第15話 自分の彼女をNTR!
一木があっさりとナンパされたのを見て、改めて人は見た目に大きく判断されるということを再認識した。
そしてひとつの憶測が生まれる。
(しょせん琴梨ちゃんだって同じなんじゃないのか?)
琴梨ちゃんは俺のポリシーやら性格が好きだと言ってくれた。
その上で見た目はタイプじゃないとも言った。
内面に重きを置く琴梨ちゃんは見た目なんてさほどこだわってないと語っていたが、あれは本心なのだろうか?
一木やその他の女と同じようにイケメンに言い寄られたらコロッといってしまう気がする。
(一度試してみる価値はあるかもしれないな)
俺は自分の彼女を自分で寝取るという前代未聞の作戦を立てることとした。
────
──
待ち伏せていると帰宅途中の琴梨ちゃんが駅の方からやって来る。
今日は会えないと伝えたからこのまままっすぐ家に帰るのだろう。
騙すようなことをして心が痛むが、これも俺みたいなクズと別れるためだ。
さすがに簡単な変装では見破られるかもしれないので目にはカラコンを入れ、髪は一日だけ髪色をカラーチェンジ出来るもので明るく染めている。
服装もよその高校の制服を着て完全に別人感を演出していた。
「あっ……」
自転車置場にやってきた琴梨ちゃんは目を丸くして驚いていた。
自転車がドミノ倒しになっているからだ。
その中には琴梨ちゃんのものも含まれている。
この状況を作ったのはもちろん俺だ。
チャラくナンパしても相手にされないだろうから考えた作戦だった。
少し迷ったのちに琴梨ちゃんは俺の予想通り端から自転車を立てていく。
自分の物だけでなく他人のものも直してあげるところが親切な琴梨ちゃんらしい。
よし、そろそろ俺の出番だ。
「大丈夫?」
「あ、はい。自転車が倒れてまして」
「手伝うよ」
「ありがとうございます」
琴梨ちゃんは俺だと気付いた様子もなく頭を下げていた。
「よし、これで全部だな」
「助かりました。ありがとうございます」
自分で倒したわけでもないのに手伝ってもらったお礼をする。
こんな性格のいい子はなかなかいない。
「それじゃ」
琴梨ちゃんはそのまま立ち去ろうとする。
「その制服、もしかして御園高校?」
「はい。そうです」
「知り合いが通ってるんだよね。三年の青木って知ってる? 青木サトル」
「すいません。存じ上げません」
そりゃそうだろう。俺もそんな奴は存じ上げない。
「よかったらちょっと話でもしない?」
「すいません。急いでますので」
「手伝ったお礼でも?」
「……じゃあ少しだけ」
落ち着いて話せるところに移動しようと誘ったが、それは頑なに断られたので缶ジュースを買ってベンチに座る。
見た目につられたというより手伝ったお礼と言われて仕方なくといった感じだ。
ひょいひょいついてきた一木とはこの時点から違う。
「毎日この駅を利用してるけど君のような可愛い女の子がいるなんて知らなかったな」
「朝はたくさんの人がいますもんね」
可愛いという言葉を流し、無難な返答をしてくる。
なかなかガードは固そうだ。
「君の名前は?」
「言わなきゃ駄目ですか?」
「駄目ってことはない。ただ俺が知りたいだけ」
「ごめんなさい。個人情報なので……」
「俺はスズキ。磯前高校の三年」
琴梨ちゃんは俺の顔をチラチラ見ながら帰りたそうに距離を取っていた。
俺のイケメンの姿などまるで興味ないようだ。
普段あんなに懐いてくれている琴梨ちゃんに拒絶されているようで、なんだかちょっと切ない。
「よかったら連絡先交換しない?」
「ごめんなさい。私、彼氏いますんで」
「彼氏いたって連絡先くらい交換してもいいんじゃない?」
「えっと……ごめんなさい。スズキさんはいい人そうなんですが、やはり彼氏がいるのに他の男性と連絡先交換するのはよくないと思うんです」
琴梨ちゃんは立ち上がってペコッと頭を下げる。
「そんなに彼氏が好きなんだ?」
「はい。とっても大好きです」
「そんなにイケメンなんだ?」
「ううん。見た目は別に普通です。でも優しくて、面白くて、自分を持っていて、すごくかっこいい人なんです」
なんだか照れくさくて思わず笑ってしまう。
「素敵な彼氏だね」
「はい。でも最近ちょっと思い悩んでいる感じがして心配なんです」
「え? そうかな? じゃなくてそうなんだ?」
「一緒にいても時々なにか考えごとしてるみたいで急に無口になったり、少し打ち解けられたと思ったら急によそよそしくなったり」
気付かれないようにさりげなく距離を取っていたつもりだったけど気付かれてしまっていたようだ。
「今日だって前から約束していたのに、急に会えなくなったって理由もなく断られて」
「そ、そうなんだ。なにか君には話しづらい急用が出来たんじゃない? ははは……」
「……浮気でしょうか?」
琴梨ちゃんはブスッと唇を尖らせる。
「ないない! そんなわけない! こんな可愛い彼女がいるのに浮気なんてするはずない!」
「じゃあなんでですか?」
「そ、そうだなぁ……サプライズでプレゼントでも買いにいったんじゃないかな?」
「あー! なるほど! それなら確かに理由言えませんもんね!」
苦し紛れに放った理由で琴梨ちゃんは満足してくれる。
「ありがとうございましたスズキさん。不安が解消されてスッとしました!」
「それはよかったよ」
「それじゃ失礼します!」
琴梨ちゃんはにこにこと微笑み、鼻歌交じりで自転車を漕いで行ってしまった。
(疑ってごめん……)
琴梨ちゃんは見た目で判断して裏切るような人ではなかった。
なんかこんなことを考えた自分が恥ずかしくなる。
とりあえず俺は今からプレゼントを買いに行かなくてはいけない。
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