)の師範代らしき人が、祖父に教えを請うてきたことを思い出す。もしかして、その筋では有名だったとか。
単純だが、剣や鎧といったものは非常に男心をくすぐる。
小さい頃、ヒーローの真似をしていたという経験は結構な人にあるのではないだろうか。
「あれ?」
一番奥にたどりつく。整頓されていたとはいえ、様々な道具で埋め尽くされていた今までとは違い、この空間だけ綺麗に机しかなかった。
……いや、正確に言えば木の机とその上に置いてある本だけだ。
B5判程度のそれを見た感想は赤い。外観のデザインは西洋風のように感じる。
タイトルは――。
「英雄の記憶?」
……あれ? 何で俺、読めるんだろ。
日本語でも英語でもない、今まで見たことがない文字の羅列をすんなりと読むことができた。
自慢ではないが、日本語と英語ですら満足に習得できておらず、他の言語など習った事すらない。だから読めるはずがないのだ。
もう一度表紙のタイトルを見てみる。やはり、『英雄の記憶』と書かれていた。
おかしな現象に内心首をかしげながらパラパラと本をめくってみる。
「勇者アレン。近接戦、中距離戦、遠距離戦何でもこなせる万能型。補助魔法や回復魔法も操ることができる。何でもできる反面、突出した能力はない」
鎧に身をつつみ、剣を片手にドラゴンらしき生物と戦う青年が描かれたページに書いてある文章を読む。量的にもっと書いてあるはずなのだが、何故か一部しか意味が理解できない。
知らない言語を読めたかと思えば、一部しか理解できない。不思議なことだらけだ。
その後も勇者やら調律者、守護者などといった人たちが描かれている。そのどれもが虫食いの様に一部しか読めなかった。
いや、知らない言語なんだからわからないのが普通なんだけど。
「……え?」
適当にめくっていた手がラストページ手前でとまる。
名前が読めたから止まったのもあるが、それ以上に驚きの理由があった。
刀片手にいかにもゲームにでてきそうな魔王の風貌をした化け物と戦う一人の男。見た目は相当若いが、小さいころからずっと見てきた俺には一目でわかった。
「じい、ちゃん……」
救世主――藤堂龍之介とうどうりゅうのすけ。異世界から世界の危機を守るために召喚された青年。身体能力、魔力共に優れており、近もしくは中距離戦を得意とした。補助魔法、回復魔法はあまり得意ではない。
■■■年、アースライト王国にて召喚される。▲▲▲年、グリーンガーデンをゴブリンの群れから救う。●●●年レイン公爵を…………★★★年、魔王を死闘のはてに封印する。◆◆◆年、帰還。
やはり、祖父の名前だ。しかも、このページは読める個所が多い。
いや、それより何故祖父が描かれているのだろうか。現実的に考えれば祖父か、祖父の知り合いが面白半分で作ったといったところだが、謎の言語のせいか心から賛同できない。
じゃあ、本当に祖父は異世界に召喚されて魔王を倒した? こちらは理性で信じられない。何故なら、そんな話ありえるはずがないのだから。
混乱しながらも次のページを開く。
左側には今までと同じように説明らしき文章が書かれていたが、右側は今までと明らかに筆跡が違う。
慣れ親しんだ筆跡は、日本語でページ一面に文字を綴っていた。
「じいちゃんの字だ……」
『世界で一番大事な孫、雄也ゆうやへ
この本を読んでいるということは恐らくワシは死んでおるだろう。
まだ生きておるのなら本を読むのをやめるか、ワシを殺せ(冗談だからの?)
