第10話 イキり倒しの生配信
琴梨ちゃんとの初デートの動画を編集するのはなかなか大変だった。
まず身バレを防ぐために特定されそうな景色は映せない。
更にはデートの半分くらいの時間はネカフェで寝てしまっている。
極めつけはもっとも盛り上がった喧嘩のシーンは全部カットしなくてはならないからだ。
ネカフェで寝て起きて解散みたいな動画に仕上がってしまったが仕方ない。
どうにでもなれという気持ちでアップする。
そしてその一時間後に生配信を行った。
「皆さんこんばんはー。TACです。初デート動画はもう観てくれたかな?」
いつもの豚のマスクを被ったまま挨拶をする。
『TACマジ最低』
『さすがに引いた』
『小鳥ちゃんいい小杉』
『これ、思ったより早くフラれるんじゃね?w』
『やらせ乙』
『小鳥ちゃんを俺にください!』
『デートで寝る奴いねーだろ?』
予想通り誹謗中傷の嵐だ。
ただ琴梨ちゃんの評価はかなり上がっていた。
そのお陰なのか、生配信の視聴者は付き合いだしてからはもっとも多い千人超えだ。
いや、琴梨ちゃんの効果だけではないだろう。
TACのクズ行動を見て楽しんでいるのだ。
彼女が出来たということでダメなTACを見て楽しんでいた層を失望させた。
しかしまともなデートが出来ないということで再び盛り上がっているのだろう。
ちなみにデート前に励ましのメッセージをくれたブサエルさんは生配信に来ていない。
最低のデートをしてしまったことで呆れてしまっているのだろうか?
「いやいや。小鳥ちゃん喜んでたし。結構いいデートだったと思うんだけど」
『それはサッカーに喩えると、とんでもないところにパスしてもうまく受け取ってくれる相手だっただけでは?』
『あれで成功と思っているのがやばすぎw』
『小鳥ちゃんは絶対今ごろTACと付き合ったことを後悔してる』
『デート内容をネットで晒すなんて常識が無さすぎる』
ネットにアップしていることに批判してくるアンチは無視することに決めている。
こういう奴は相手にするだけ時間の無駄である。
そもそも観ることを強要されていないYouTubeチャンネルに来て批判すること自体意味不明だ。
嫌なら観なければいい。そんな簡単なことが出来ずに自分の正義を振り回すだけの面倒な奴らだ。
「言いたい放題だな、みんな。じゃあみんなの考える最高のデートプランを教えてくれよ」
問い掛けた途端、ピタッとそれまでのコメントの勢いが止まった。
うちのチャンネルの視聴者の大半は非モテ男子なんだと実感する静寂である。
『やっぱテーマパークじゃね?』
『出た。童貞の発想』
『まずはそのダサい服やめるために買い物行け』
『それはデート前にすることだろw』
『映画がいいぞ。暗闇で手も握りやすいし』
『水族館だな。暑い時期の動物園はやめとけ』
『水族館とか動物園とか幼稚園の遠足かよw』
『普通はラブホ一択だよな?』
視聴者同士の醜いマウントの取り合いが始まる。
これはこれで面白いが、空気が悪くなるのは避けたい。
「落ち着け。みんなで意見を出しあって僕にアドバイスしてくれ。このままじゃ本当にフラれそうだし」
ちゃんとお願いするとみんな真面目に意見を出しはじめてくれた。
『まず行き先は決めてからいかないと』
『女子受けするレストランでランチだろ』
『キスを狙うなら観覧車だ。ソースは俺』
イキりたい年頃のみんなだが、真剣に訊けば真面目に考えてくれる。
数少ない経験や憶測に基づく頼りないアドバイスだが、だからこそ微笑ましくて嬉しい。
顔も知らない、立場も年齢も違う人たちの集まりだが、やはりここの住民は温かい。
「じゃあみんなの意見をまとめ、次回は水族館のあとイタリアンレストランで食事、その後観覧車に乗ってキスするシチュエーションを作り出すってことで」
『がんばれ!』
『フラれろ!』
『焦ってキョドるなよ!』
「ありがとう、みんな」
お礼を言って配信を終了する。
正直こんなベタな案でうまくいくか分からないが、とりあえず次回のデートコースは決まった。
もちろん俺としてはうまく付き合おうなどという気はない。
どうやってフラれようかということばかりを考えていた。
琴梨ちゃんは本物のいい子だ。
今回のデートでそれはよく分かった。
だからこそフラれなければいけない。
俺のようなフラれることばかり考えている最低な男と付き合って傷つけていいような女の子ではない。
琴梨ちゃんのためにも、俺は上手にこっぴどくフラれなければいけないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます