第102話『VSバトルジャンキー』

「ギャオォォーーン!!

 リーーン!!!リーーンどこぉおおおお???」


「……」

「……」


 半泣きでスーグが相棒を探して叫んでいる。

 それに追従する俺達。

 なんだこの絵柄、シュール過ぎるだろう。

 俺達も泣きじゃくるスーグにリーンという方の特徴を聞いてみたのだが、小動物ということしか分からなかった。

 仕方ないのでスーグに習い時折「リーンさーん!」と呼び掛けてみるも反応無し。


 一時間程街中を歩いたところで、俺はスーグの肩をポンと叩いた。


「スーグ。君の宿は何処だい?」

「宿ぉ?」

「ああ。こんな人混みだと絶対に見付からない。おそらく君の相棒のリーンさんも一旦宿に戻っている可能性の方が高い。リーンさんは人混みがあまり好きじゃないんだろ?」


 断片的な情報で人嫌いってのがあった。ならば、こんな正月浮かれで人でごった返している場所からはさっさと逃げたいに違いない。


「……」


 スーグは思ってもみなかったと言いたげな顔で俺を見上げた。


「お前可愛くないのに頭いいなぁ!!!」

「そりゃどーも。じゃあ案内お願いできるか?」

「うん!こっちだよぉ!」










 宿に行くと目的の人物であったリーンがパジャマ姿でベッドに横になってお菓子を食べていた。


「リーン!!なんで居なくなったのぉ!!??」


 そこにダイブするスーグをめんどくさそうに相手をするリーン。

 かなり小柄な女性だ。

 丸みを帯びていて、すぐさま頭の中にハムスターが浮かんだ。


 なるほど、小動物…。


「は?あんなとこで三時間も待ってるなんてバカみたいじゃん」

「ん?そんなに待ってたぁ??」

「待ってた…。……んで」


 ダルそうにリーンが此方を見る。


「そちらの方達がうちの堕猫のお友達とやら?」

「堕猫っていうなぁ!」


 よいしょとリーンがベッドから降りて歩いてくる。

 だんだん近付いてきて、俺は驚きのあまり「おお…」と小さな声を上げてしまった。


 まさかのターリャよりも身長低い。

 成長前のターリャほどじゃないか?というか、いくつだこの人。


 リーンは服の裾を両手でつまみ、軽く膝を使って体を沈ませた。


「お初にお目にかかります。リーン・デルデンテです。そっちの堕猫がスーグ。ご存知の通り四精獣白虎のスーグとその補佐をしています」


 そしてお辞儀。

 なんだこの見た目とは裏腹な優雅な礼は。

 いやいや、その前に挨拶をされたなら返さないといけない。


「えー、その。はじめまして、俺は辰成。呼びにくいと思うのでトキと。で、こちらが四精獣、玄武のターリャだ」

「ターリャです」


 リーンはターリャを見つめ、こてんと首を傾けた。


「聞いていた印象とだいぶ違うのね」

「え?」

「まぁいいわ。相手を理解するならこっちのが早いでしょうし、さっさとやりましょう」


 言い終えるとリーンは上着を羽織り、何やら大きい鞄をまさぐり始めた。


「お!早速やるのかぁ???」


 リーンに無視されてベッドの上でいじけていたスーグが跳ねるようにして起き上がった。


「ちょっと待ってくれ、何をするって??」


 あまりにも展開が突拍子過ぎて付いていけない。

 それはターリャも同じようで、困惑しながら俺を横目でチラチラ見ていた。


 その間もリーンは鞄をまさぐり、ようやく目的のものを見付けたらしく「あったあった」と言いながら剣を二本取り出した。

 まさか…。ごくりと唾を飲み込むと、リーンが雨避け用の上着を羽織りボタンをきっちり締める。

 そして腰にベルトを巻いて剣を挿した。


「そりゃ勿論、力試しだよ」


 やっぱりやるらしい。









 雨が降りしきる中、俺達は何故か街の外の荒れ地で武器を手に向かい合っていた。


「本当にやるのか?」

「やるよ。そっちの方が手っ取り早いもん」


 リーンはヤル気満々だった。人は見かけによらないとは良く言ったもんだが、まさかのハムスターがバトルジャンキーとは誰も思うまい。


 双剣の柄にリーンの手が添えられる。


「…………ほぅ」


 構えをみれば素人ではないのがわかる。

 双剣を武器にする相手と戦うのは初めてだ。どんな感じで来るのか。


「とりあえず、お互い大怪我をするようなものは禁止ということで」


 先に条件付けようとしたら、リーンに『はぁ?』と言われた。俺変なこと言ったかな。


「何言ってんのぉ?大怪我を防ぐのも実力のうちだろぉ!?」


 スーグが勢い良く駆け出し、ターリャに向かって手を上げた。

 不可視の行動がやってきたらしく、即座に生成した水の盾にふつかって激しく水しぶきを上げた。

 それが息つく間もない怒涛の攻撃に対応していく。


 速いな。

 んでもってこっちも余所見している余裕はないわけだけど。


 小さいから体から繰り出される怒涛の攻撃に俺は盾で防いでいく。

 バトルジャンキーの名は伊達じゃない。

 流れるように繰り広げられる残激からの蹴り技、かと思えば風魔法で広範囲攻撃を仕掛けてくる。


 うまいな、ただのバトルジャンキーじゃない。

 初めはどこぞのお嬢様とも思ったけど。


「凄いな。どこで習ったんだその剣術」


 盾から火花が散る。


「自己流。貴方と同じよ」

「へぇ、そうかい」


 リーンが盾を蹴り様に踏み、俺から距離を取る。そこへターリャの水の盾で弾き飛ばされたらしいスーグが器用に空中で回転してリーンの隣に着地した。


「ぶへぇ!相変わらず防御硬いなぁ!!でも負けないぞぉ!!」

「スーグ、終わり」

「フェ!?」


 心底驚いた顔でスーグがリーンの顔を見た。

 リーンは構えていた双剣を下ろし、俺を真っ直ぐに見ている。


「この勝負、どうあったって私達には勝てない」

「そ、そんなこと言うなよぉリーン。だってまだ怪我一つもしてないのにぃ」

「だからよ」

「へ?」


 訳が分からないとスーグは首を傾けた。


「貴方、別に攻撃が出来ない訳じゃないんでしょ?」

「ああ」

「……攻撃しなかったのは、私を怪我させないようにするため?」

「…………まぁ、そうだな」


 ダメージチャージは満タンだが、これを解き放ってしまえばちょっとの怪我どころじゃすまないだろう。


「…結構甘いのね」


 リーンは剣を鞘に納めた。


「スーグ、これはいつもの私の勘なんだけどね、あの人が攻撃に転ずればきっと私は一撃で虫の息になる」

「そんな大袈裟なぁ…………まじ?」

「まじよ。戦って分かった。この人達、噂の通りのドラゴンスレイヤーだわ」

「今なんて?」


 唖然としたようにスーグは俺とターリャを見て、ヘニョンと耳を伏せた。

 心なしか尻尾も元気がなくなっていく。

 その前に気になる単語があったんだが。


「私達の負け。仲直りするわよ」

「うええええええ!!?いやだいやだまだ負けてないもん!!!!」


 いうやスーグはターリャに突撃したが、タイミングを合わせたターリャの水鉄砲に直撃し、吹っ飛ばされていた。




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