焃の剣

@kimurarand

第1章 誕生

第1話 門出

 夜明けの空が赤く染まった日だった。世界一の指導者が、世界一の軍師が、世界一の科学者が、世界一の荒くれ者が、世界一の獣が、世界一の大馬鹿者が、同年同日同時刻に同じように感じ取った。

(何かが来る.......)

 世界一の指導者は、国力の増強を図った。いずれ来るそれに奪われないように。

 世界一の軍師は、世界中の情報を集めた。いずれ来るそれに対抗出来るように。

 世界一の科学者は、研究に研究を重ねた。いずれ来るそれを確実に見つけるために。

 世界一の荒くれ者は、ひたすらに身体を鍛えた。いずれ来るそれに負けないように。

 世界一の獣は、只々休んだ。いずれ来るそれを待つために。

 世界一の大馬鹿者は、旅に出た。いずれ来るそれに、いずれ来るなら会いに行くために。

 それぞれがそれぞれに準備を始めた。いつ来るのかは分からない。しかし確実に来るそれにを向かれるために。



***

「いい天気だな」

 トアール共和国シュロン領。ポリポリと頭を掻きながらその郊外の道を私は歩いている。荷物は最低限の衣服と研究材料を保管するケース、食料。バックパックはパンパンだ。

 そろそろ風呂にも入りたいなぁ。思えば数週間は入っていない。髪はボサボサでフケも出てきた。自分でも分かるくらいには臭う。街へはどのくらいで着くのだろうか。手に持っていた地図を開いて確認してみた。

「今は大体この辺りだから.......もうすぐなはずなんだが」

 開けた道なのだが、行けども行けども街が見えてこない。人家の1軒もない。これが森の中や霧深い谷の底なら化かされたと思えるのだが。

「なんてったって荒野だからなぁ.......」

 後ろを向いても前を向いても荒れ果てた大地が続く。人はここを怪鳥の荒地と呼ぶ。

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