第73話『腕試し大会②』

 ここから先はトーナメントになる。

 掲示板に大きく張り出されたトーナメント表の下にはザルスの名前もある。

 これは偽名だ。

 ザルスの由来は恐竜の後ろによく付いている“~ザウルス”から取った。

 全身竜種装備だから、普通にザウルスと付けようとしたらターリャに語呂が良くないと言われてザルスにした。


 ザルスにしたはいいけど、違和感があるんだよな。

 咄嗟に呼ばれて自分の事だと気付けない。


「──様!ザルス様!」

「!」


 はっ!俺か!


「はい」

「次の試合の準備がありますので、早めに移動をお願いいたします」

「わかりました」


 職員の後に続いて待機室を出た。










 オイラはドルマン。

 この大会の参加者だ。

 そのオイラの目の前でトーナメント表を眺めたまま固まっている大男がいる。

 なにをそんなに固まる要素があるのかさっぱりわからん。


 そんな俺を苛立たせる男の名前はザルス。

 頭から靴まで竜種装備でガチガチに固めた狂人野郎だ。

 狂人野郎というには理由がある。

 こういう全身竜種で揃えられる奴は相当の金持ちか、ドラゴンスレイヤーの部類だ。

 金持ちは基本コレクションとして揃える。

 たまにアホみたいな依頼でやってきて、お連れの奴らが戦っている間後ろで呑気に見当違いの指示を出す。

 はっきりいってお荷物、邪魔、目の上のこぶである。

 ドラゴンスレイヤーの場合は、やはりこちらもドラゴン狂いの奴だ。

 他の妖魔には目もくれずに竜種のみを狙って突っ込んでいく命知らずの狂人だ。

 これは上級者の連中が多いが、このザルスとかいう男の名前は見たことはない。

 とするならば金持ちボンボンの可能性が高い。


 金持ちボンボンが竜種装備の性能を見せつけてやろうと乗り込んできたアホウ。


 ギルドのゲストってのが気になるが、…………いや、待てよ?

 これもしかしてオイラいけんじゃないか??


 ドルマンはニヤリとした。


 金持ちボンボンなら一発かましてやれば絶対に戦意喪失するに決まっている。

 んでもって、鎧剥いでやれば…。


 クツクツ笑いながらその後を想像するドルマン。

(※彼は先ほどの生き残り戦でのザルスの戦い方を見ていない)


 ザルスが職員に呼ばれて部屋を出ていった。


 トーナメント表を見てみれば、運のいいことにオイラは初戦でザルスと当たることになっていた。


「うーっし、いっちょやってやるかぁ…」







 ファンファーレが鳴り響く。

 司会が声を大きくする魔法具のマイクを持った。


『さあ!!始まりました!!第一戦目はザルスVSドルマン!!!』


 入り口から会場へと出た。

 見上げると観客が猿のようにギャーギャー言いながら手を振っていた。

 あいつらは賭けをしている連中だ。

 本来賭けは禁止なんだが、そんなもの守る方が少ない。


 ザルスの方を見ると、相変わらず不気味な雰囲気をしていた。


 手には大盾一つ。

 バカにしているのか?


 まぁいいさ。


 オイラのスキルの餌食にしてやるだけだ。


「おうおう!お前そんなアホみたいな装備で戦おうってのか???おーん?どーせ親の七光りとかで手にいれたんだろ??パパァー?ぼくちゃんこの装備欲ちいなぁー!買ってぇー???とかやったんだろ??きっしょー!!」

「……」


 反応が薄い。


「はん!男なら装備に頼らずに腕一本で勝負するもんだ!!それすらできねぇへなちょこはお家に帰ってママンのおっぱいでもしゃぶってな!!!」

「…………」


 無反応。

 なんだこいつ。

 ボコるだけで終わらそうかと思ったけど、いっそ殺してやろうか??


 どうせこの会場では死なねぇーんだ。

 トラウマでも植え付けてやろうか。

 上から司会が降りてきて、旗を構えた。


『煽り合いは終わったか??

