すいすいのノゾミヒメ のぞみのわくわく米作り5

 ――――そして。

 家に戻ったのぞみは、早速お風呂に入る事にしたんだ。


「そう言えばお風呂ってどこにあるの?」

「家の裏に田んぼの石を捨てた場所があるじゃろ? そこに風呂もあるんじゃが、気付かなかったのか?」

「え~っと、外って事はもしかして露天風呂!? のぞみ露天風呂とか家族旅行以来だし、凄く楽しみだよ!」

「何を言っておる? 外に風呂釜が置いてあるだけじゃぞ?」

「え~!?」

「うるさい! いちいち文句を言うで無いわ! そんな事より早く行ってこんか!」

「は~い」


 言われた通り家の裏に行くと、確かにお風呂っぽい物が置いてあった。

 …………けど。  


「なにこれ?」


 レンガで出来た釜戸みたいな物の上に、ドラム缶が乗っているだけの物。

 多分これがお風呂なんだろうけど……。


「これ、どうやって使うの?」


 のぞみのお家のお風呂はボタンを押すだけでお湯が出てきて、5分もあれば温かいお風呂が完成するんだけど。


「あれっ!? どこにもボタンが見当たらない無いよ!?」


 困ったなぁ。

 これは一旦戻って使い方を聞くしかないかも…………。


 ――――てなわけで。

 のぞみは家に戻ると、ごんすけを撫でて遊んでる米仙人がいた。


「本当にお前はかわいいのう」

「にゃ~ん」

「なんじゃ? ここがいいのか? そうかそうか、ほ~れほれほれ」

「にゃ~~ん」


 アゴの下を撫でられたごんすけは、気持ちよさそうな鳴き声をあげてる。


「ん? どうした? 風呂に入らなくてもいいのか?」


 家の入り口の扉を開ける音でのぞみに気が付いた米仙人は、ごんすけを撫でながらこっちを向いた。


「ねえ。湯沸かしボタンどこ?」

「なんじゃそれは?」

「……え? ついてないの?」

「なんじゃ、なんじゃ。もしかしてお前は湯の沸かし方も知らんのか?」

「だって、のぞみの家のお風呂と違うし!」

「仕方ないのう。やり方を教えてやるからついてこい」


 そう言って米仙人はごんすけを撫でるのを辞めて、両手でごんすけを抱えて頭の上に乗っけた。


「あっ!? それ、のぞみの役目ぇ~」

「はっはっは~。早い物がちじゃぁ~」

「にゃ、にゃ~ん!」


 ごんすけもまんざらじゃ無い感じで、頭の上に陣取ってる。

 こ、これはうかうかしてると、ごんすけを取られちゃうかもしれないよ!?


「どうした? 来ないのか?」

「あっ!? ちょっと待ってよ~」


 ――――てなわけで、のぞみはもっかいお風呂の場所に戻ってきた。


「ほら、どこにも無いじゃん」

「おっと。そういえば水口の場所を教えて無かったか。ほれ、ここじゃ」


 米仙人はお風呂からちょっと離れてる場所にある水路に行って、そこにある板みたいなのを上に持ち上げると、水路から水が二手に分かれて片方がお風呂の方まで伸びできた。

 

 それから湯船まで到着した水はどんどん溜まっていって、すぐに溢れそうになるくらいいっぱいになっちゃたんだ。


「こんなもんか」


 お風呂に入ってる水の量を確認した米仙人が板を戻すとすぐに水はせき止められて、元通り田んぼの方にだけ向かっていっちゃった。


「ほれ、もうじゅうぶんじゃろ?」

「うん。じゃあすぐに入る事にするよ」


 のぞみは早速服を脱いでお風呂に入る事にしようとしたんだけど。


「おい。ちょっと待て。もしかして、そのまま入る気ではあるまいな?」

「えっ!? そうだけど?」

「ちょっと風呂の中に手を入れてみろ」

「ん? わかったよ」


 のぞみはお風呂の温度を確かめる為に、お風呂に手を突っ込んでみると――――。


「つ、冷たっ!?」


 夜風でかなり冷たくなったお水が入ってたんだ。


「――――まったく。冷たいのは当たり前じゃろ」

「じゃあどうすんの? 流石に、のぞみでもこれに入るのは無理なんだけど」


 まあプールって考えたら入れないことも無いけど、今はお風呂の気分なのだっ!!


「だったら熱くすればよかろう?」


 そういって米仙人は薪置場の方を見ると、風に吹かれて薪の1個がカランと下に落っこちた。

 

「え~。のぞみん家はボタン押したらお湯が出てくるんだけど!」

「ここはお前ん家では無いわ!! そんな事よりモンエナが飲みたかったら、さっさと沸かして入ったらどうだ? そんな泥だらけでは家には入れんぞ?」

「わかってるって~」


 のぞみは薪置場から何個か薪を抱えてお風呂場まで運んで下に敷き詰める。

 

「えっと。後は火だけど…………」


 マッチやライターがあればいいんだけど、やっぱり無いのかなぁ。

 他に火と言えば――――。


「……もしかして、あれ?」

 

 のぞみは家からちょっと離れた場所に、石で出来たちっちゃな塔みたいな建造物見つけたんだ。

 その上の方を見ると火が燃えてて、夕日が沈む家の周りの灯りみたいな役割をしてた。


「お~い。薪は運び終わったか~」


 米仙人が長い棒の先っぽに布みたいなのを撒いたのを持ってきた。

 

「たいまつ?」

「すぐに火を付けてやるから待っておれ」


 米仙人は常夜灯にたいまつを伸ばして火をつけた。

 

「ほれ。危ないから少しどくがよい」


 そのまま火が付いたたいまつをお風呂の下にある薪に潜り込ませると、少ししたら火が始めっから釜戸の中に入ってた炭に燃え移って種火が起こった。


 薄暗い空間に真っ赤に燃える炎が煌めいて、凄く綺麗に見えるよ。


「火が消えんように、気をつけるんじゃぞ」 

「わかった、消えないように見守ってるよ!」 

「そうじゃな、消えないようにずっと見てて…………って、違うわ! その火吹き竹を使うんじゃ!」


 釜戸の横には小さな穴が空いてる長い竹が置いてあった。


「……これを吹けばいいの?」


 のぞみは竹を真っ直ぐに持って吹くことにした。


「ちょっと待て! それは斜めに構えるんじゃ」

「えっ!?」


 米仙人はのぞみの持ってる火吹き竹を斜めに構えさせた。


「直接じゃなくて少し離して吹くのがコツじゃ!」

「そうなんだ。じゃあやってみるよ」


 試しに軽く火吹き竹を吹いてみると、少しだけ赤くなってた薪から火が燃え上がった。


「わわっ!? ホントだ!?」

「あとは湯が沸くまで、火を燃やし続けるだけじゃ」

「わかったよ!」

 

 ただ、思いの外かなりの火力は出たんだけど、流石にそれでも水を全部お風呂に入れるくらいのお湯にするのは、かなり時間がかかりそうな感じだよ。


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