第106話『味』

 エロゥショの突進を回避する。途中、角に纏わりついた雷みたいなものから放電されたが、それは全て盾で受けた。威力はそんなにない。せいぜい静電気を少し強めた程度だ。


「こっのおおお!!」


 やられっぱなしで業を煮やしたターリャが、方向転換中のエロゥショに向かって水鉄砲を発射した。

 当たって少しでもダメージを受けてくれたらと思ったが、エロゥショは角に貯めた電気を集め、ターリャの水に向かって飛ばしてきた。


 タンキングの電撃よりは威力は少ないだろうが、それでも人を痺れさせるのには十分だ。

 そんな電撃が、なんとターリャの水鉄砲を伝ってこちらにやってきたのだ。


「え!?」

「ターリャ!水を切れ!」

「う、うん!」


 ターリャと電撃の間に割って入って、ダメージチャージ解放。ターリャの水を伝ってチャージした電撃が飛ぶ。

 こっちのが威力が強い。相手の電撃巻き込んで、そのままエロゥショに被弾した。


 エロゥショは予想外の反撃に驚いたような顔をしていたが、見た感じノーダメージ。

 やっぱり電撃でどうのこうのは無理かな。

 電撃の光が収まり、エロゥショが頭をぶるんと振った。その時、何か違和感を覚えた。「あ…」と思わず声が漏れた。角の先っぽが削れている。


「おや?削れはするのか」


 さっき見たときは何にもなかったものだ。それが、俺のこのダメージチャージでの反撃後に削れた。

 もしや、思ったよりは装甲が薄い?同じ竜種といっても装甲のつよさはまばらか。


 再びのタンキングによる電撃が襲ってきたが、それを盾で受け流す。

 普通のドラゴンにはやらない方法だけど、エロゥショには通じるかもしれない。

 電撃が収まって、エロゥショが苛立ちに前足で地面を掻いた。

 試す価値はあるな。


「ターリャ。あいつの周りに水の盾を帯のようにして電気を防いでくれ。放電したら水を放して良い」

「トキは!?」

「俺は直接ぶん殴りに行く」

「は!?」


 ターリャがもう一度こちらを向いて「は!?」と言う。二度見ではなく二度言いとは新鮮だな。


「あいつもしかしたら装甲薄いかもしれない」


 ならば殴った方が早い!!


「いやいやいや、待って意味が分からない」

「じゃあ行ってくるから補佐頼む!」

「え!?ちょっと!!!」


 電撃を受け流しながら走って接近していく。突然の俺の行動にエロゥショは狼狽え、近付けさせまいと角の電撃を乱射してしてきた。

 さすがにタンキングだと時間が掛かるからだと思うが、それくらいの電撃なんかへでもない。

 あっという間に目の前までやってくると、俺は飛び上がりエロゥショの頭に盾で殴り付けた。


 ゴンという鈍い音と共にエロゥショはよろける。

 どうやら効いてるらしい。良かった。これで俺の勘違いで装甲厚かったらどうしようかと思った。

 そのままひたすら殴る殴る。殴る度に角が削れ、チャージが溜まる。

 しかしやられっぱなしのエロゥショではない。

 怒りに駆られたエロゥショのタンキングをした。しかも高速でだ。


「うおっ!?」


 有効範囲から慌てて跳びぬこうとしたがどうやっても逃れられる距離じゃない。

 目の前が真っ白に染まったかと思えば、その光はすぐ目の前で方向転換して明後日の方向へ飛んでいった。


「トキ!!危ないでしょ!!」


 ターリャの水の盾で方向が変わったのだ。助かった。


「ターリャありがとう!」

「もー!気を付けて!」


 電撃が落ち着いたとことで再び殴るのを再開。

 するとエロゥショも近くにいるとやりずらいのか俺から離れようと後退し始めた。やりあって理解したが、エロゥショは距離を取って戦うとこちらが不利になる相手だ。なら絶対に距離を取らせない。