 んじゃま、準備はいいかー??試合……開始ッッッ!!!!!』


 合図と共に旗が振られて司会が上空へ逃げる。

 オイラは腰の半月刀(※名前の通りの形をしている)を抜いてぐるぐる振り回した。


 この半月刀は別名断骨刀ともいい、こうやって柄についた鎖で遠心力を掛けてやれば。腕なんかキュウリのように容易く真っ二つにできる。

 まずは足から!!


 蛇のように飛んでいく半月刀がザルスの足をとらえた。


 だが、それを奴はなんでもないようにヒョイと跳んで避けて見せた。


「は?」


 盾を使うなら分かる。

 なのに、なんだ?

 オイラの攻撃を遊びか何かのように跳んで避けただと?


 これは、オイラをバカにしているのか?

 お前の攻撃なんか盾を使う価値もないって。


 ドルマンはキレた。


 戻ってきた半月刀を回収し、ドルマンは狙いをつけた。

 狙うは胴体ど真ん中。

 行くぞ!!

 スキル!『倍速歩』!!!


 ドルマンは強く踏み込んで、ザルスへと駆け出した。

 スキルの効果によって一歩ごとに加速し、みるみるうちに人間では出し得ない速度へと変わっていく。

 どうだザルス!!

 これでお前も盾を使わずにはいられな──


 顔に掛かる影にビクリとした。


 嘘だろ?こいつ。

 よりにもよってオイラの攻撃を、足で……。












 試合が始まる前から対戦相手のドルマンか喚いている。

 恐らく俺に向かって言っているんだろうが、いかんせん訛りが酷くてなにを言っているのか全く把握できなかった。


 下手に返答することもできずに困惑していたら、ドルマンはもっと憤怒した。


 仕方ないだろう。

 解読できないんだ。

 理解してほしかったらもっとゆっくり話せ。


『──試合……開始ッッッ!!!!!』


 そうこうしているうちに試合が始まってしまった。


「!」


 変わった形の剣が飛んできた。

 柄には鎖。

 それで遠心力を付けて凄い速度で飛んできた。


「すげえな、扱うの大変だろうに」


 ああいう類いの武器は、狙いを定めるのが大変だ。

 しかも正確に目標に当てようとするならなおさら。


 でもちょっと距離があるかな。

 狙いがかなり下だ。


 俺は縄跳びの要領でタイミングよくジャンプして回避した。


 しばらくこういった遠距離の攻撃が続くのかと思いきや、今度は剣を胸元で構えて深く踏み締めた。

 なんだ?


「…スキルか」


 フォンと、スキル発動特有の淡い光が放たれた。

 そして、こちらへと駆け出してきた。


「!」


 一歩二歩と踏み込む度に加速してくる。

 見覚えがある。

 これは、あのガラゴウドと同じスキル。


 人と妖魔が同じスキルを使うことにビックリした。

 そんなこともあるんだな!


 違う意味で感激していたら、すぐ目の前にドルマンが迫ってきていた。

 おっと、いけない。

 集中集中!


「よ!」


 ドルマンの速度に合わせて飛び上がり、ちょうどよい位置にあった顔を踏んだ。

 人間、急所が集中している顔を攻撃されたら多少なりとも戦意が削がれるものだ。

 しかもこの速度。

 相当痛いにちがいない。

 まるでラリアットを受けたようにドルマンの体が後ろへ一回転し、勢いよく地面にうつ伏せに叩き付けられた。

 その衝撃で剣が折れて飛んでいく。


 うわ、痛そう…。


 しこたま打った脚を見ないようにしながらしゃがんで声をかけてみた。


「ドルマンさん。大丈夫ですか?」

「……」


 返事なし。


 いつの間にか近くにいた司会が『んー?』と言いながらドルマンを覗き込んで、首を振った。

 意識を飛ばしているらしい。


 俺の腕を掴んで高く掲げた。


『勝者!!!ザルスゥゥゥゥ!!!!』



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