冗談は置いといて、本題に入ろう。
前のページに書いてあるワシのことだが、本当のことだ。
詳しい説明はできぬが、異世界は存在する。そしてワシは魔王と戦った。
ワシの死因は老衰と診断されただろう。
だが、本当の死因は魔王の呪いが原因なんだ。
魔王を封じた魔法はワシの魔力を――命を使ったもの。
つまり、ワシが死んだということは魔王の封印はいつ解けてもおかしくない状況にあるということだ。
話はかわるのだが、この英雄の記憶は「traditional ability」――正確に言えばあちらの世界はこちらとは違う言語だから英語ではないのだが……まあ、簡単に言えば血族特有のものだ。
何が言いたいかわかっただろ。
この本は今から雄也のだ。
本当なら教えてやりたいことはたくさんあったのだが、できない理由があっての、許してくれ。
行けば何とかなるはず。
なんせワシの孫なんだからな。
……あちらの世界でお前は真実を知ることができるだろう。
辛いかもしれぬ、苦しいかもしれぬ、何でこんな目にと思うだろう。
そのときワシはそばにいてやることができぬ。
だが、お前の周りには苦しい時に支えてくれる仲間がいるはずだ。
雄也……お前は優しい子だ。
どのような結果になろうとも、後悔しない道を進みなさい。
龍之介』
慣れ親しんだ祖父の声が脳内で再生され、頬を涙が伝う。
意味なんて半分ぐらいわかっていない。恐ろしい内容な気がしないでもないが、そんなことより祖父の俺を心配する気持ちが嬉しくて仕方がないのだ。
いや、何より俺の心を揺り動かすのは――。
「はっ、世界で一番大事な孫って、恥ずかしいっての……」
嬉しくて、悲しくて、苦しくて、でも幸せで感情がまとまらない。
そんなことはわかっていた。祖父が俺を愛していてくれたことなんて。
でも、改めて文字にされたら祖父の笑顔が思い浮かんで涙が止まらない。
じいちゃん……。俺、頑張るよ。
何があるかは想像もつかない。でも、こんなにも俺を思ってくれる人が、一人でもいるなら、やってやる。
辛く、苦しいことがあってもくじけない。前を向いて歩き続ける。
「じいちゃん、天国から見ててくれ」
真実――異世界うんたらは置いといて、これは両親と関係していると思う。
祖父からは両親は俺が生後間もない時に交通事故でなくなったと聞いていた。
しかし、家には両親の写真が一枚もない。写真嫌いと言われればそれまでだが、そもそも両親に関する物が一つもないのはおかしい。
ただ、小学生時代親がいないことでからかわれ、何で両親がいないのと聞いた時の祖父の辛そうな表情が、疑念を無意識のうちに押し殺していた。
そういえば、中学生の時に時期がきたらわかるはず、みたいなこと言われたっけ。
やはり、真実ってのは両親のことだろう。
だが、祖父以外の親族がいないのに誰が教えてくれるのだろうか。
いきなり知らない親戚でもやってきて唐突に真実を語る……みたいな展開になるのかな。
弁護士がやってきてとも考えられるが、その場合は新たな遺書が手元に届くことになる。
どちらにせよ、ピンと来ない。
「……とりあえず戻るか」
そこそこ綺麗にされているとはいえ、所詮は蔵。あまり考え事をするには適さない。
そのためいったん戻ろうと本を閉じた瞬間、まばゆい光が視界を覆った。
「な、なんだ!?」
パニックになり、思わず本を投げてしまった。
咄嗟の行動に視線を投げた方向へと向ける。風もないのに本がひとりでにパラパラとめくれていく光景が目に映った。
ってか、本が光ってる!?
この時、俺の脳裏には祖父のメッセージにあった「魔法」というワードが浮かんだ。
まてまてまて! 疑っていたわけではないけど、本当に魔法なんてあるのかよ!?
起きていることだけなら現代技術があれば可能なのかもしれない。だが、オーラというのだろうか、何か大きな力が本からでている気がする。
「……どうせ考えたってわからないんだから出たとこ勝負だ!」
理性と本能が相いれないため考えることを放棄し、何が起きるかを待つことにした。
それを察したわけではないだろうが、自動的にめくれていた本があるページを示す。
同時に光も弱まったので近付いて覗き込む。
「エレシス?」
読むには読めたが聞いたこともない名前だ。一体なんのことだろう。
そんな疑問は再び放たれた強烈な光によって吹き飛んだ。
ついでに言えば意識も吹き飛んだのだった。
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