第67話『占いの館で色仕掛けされた』

 装備完成まで二週間は掛かるらしい。

 まぁ元々一月はここらで隠れてようかと思っていたから別に問題ない。


 宿も結構居心地がよい。


 というか、装飾が凄すぎて思わずたかが壁に魅入ってしまった。

 なんだあの彫り込み。

 作ったひと狂人だろって思ってしまった。

 ……さすがに装備は平気だろうな…。

 そこだけ心配。


 ターリャがお出掛け用の服に着替えた。

 多分ジョコーさんから貰ったワンピースだな。


「そういえばトキはお出掛け用の服は無いの?」

「ないなぁ」

「ターリャが買ってあげようか?」

「いや、自分で買うからターリャは自分のためにお金を使いなさい」


 不満そうな顔をしないの。


 いつもの服に着替えて、昨日リープッタとは違う職人に聞いた魔術師への地図を開いた。

 開いたんだけど、なんだこれ。

 ショートカットを描いてくれるのは良いんだけど、分かりにくい。

 なにこのフェンス超えるとか。

 ちゃんと道をいってくれよ。


「まぁいいか。ターリャ行くぞ」

「はーい」








 途中猫助けたりばーさん担いだり川を跳んだりハプニングがあったけど何とかたどり着いた。


「占いの館みたいだ」

「うらないのやかたって?」

「…こんな感じの建物の事をいうんだ」

「へぇ」


 きっと扉を開けたらTHE占い師みたいなのがいるんだろうな。


「いらっしゃぁーい」

「おお…」


 ガチでいたわ。

 THE占い師。

 紫色のベールを被った色気ムンムンのお姉さんが俺を見て舌舐めずりした。

 うん。

 別の人ん所に行こう。


「ちょっと何いきなり帰ろうとしてるのよ!」


 先回りされて扉を閉められた。

 この人動く度に胸元凄い動くな。


「トキ」

「……」


 ターリャの声で我に返って視線を顔を戻した。


「俺達は魔術師に会いに来たのであって、きわどい系占い師に会いに来たのではないので」


 あとターリャの目に毒。

 そう言えば、占い師は笑顔でありながら眉間に青筋を浮かべるという器用なことをし始めた。


「あいにくこの村には私が唯一の魔術師よ。諦めてこの私に何の用なのか洗いざらい吐き出しなさいな」

「仕方ないか。ターリャ、我慢してな」

「?」


 無い物ねだりはしても意味はないからな、諦めて店内に視線を戻す。

 見た感じ俺の分かりそうなものはない。

 国が違うからデザインが違うのか。


「姿を消すとか、存在感を無くしたり、もしくは人の目を欺いたりする魔法具はどれですか?」

「なに?あなた盗賊業かなにか?」


 とんでもない勘違いされそうになった。


「いえ、ちょっと絡まれやすいので事前回避のために」

「あんた有名人なのに絡まれるの?変なのぉ」

「!??」


 えっ。


「なんで?って顔しているけど、魔術師は情報に聡いのよ?職人達は疎いけど。盾でのA級昇格したトキナリという冒険者が先日突然失踪したことも知っているし、異様に逃げ回る謎な行動もね」

「謎の行動」

「トキは人混みが嫌いなの」

「ふーん。そうなのぉ?メモっとこ」


 本当に手帳にメモを始めた占い師。


「ていうかぁ、普通有名人になったら色事選り取りみどりになるのに避けまくるって面白い男よねぇ?昨日も村の前で大型のドラゴンも討伐しちゃってるし。ねぇ?もしよかったらなんだけどぉ…」


 占い師が俺に近付いてくる。

 やたら腰やら胸やらを揺らしてくる。


「私といいこと──きゃん!」


 占い師の顔がターリャが発射した水の玉でびしょ濡れになった。

 さらにもう一発。


 長い髪からポタポタ滴る水が服やら床やらを濡らした。

 魔術師は短く息を吐くと、それを鋤いて一気に掻き上げた。

 遠心力で跳んできた水をターリャの張った水の盾でガード。

 先ほどまでの色気はぶっ飛んで、ヤンキー系な女性に早変わりした。


「わかったわかったわよ。お嬢ちゃんからその男は獲らないからさ」


 ゆっくりターリャを見下ろすと凄い怖い顔していた。

 ターリャ、そんな顔出来たんだ。

 おっかねぇな。


「全く、せっかく良い男見付けたってのに…もぉー。はいはい諦めますよー。

 で、魔法具探しているのよね。ちょっと待ってて」


 占い師は一旦奥へと引っ込むと、露出がましになった服に着替えてきた。

 魔法なのか髪も乾いている。


「今んところうちにあるのは“シャズゥレペー”っていうこのネックレスね。これを掛けていれば注意深く見ない限り認識しにくくなるし、会わなくなればすぐに記憶が薄れる優れもの」


 見せてきたのは満月に雲の模様が描かれたネックレス。

 月の真ん中には黄色の魔石が嵌め込まれていて、銀色のネックレスで唯一の色になっている。


「二つある」

「それを貰おう」

「決断早すぎるわよ。もう少し吟味しなさいよ」

「いや、ターリャのストレスを考えたらさっさと用事を済ませて宿に戻りたい」

「過保護っていわれない??」


 余計なお世話だ。


「価格はこのくらいね。この紐は魔法具じゃないからチェーンに変えても効果は変わらないわ」


 ネックレスを広げてみた。

 確かに紐のままだと戦闘中に切れるかもしれないな。


 さっさと購入した。


「ああ、去らば良き男よ…」


 未練たらたらの言葉を吐いている占い師の館を後にしようとして、ふと足を止めた。


「そういえばここは魔法具の加工なんかもやっているのか?」

「え?ああ、そうね。ものによってはできるわ」

「空中でも衝撃を逃がせるようにできるか?」

「??? まぁ、そうね。できないこともないわよ?」


 なら、ドラゴンの素材をいくつかもって来てつくって貰うか。


「わかった」


 館を出た。


 さて、どっと疲れたし近くで昼食でもとろうかな。

 ついでにプリンのことも聞こう。


「ターリャ、何を食べたい?」

「トキはターリャのなの」


 どうした?ターリャ。


「トキはターリャが守るからね!」

「? ああ、よろしくな」


 水の盾の事か?

 そう思って返答したら、むくれていたターリャが笑顔になった。

 よかった。

 機嫌が直ったみたいだ。


 通りすがりの人に訊ねてやってきた店に巨大プリンフルーツ乗せみたいなのがあったのでそれを頼んだ。

 まさかプリンがジョッキに入ってくるなんて思うまい。





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