白鐘悠は片想う

さよなら

第1話

悠さんには、いつも振り回されっぱなしです-


ゆるくつないだ手を見せびらかすように、隣に座る彼方が、雑誌の記者へそう笑いかけた。


「でも、そんな私が好きなんでしょう?」

振り回してるのはどっちだよ、と喉元まで出掛かった言葉を飲み込んで、精一杯の『大人の余裕』という仮面を貼り付け微笑んだ。

「お二人は、リアルでもお熱いんですね。…私いない方がよかったりします?」

向かいに座る記者の冗談めかした言葉に,彼方は照れたように笑い、私はあわてて否定の言葉を返すのだった。


ー白鐘悠は片想うー


沈黙にも種類がある。

私は、短くはない彼女との付き合いの中でそれを学んだ。

まあ、彼女の場合は突き刺すような沈黙か、切り裂くような沈黙かの違いしかないのだが。

長い赤信号に引っ掛かり、手持ち無沙汰になった私は、そんなとりとめのないことを考える。


「…なんですか」

ぼんやりと助手席から窓の外を眺めていた彼女が、私の考えを察したように、言葉に乗せた棘を隠そうともせず問いかけてきた。


「彼方はさ」

「白鐘さん」

「ごめん、星見さんはたまに超能力者じゃないのかって思うときある」

意味がわからないです、とあきれたように言い、また窓の外を監視するお仕事へ戻っていった。

こうして黙ってアンニュイな表情を浮かべている彼女は、本当に様になる。

肩より少し下で綺麗に切りそろえられた黒髪は、夜闇に薄く溶けていくようで、それと対照的な白い肌がなければ、夜になれば見えなくなってしまいそうだ。

口を開けば憎まれ口ばかりだが、黙っている彼女を眺めるのは好きだ。

歩行者用の信号が点滅をはじめるのを確認し、かけていたサイドブレーキをはずす。

赤信号、もう少し長くてもいいのに、と思いながらもブレーキを緩め、アクセルを踏み込むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る