第20話 普段のままで
適当なベンチに並んで腰かけて、会話もなく海を眺めていた。
これまでは無言で気まずい展開になっても特になんにも思わなかったが、今はなんだかやけに不安になる。
用意してきた話題もこれといった発展もなく、既に弾切れだ。
会話の糸口を探し、なにかないかと辺りを見渡す。
「あそこの観覧車、乗ってみようか?」
本来はデートの締めに使うつもりだった観覧車を指差す。
「先輩が乗りたいならいいですけど」
「よし、行こう!」
幸い観覧車は空いており、すぐに俺たちの番となる。
「おー。いい眺めだね」
「天気がよくてよかったです」
琴梨ちゃんは俺の向かい側に座り、逃げるように遠くを眺めていた。
俺の予定では琴梨ちゃんは隣に座ってくるはずだった。
それにしても今日の琴梨ちゃんからはアレルギー反応があまり出ないな。
克服しつつあるのかと思ったが、たぶん違う。
琴梨ちゃんから『好き好きオーラ』が出ていないのが原因だ。
俺は女の子から好きだという気持ちを向けられると拒絶反応を起こす。
しかし無関心だったり、嫌われている女性に対しては比較的それが緩やかだ。
今日の琴梨ちゃんにアレルギー反応を起こさないのは、きっとそういう理由からだろう。
なにが原因なのか分からないが、今日の琴梨ちゃんは明らかに引いている。
これまでフラれようと努力していたときは好かれたのに、好かれようと努力すると嫌われるなんて皮肉な話だ。
観覧車を降りてから俺達の足は自然と駅へと向かっていた。
「帰ろうか?」
「……はい」
電車に乗っても相変わらず琴梨ちゃんは無口なままだ。
「あの……怒ってる?」
「怒ってません」
「絶対怒ってるって」
琴梨ちゃんは視線を斜め下に向け、面白くなさそうな顔をした。
「なんか今日の先輩、怖いです」
「怖い?」
「レストランが混んでることに怒るし、船に間に合わなくて機嫌悪くなるし……私がトイレに行きたいってわがままいったときもムッとしてました」
「ムッとなんてしてないよ」
「レストランの悪口言ってるのもすごく嫌でした」
琴梨ちゃんは身体中に力をこめて、きゅっと固くなっていた。
「ごめんなさい。前も言いましたけど私、口悪いんです」
「いや。悪いのは俺だから。ごめん。今日のデートはつまらなかった?」
謝るように問い掛けると琴梨ちゃんは顔を上げてぶすっとした顔で俺を軽く睨む。
「楽しくなかったのは先輩の方なんじゃないですか?」
「え?」
「スケジュールのことで頭がいっぱいで時間に追われて、話題もなんか取って付けたように流行りのドラマとか歌とかそんなことばっかで。いつもの先輩と全然違いました」
確かに今日の俺はちっとも楽しんではいなかった。
予定どおりこなすことと、琴梨ちゃんを楽しませること、そして自分のアレルギーが治ることばっかり注意していた。
「琴梨ちゃんの言うとおりかも」
「私のために色々計画を練ってくださって、嬉しかったですよ。でも先輩が楽しくないデートは私も楽しくありません」
「そっか。そうだよね。デートって二人でするものだもんね」
「はい。だからこれからは変に気を遣わないでいつも通りの先輩でいてください」
「ありがとう」
胸のうちのつっかえを吐き出してスッキリしたのか、琴梨ちゃんは隠すようにこっそりと手を握って俺の肩に頭をぴとっと寄せてくる。
とても可愛くて、愛おしい。
でもアレルギー反応がぞわぞわっと身体を走り、ちょっと鬱になる。
ややこしい体質にうんざりしながら、琴梨ちゃんの手を握り返した。
そのデートの模様を編集してアップすると今回も様々な反応があった。
『典型的なデートの失敗例w』
『TACスケジュールで焦りすぎ』
『ぼくのかんがえたさいきょうでーとぷらん大失敗!』
『途中で普通気付くだろw』
『独り善がりのデートをしている時点であなたには人を愛する資格がない』
相変わらず言いたい放題だ。
最後のアンチコメは無視するとして、お前らもやってみたら分かる。
実際にデートすると頭がパンパンで考えてる余裕なんてねーからな!
とにかく無理はいけない。
今回のデートで学んだことだ。
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