第55話『女王の資格を得る方法』

 オウリの話しに俺は首を捻った。


「…四精獣?ターリャが?」

「はい。北から発生する水を司る精霊の長。玄武です。他にも霊亀とか玄冥とか名前はありますが。アイリスでは『ターリャ』という女神のが有名でしょう」

「いや、有名ではあるが…」


 女神ターリャ。

 アイリス国で水や海を支配する女神で、大亀に乗って、蛇の巻き付いた矛を持った女性として表されることが多い。

 他にも矛を持っているから武術の神とも言われているけど…。


「……」


 ターリャを見る。

 いや、どう考えてもちがくないか?

 どう見たらこれが精霊に見えるんだろうか。


「全然小さくないし、羽も生えてないが」

「? 妖精は小さいものだけじゃないですよ?山のようなのもいますし、羽がなくても飛べるのもいますよ??」

「????」


 そうなのか???


「ご覧ください、うちのセリアを。小さくないですし羽も生えてません」


 くすぐりごっこに移行した二人を見る。

 どう見たって女の子同士のじゃれあいだ。

 角とか尻尾が生えているけど、大したことない。


「確かに…?」

「ですが、詠唱せずとも魔法を操れますし、なんなら古代精霊語がペラペラです」

「……」


 ターリャは確かに魔法が達者だ。

 それに、謎の言語を話せる。

 もしかしてあれがその古代精霊語とかなんだろうか??


 マジックバッグからジョコーさんにもらった例の絵本を引っ張り出す。

 良い年したおっさんが絵本を持ち歩いていることにオウリは軽く怪訝な顔をしていたが、それをスルーして絵本を開いて確認する。


「もしかして、これか?」

「それですね。というかなんで絵本を持ち歩いてるんですか…」

「ターリャが気に入ってたから、お世話になった人にあげると言われてな」


 渡すの忘れていたが。


「これなら説明がしやすいですね。えーと、まずセリア達、四精獣の生まれ方に関してなのですが──」








 四精獣は卵から生まれる。


 詳しくは、その属性に合った神聖な場所に祀られている岩の卵から生まれるらしい。

 例えば、セリアはうっそうと生い茂る森の奥、古代エルフの里と呼ばれる場所の神殿でオウリが見つけたのだという。









「もうビックリしましたよ。岩が崩れたと思ったら、こーんな小さな女の子が転がり出てくるんですもん。それからは子育てで忙しかったですね」

「一から育てたのか」

「ええ。実質娘ですね」


 凄いな。

 女の子の年から考えたら十年以上は子育てしていた計算だ。

 ん?とするならオウリは一体いくつだ??


「といってもまだ三年程度の付き合いですが」

「ぶふっ」


 思わず噎せた。


「?? 三年?」

「……その顔、もしかして精霊の成長の仕方も知らない感じですか?」

「全然」


 そりゃもうぜーんぜん。

 首を横に振る。


「えーとですね、実は精霊達は人とは成長の仕方が異なります──」









 精霊は姿を保っていられる限りは不死身だ。


 そもそもが自然の現象の化身であるために、それがこの世に存在していればいつでも発生しうる存在なのだと。

 だからこそ寿命もなく、永遠に存在し続ける。


 子孫を残すこともなく、そこらに存在し続けて、魔力のバランスを保つ。


 ただ、四精獣の場合は代替えという精神の入れ替わりを行う。

 それによってこの世界の自然、精霊達のバランスを定期的にリセットするらしい。

 なんでも、そうしないと精霊の密度のバランスが偏りすぎて大変なことになるのだとか。


 ちなみに今は『玄武』の時代。


 全体的に気温が低く、水の精霊達が多くて強い。

 竜達の活動も鈍いが、その代わり植物や農作の出来がそこまで良くない。

 水害が多いなどの特徴があるとか。


 それを今ターリャ達が行っている四精獣の代替えの儀式で次の女王を決めて、世界のバランスを変えるらしい。

 そして、その女王を決める方法なのだが、俺はその内容を聞いてぎょっとしてしまった。









「……今なんて言った?ドラゴンをターリャに食わすって??」

「はい。通常、一般的な精霊はドラゴンに食われて消滅し、ドラゴンの魔力の一部として取り込まれます。しかし、四精獣はそのドラゴンを食して“魔力”と“肉”を取り込んで成長するのです。ターリャさんが突然成長したのを見ませんでしたか?その時に側にはドラゴンがいたはずです」

「…………」


 ターリャがドラゴンから出てきた謎の光を食べたのを思い出した。

 あれが、食べる行為だったのか。


「……いや、だけど肉は食べてなかったぞ…?」

「肉を食すといっても、死体にがっつく訳じゃありませんよ。食べているのは肉体に蓄積された情報です。それを取り込むことで四精獣の体は成長するのです」

「…難しいな」

「一回で理解できたらみんな魔術師になれますよ。僕だって知り合いの魔術師に通いつめて理解することができたのですから」

「うーん…」


 漫画とか、もう少し読んでおけば良かったかな。


「という感じでドラゴンをどんどん倒していって、それを食べさせていけばどんどん成長し、大人になります。今は幼獣なので、成獣になるって言った方が正しいですね。そうして成獣になって、聖域に到達できた者が、初めて女王に成れる資格を得るのだそうです。

 ちなみに僕はまだ五回しか食べさせられてません。なんせ僕弱いですので」

「五回…」


 嘘だろ?

 あんなのを五回??

 もう二度とゴメンと思ったのに??


「ああ、言っておきますけど、僕たちが向かったんではありませんよ。ドラゴンも四精獣を食えば上位種になれるので、積極的に襲いに来たんです」

「最悪」

「ちなみに誘われるドラゴンの難易度は前回の順位によってだいぶ変わります。前回の女王は玄武、つまりターリャさんなので、今回の儀式は超超超高難易度だと思うので、トキさん頑張ってくださいね」


 悪夢でしかない。


「……まぁ、でもやるしかないわな」


 くすぐりごっこがしんどくて、仰向けで力尽きているターリャとセリアを見る。


「ふふ、負けませんからね」

「こっちの台詞だ」




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