 エロゥショが逃げれば俺はそれを追い掛け、さらにターリャの水が遠くに逃げないように囲い込む。電撃が来ればターリャの水で明後日の方向へ飛ばし、大したことの無いものは俺の盾で受け流す。


 とうとうボコ殴りだけでチャージが溜まった。よし、これを首に突き刺して解放を、と、思ったその時エロゥショに変化が起きた。


 凄まじい咆哮。

 するとエロゥショの角がメキメキと音を立てて倍以上に伸び、まるで蜘蛛の巣のような形状に変化した。いや、それだけじゃない。目が六つに増えた。目の色が真っ赤に染まり、ぎろりと全ての目が俺を睨み付けた。

 ガガンと今まで以上の速度と威力でエロゥショがタンキング。口から生まれた電気が角にも伝ってエロゥショ全体が雷のような姿になった。

 いや、何だそれ。


 空気を振動させるような低い唸り声に似た音がエロゥショから発せられる。

 額に青白い球が発生し、角から電気を送られると更に大きく膨らんだ。


 すぐさまターリャの元へ戻る。


「なにあれ!?」

「知らん!でもヤバいものが来るってのは分かる!」


 盾を構えて待ち構える。ターリャも威力を減算できないかと水の帯を俺の盾の前に幾重も張り巡らせた。

 だけど、おそらく水の帯は貫通する気がする。前を見ると既にエロゥショの体高以上に成長した光の球が激しく瞬いている。


 勘だけど、きっと受け流せない。

 しまった。もっと早い段階で倒しておけば良かった。


 ウウウと唸っていた音が突如として止んだ。

 次の瞬間、全くの無音で光の球が、いや、光の槍が飛んできた。


 ターリャの水の帯は呆気なく破壊され、見込みが甘かったと思い知るその時、盾が伸びた。

 正確に言うと盾の側面から半透明の膜が一気に広がった、だが、まるで大波のようなうねりを伴って盾が電撃を“喰らった”。

 比喩ではない。

 目の前で広がった膜がパラボラのような役目を果たし、盾の中心へ電撃が集まって吸い込んだ。

 膜が霧散し、その代わりに盾が青みを帯びた銀色の光を発している。


 枷が外れている。


 それを抜くと、いつもの棒ではなく立派なランスが現れた。

 誰に言われなくなって分かる。

 俺はその槍を手に、狙いを定めた。


 エロゥショは大技の反動か動きが鈍っている。やるなら今だ。


 大きく踏み込んでランスをエロゥショへ向けて突けば、その先からエロゥショが放った電撃がやや増量されて解き放たれた。

 雷の槍がエロゥショを貫き、消える。


 口から煙を吐き出したエロゥショは力無く地面に転がった。


「お、おおー……」


 あまりの威力で俺はビビっていた。

 ランスは元の棒に戻っていたけど、まだその先から白い煙を立ち上らせていた。


 何だったんださっきの膜は。


 ターリャが盾を覗き込んで「うおお……っ」と驚きの声をあげる。


「すごいね、全部送り返しちゃった」

「……俺ちょっとこの盾怖くなってきた」

「なんでよ!」

「冗談だ」


 本心、冗談ではない。


 とにもかくにも今はエロゥショを仕留めたのかの確認のために近付いてみると、エロゥショはしっかり仕留められていた。何故だが槍の当たった箇所が大きく凹んでいるが。


 ターリャに完了の合図を上げて貰って、俺は盾が変わったかどうかの確認を始めた。

 結果、模様が増えていた。

 さりげなくだから、しっかり見ないと分からない程だけど。


「どうだ?」

「なんかー、焦げ臭い味がした」

「俺のせいじゃないぞ」

「半分はトキだよ」


 竜種であるエロゥショの光を食べたターリャからクレームを貰った。

 味が変わるんだな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る