第66話『くしゃみ』
ヒビが入ってました。
良かった、折れてなくて。
回復術士さんがカルテを書きながら「どうします?」と訊ねてきた。
「ヒビなので二週間安静でも治りますが、ここで一気に治すこともできます」
この質問の意味は、魔法なしでの治療は時間が掛かるけど通常診察代だけの安価で済みますが、通常診察代+の魔法治療代で値段は高くなりますが1日で治る方法もありますがどちらにするか?という意味。
魔法治療だと80万ウンドラ硬貨(ウンドラ金貨160枚分)するらしい。
そう考えたら、冒険者の懐事情が分かるというもの。
大金が入ってきては一気に消える。
ギプスだけだったら8万ウンドラ硬貨(ウンドラ金貨16枚分)。
一般の方々は間違いなくこちらを選ぶ。
でも俺の場合長い間両腕が吊るされているのは今後の生活ないし、冒険者生活に支障が出るので泣く泣く魔法治療を選ぶ。
一本だけのヒビなら半額だったのにな。
いくらこれからドラゴンの売却代が入るとは言え、考えないといけないかも。
「……ターリャ、骨折治せるようにがんばる」
「そうなったらターリャ回復術士の道も開けるな」
「ううん。トキのお財布が心配」
「すまんな」
治療されて、回復痛の抑制薬を処方されて診療所を後にした。
痒い。
薬が効くまでに30分掛かる。
掻かないように我慢しないと。
といっても今日1日腕は包帯でグルグル巻きなんだけど。
「痒い?」
「痒い」
「飴食べる?」
「ありがとう」
久しぶりのお裾分けの飴を食べる。
やっぱり甘いのはいいな。
体に染み入る。
口のなかで飴を転がしながら、ターリャが地図を参考にあの職人さん(名前はリープッタさん)の工房を探す。
腕の激痛で呻いている俺に代わってターリャが地図をもらってくれていたのだ。
なので、ついでに案内してもらっている。
いつもは俺が地図を見ながら目的地に向かっていたけど、ターリャにも練習させないとな。
「んーと、あれがあれだから…」
ゆっくりゆっくり進んでいく。
周りの建物と見比べて、何回かの道を曲がったところで足が早くなってきた。
そろそろかな。
角を覗き込んだターリャが「あった!」と声をあげた。
「トキここだよ!!」
「おお、結構でかいな」
モウモウと煙を吐き出す煙突。
走り回る職人達。
そして解放された建物の中央には俺が仕留めたドラゴンが運び込まれていた。
俺がとても乗馬できる様子じゃなかった為に、職人の誰かが引いてきていた荷車に乗せてもらって村に運ばれている途中で、とんでもなくでかい荷車とすれ違ったのだった。
あれでドラゴンが運ばれたのか。
「変な道具がいっぱいだね」
「だな。あれとか何に使うんだろう」
俺達の普段の解体ではナイフくらいしか使わないから、職人達が運んできている道具を見ても何がなんだかさっぱりだった。
二人して工房を観察していると、謎の乗り物に乗ったリープッタが俺達に気が付いてやってきた。
「冒険者さんもう腕は大丈夫なんですかい??」
「ええ、今は腫れを引かせる薬を浸透させているだけで骨自体はもう治りました」
「はぇー、冒険者さん金持ちだなぁ。てっきりギプスで現れるのかと思ってたよ」
「ギプスだと筋力が衰えて、後々支障が出てしまうので致し方なくですよ」
「そうか、言われてみれば冒険者は腕が命だもんな。
ああ、そうだせっかくだから満足するまでドラゴンの解体を見学してくださいよ。特等席を用意しておきますから」
「それはありがたい」
吊り橋に架けられたひろめの足場が特等席らしい。
手摺もあるし椅子も机もあるから確かに特等席ではある。
ドラゴンの解体の様子も凄い見られるしね。
「ターリャ。いくら命綱つけているからって身を乗り出してはいけません。座るか、ちゃんと手摺の中に収まりなさい」
「はーい」
返事はしたものの、ターリャはドラゴンから目を離さない。
俺が普通の女の子のように育てるのはやっぱり無理があったか。
環境って大切だな。
「それではいいですかい?」
「はい、どうぞ」
ちなみに俺はどの部位を渡してどの部位を加工するかの話し合いをリープッタと始めた。
カタログみたいなものを開きながら説明を受け、俺が頷きつつ質問を入れる。
いつもは獲物を肉屋とか素材屋に持っていけば勝手に解体されて換金されるからこういうのは新鮮だった。
トントンと、リープッタが書類を机に軽く叩いて綺麗に並べた。
この人A型っぽいな。
この世界に血液型があるのかも知らないけど。
そういえば輸血って見たことないな。
「ではこれで作業しますね」
「お願いします」
「何かありましたら近くの職人に声を掛けてくだせぇ」
そうしてリープッタが去っていった。
「ふう」
ひとまず俺とターリャの装備を一式新調することになった。
竜種装備は頑丈だ。
汚れも落ちやすいし傷つきにくい。
これからドラゴンと戦うことが増えていくから最低限でも竜種装備は揃えるべきだ。
俺とターリャの命を守るためだ。
幸いお代はいならいって言うんなら、最高のものをいただかないとな。
「お肉と内臓と分泌物、皮の大部分、そして骨は村。俺達は魔石と皮と爪、翼膜、角、棘の一部。これでドラゴンの素材分のお金も入ってくるんだよな。依頼受けた時のお金とどっちが稼げているんだろう」
どちらにしてもそろそろ持ち歩きができるレベルが越えてきているからどうにかした方がいいな。
…あれ?確かギルドに銀行みたいなのあった気がするな。
ゴタゴタが済んだら聞いてみるか。
「トキー」
ドラゴンの解体の様子を見ていたターリャが呼ぶ。
「どうした?」
ターリャがこちらを向いた。
「ドラゴンの肉って美味しいのかな」
「……食ってみるか?」
「うん!」
拝啓オウリ君へ。
とうとうターリャが経験値ではなくガチのドラゴンの肉を食いたがってきましたがこれは正常なんでしょうか?
と、どうやっても連絡がとれない相手に心のなかで念を送っておいた。
その頃のオウリ。
「ぐしゅん!!」
「大変!オウリ風邪引いちゃったの??」
「んー?」
鼻を擦りながらオウリがウンドラの首都方面を見た。
「……いや、これはトキさん達が噂でもしているのかな」
「噂?なんの?」
「僕たちのだよ」
「え!ターリャが私達の!?ふふふっ、じゃあ私達も噂しましょうか」
「そうだね」
鼻がむずむずする。
やばいくしゃみ出る。
「ハックショ!!……風邪ひいたかな」
「大丈夫?」
「後で薬を飲んでおくさ」
ドラゴン戦と治療で疲れたからな。
今日は早々に寝た方が良さそうだ。
そんなことを思いながら隣でドラゴンの串焼きを食べているターリャを見る。
ドラゴンはぶっちゃけて言うと鶏肉に似ていた。
ササミ的な感じ。
それにやや羊が混ざっている味だ。
肉は固いけど、なんでか食べる度にやる気が沸き起こるような謎の効果があった。
魔力量が多いのと関係があるんだろうか。
そういえば魔力が高いのは美味しいとか、聞いたことあったな。
そんなドラゴンをもりもり食べるターリャ。
すでに3串目だ。
「美味いか?」
「うん!凄く美味しい!」
「そうか」
次からはドラゴン肉も食材カテゴリーしておかないとな。
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