第61話『困惑したトキの顔が世界にばら蒔かれた』

 ギルド新聞。

 それはギルド関係者が愛読するギルドが発行する世界を股に掛ける新聞である。

 各地の妖魔の情報から武器の新性能の公開。

 名のあるパーティーの活躍の話やランキングに至るまで冒険者ならば文字が読めなくても目を通すのが当たり前とまで言われる新聞である。


 そこのあるひとページに新しい情報が載せられていた。

 A級冒険者への昇級者情報だ。


 ここに名前を連ねるのは冒険者達の夢である。

 何せB級は名前のみ記載だが、A級になった瞬間知名度がうなぎ登りし待遇がVIP扱いになる。

 要はハリウッドスターだ。

 実力が認められ、ギルドからのお墨付きが貰えた冒険者は数少ない。

 それだけA級になるのは大変なのだ。

 なにせ条件が厳しい上に、試験だってドラゴンと対峙しなければならないのだ。

 しかも一人で。





「おいおいおいおい!!見ろよこれ!!」


 ドタドタと一人の男が魔術師の家に突撃してきた。

 手には新聞。

 よほど慌ててきたのかしわしわになってしまっていた。


 それを魔術師が怪訝そうな顔で見やる。


「なんだグンジ。そんなに慌てて」

「見ろ見ろ!」


 ズカズカと歩いてきたグンジは魔術師の机に新聞を起き、シワを擦って均しながら開いた。

 一面に大きく記載された記事。

 そこにはとある冒険者の写真(※最新の写真機にて撮影)が。


「おお、あの男もやるじゃないか」

「だから言ったろ?俺のひとを見る目は確かだって」

「はっ、そこは素直に褒めてやるわ」






「みてみて!!お母様お父様!!私が惚れた御方が新聞に載っておりますわ!!」

「お嬢様!!走ると危ないですよ!!」


 侍女が止めようとしているのをするりと華麗にかわして、階段の手すりを滑り降りる。

 このくらいなんて事ない。

 冒険者ならば、あの方ならばきっと二階からひとっ飛びで着地できるはずだもの!

 いつか私もできるようにならなくちゃ!


 後ろで悲鳴をあげている侍女を無視して両親のいる部屋へと駆け込んだ。


「ほら!見てください!!」


 両親が座っている机の上に新聞を叩き付けた。

 その際に何枚か書類が風圧で飛んでいってしまい、それを両親の侍女達が拾い上げている。


 父が書類から顔をあげて新聞を見やる。


「…ほう?コイツはいつぞやの冒険者か。ほーう?A級?」

「あなた、私にも見せてくださいな」


 母が覗き込んできた。

 手には印鑑。


「あらあらまあまあ。一面にお顔が…。インタビューされているの?」

「おい、ウィザウト」

「はい」


 執事のウィザウトが壁際から呼ばれてやってきた。


「これ、このA級というのは凄いことなのか?」

「冒険者の階級ですね。ええ、旦那様の知っていることに当て嵌めますと、A級とは公爵くらいの位置ですかね」

「おおおお!それは凄いな!!」

「まぁー!ねぇ、あなた!これは早めに動いたほうが良いんじゃないかしら?」

「そうだな!」


 父と母が立ち上がる。


「すぐに資金を用意しろ!このトキという冒険者に投資するのだ!!」

「父上素敵です!!」







 とある喫茶店で、若い冒険者がコーヒーを吹き出し噎せていた。


「アウレロ汚いわよ!」

「そーだそーだ!」


 それに仲間のウージョンカとイーサンがブーイングを飛ばす。

 それにアウレロがゴメンゴメンと謝罪しながら飛ばしたコーヒーを拭くために手に持った新聞を丁寧に折り畳んで脇においた。

 その行動に二人は首をかしげる。


 なんだその扱いは。


 机を綺麗にし終えたアウレロはきちんと座り直し、新聞を再び手に取る。

 そして、こちらを見るなり満面の笑みを浮かべた。

 二人はその笑みに鳥肌を立てた。

 なに?

 気持ち悪いんですけど、と、この場にエリナがいたらそう発言しただろう。


「二人とも、これを見てくれ」


 アウレロはそういうと、何故か誇らしげな顔で新聞を机に置いてとあるページを開いた。

 そこには見覚えのある人物の、とても困惑している様子の写真がでかでかと載っていた。

 大見出しには、A級昇級、15年ぶりの盾職上級者誕生の文字が。


「うそーーー!!!トキさん!!?」

「うえええええぃ!!!???まじでまじでまじでぇぇ!!!??」

「ほら見ろよ!!僕の言う通りだったろ???トキさんは絶対に引き込むべきだって!!」


 ギャーギャー騒ぐ三人のもとへ店員が近付いてきて慌てて口を塞ぐと店員は「お静かに」と空耳が聞こえるほどの笑みで圧をかけてから去っていく。


「こうしちゃいられないぞ。オズワッド達にも知らせねーと…っ」

「そうね…!」

「急ぐか…っ!」

「お会計お願いしまーす!!」






 一面にでかでかと弟子の顔が載っている。

 困惑している表情だったが、ガルアもジョコーもトキ達が元気そうで誇らしげに頷いていた。


 そこへ近所の人がやってきた。


「おおお!ついにあやつA級に上がったのか!」

「そうなのよー!しかも一般用試験でですって、凄いわね」


 ジョコーの言葉にガルアが笑う。


「ドラゴンを盾が倒すなんて、いま聞いてもワケわかんないよな!でもアイツはそれを二度もやりとげている。いやぁー、凄いよな。オレは無理だ!」

「ええ、クラフトさんでも無理なのかい?」

「無理無理。だって普通盾なんてどうやって攻撃するのか分からんだろうが」

「ああ、確かに。盾は普通守るもんだしな」

「コイツがやばいんだよ。才能だな」

「天才っつーやつか。そうだクラフトさんや」

「なんだ?」

「せっかくだからこれ引き伸ばして額縁に飾らないかい?」


 その提案にガルアとジョコーは顔を見合わせ、「是非!」と同意した。









 一方その頃のトキ達はというと…。


「……引きこもりたい」

「えええー!ターリャプリン食べたい!」

「あと三日待って…」


 突然の有名人扱いにトキが参り、取り巻きから全力で逃げ回っていたのだった。


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