Dear K
野森ちえこ
加納奏
まさか、今ごろあの企画が動くことになるとはな。なつかしいような、くすぐったいような、おかしな気分だ。
大学の文芸サークルでやるはずだった、幻の『Dear K』企画。
発端はメンバーの名前だった。
そしておれ、
もっとも、すべてが偶然だったわけではない。
最初、サークルに入会したのはおれと木元だ。その翌年、新入生として古山がはいってきた。
これで『く』と『け』が入会すれば『か行』がそろうな――といいだしたのは誰だったか。
おれなどは、たわいのない雑談としてすぐに忘れてしまったのだけど、ある日メンバーのひとりが剣崎をみつけてきた。そして、その剣崎の紹介で宮藤も入会し、ほんとうに『か行』が完成したのである。
さらに、か行の五人がそろい、おれが部長となった翌年、新入生の
かきく(ぼ)け(い)こ
ひとりでか行をコンプリートしている彼女の登場に、やたら盛りあがったことをおぼえている。
そうして、ここまでKが集まったら、文芸サークルとしてなにもやらないわけにはいかないだろうと企画されたのが『Dear K』だった。
垣窪もくわえた、Kのイニシャルを持つ六人のうちひとりを題材にして短編を執筆する。
エッセイやノンフィクションなど、本人をそのまま書いてもいいし、モデルとして物語にしてもいい。また、本人宛ての手紙でもかまわない。そして題材となる六人は、自身をネタにしてもいい。
とにかく、六人のうち誰かひとりを登場させること。ただし、誰を題材にするにしても必ずイニシャルにする(本名はださない)こと。
それ以外はすべて自由というお遊び企画だったのだけど、本人たちはもちろんのこと、『K』ではないやつらもおもしろがって、ふだんはもっぱら読む側であるメンバーもみな今回は書いてみようかといいだすくらいだった。
そういや、できによっては冊子にまとめようという話もあったな。
みんなそれぞれにペンネームをつかっていたから、誰の『K』が誰か――というような遊びは本人たちを知る人間にしかできないけれど、それはそれでおもしろいだろうと。
まあ結局、企画は企画のまま、進行することも、かたちになることもなかったわけだが。
それどころじゃなくなっちまったからな。
あれからもう五年になるのか。
それにしても、再始動のきっかけもまた垣窪とはな。元部長としても、今回はぜひとも実現してやりたいところだ。
(つづく)
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