第57話『いざ試験会場』

 首都から少し離れたところへ移動することになった。


 ギルドが出した馬車に揺らされてゴトゴトゴトゴト。

 空は晴天。

 トンビなのか、鳥が空高く鳴きながら旋回している。

 穏やかだなぁ。

 とてもこれから試験を受けるとは思えん。


「ねぇ、トキ?」

「んー?」

「なんで試験を受けに行くのに馬車に乗ってるの?外でやるの?」

「ああ、ターリャは始めてみるのか。昇級試験はな、大掛かりな装置を使ってやるんだけどな、結構危険なもんで、それ専用の街に置いているんだ」

「危険なの?」

「危険っていっても、関係者が危険なだけだ。それでも通常は魔法で幾重にも護られているからそうでもない。ちなみに俺がこれから受けるA級は危険なので、ターリャは関係者観覧席で待っててもらうことになってる」

「どんなことやるの?」

「基本、戦闘だな。創造魔法妖魔との。ギルドが数値化した能力を元に作り上げた偽物の妖魔と戦って、立ち回りに問題なしと判断されたら上がることができる」


 B級に上がるときはグリフィンだった。

 盾でグリフィンとやりあうとか今でも頭おかしいとしか思えない。

 よく勝てたよ俺。


「なにが来るんだろうな」


 少し怖い。


「トキなら大丈夫だよ。ドラゴン倒したし」

「だと良いがな」










 しばらく揺られて遂に到着した。


「おお…っ」

「ほわぁあ~…!」


 白いドームが近付いてくる。

 あれが目的地の『会場』だ。


「どうです?凄いでしょ?」


 ずっと無言だった馭者が話し出す。

 なんだか嬉しそうだ。


「ウンドラ国で最大の会場なんですよ」

「凄いです。まるで東京ドームのようですね」

「とう、んん??」

「地元にあるこれに似た建築物です。ここまで大きくはありませんでしたが」


 目の前の会場は山だった。

 それに周りに数多くの建築物が見える。


 この会場の関係者や、ここに出入りする冒険者を狙ってお金儲けしようと集まってきた商人たちの店が展開されてる。

 経済回したいなら冒険者になれって諺がここにはあるが、まさしく、だな。


「名物はヒポグリフの串焼きです」


 ※グリフィンのライオン部分が馬になった妖魔。美味い。


 それを聞いて俺は涎が溢れた。

 あれ、物凄く美味いんだよ。

 牛肉と鶏肉を同時に食べたみたいな味がする。


「今晩の夕食は決まりました」

「ふふふ。兄さんわかってるねぇ」


 馭者さんとの謎の友情が芽生えた。

 それにターリャはキョトンとしていた。







 受付を済まし、タグを手渡す。

 確認した受付が書類にさらさらと情報を記入すると、タグが返された。


 と思ったが、文字が違う。

 会場名と時間、名前と階級が記載されていた。


「おお」


 ターリャが面白そうにタグをまじまじと見ている。

 受付が説明を始めた。


「そちらのタグは、この会場での証明書になりまして──」


 説明によるとこのタグはいわば会場を使う上での鍵となっているらしい。何かの施設を使う際に鍵のように使ったり、支払いに使ったり(これはギルドの銀行を持っている人のみ。クレジットカードのようなもの)、身分証明書にもなるらしい。


「宿もあるんだね」

「なんでもありか」


 パンフレットのようなものを用いて一緒に説明を聞いていたターリャが面白そうにあちこち指差して訊ねていた。


 ざっと見る限り、宿、商店街、運動施設、武具屋、魔法具屋、大浴場に至るまでなんでもある。

 俺が知っているアイリスの会場とは大違いだ。

 あそこは、試験の為の場所と装置しか無かったからな。


「図書館あるね」

「ほんとだ」


 終わったらチラッと見に行きたい。

 文字が読めるようになったから、俺もターリャもすっかり本好きになってしまった。


「何かありましたら、近くの係員に声をかけてください」

「ありがとうございます」


 受付を終え、タグに記載されている俺が試験を受ける会場の場所を確認する。

 フィナの5か。

 壁に地図があったので見ると、最上階だった。


「……階段?」

「かもな……」


 嫌だなと思いながら、案内板便りに進むとまさかの簡易型エレベーターが設置されていた。

 いや、エレベーターか?これ。

 手すりのついた板が定期的に下から上がってきて、天井へと吸い込まれていっていた。


 これに乗って上がるのか。

 気を付けないと怪我しそうだな。


「面白そう…!」


 もっともターリャはワクワクしているみたいだが。

 指定された時間まではまだあるけど、どんなところなのかちょっと覗いてみるか。

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