第42話『勘違い野郎襲来』

 街から少し離れた森の中で、俺はガルアと威力と安定性の確認のために盾を担いでやってきた。


 久しぶりに遠出ができたルシーが楽しそうに森を歩き、今はその辺の草を食んでいる。

 あのドラゴンとの遭遇以降、少し元気がなくなっていたけど、ターリャが毎日話し掛けて撫で回していたならすぐに良くなった。

 ただ、俺の事を抗議するような目を向けてくるのが気になる。

 何かしたっけか?


 でも目を向けてくるだけで、その他は乗せてくれるし問題はない。


「結構コントロール出来るもんですね」

「こんだけできれば十分に立ち回れるだろうさ。なんなら二匹同時でもいけるんじゃないか?」

「止めてくださいよ。冗談でも怖いです」

「ははははは!」


 森林破壊もほどほどに、久しぶりに近場でのちょっとした狩猟クエストを終わらせてから帰路に着いた。

 あとはガルアに一撃加えられるくらいになれば、ドラゴンへリベンジだ。










「ただいま」

「おかえりなさい!」


 ターリャが庭で水を使って遊んでいた。

 本人は訓練だと言っていたけど、膜みたいにして浮かせたり、分裂させたり、時には盾みたいな形に纏めたりと器用なことをしている。

 見た感じ完全に拳のものがあったから、それを指差して「これでなにするの?」と訊ねたら、「殴る」と返答。

 殴られないようにしよう。

 絶対痛い。


 そんなこんなでわりかし平和に過ごしていると、庭に顔見知りになっている近所の人がやってきた。

 そしてちょいちょいと手招き。

 なんだろうか。


「どうしました?」


 するとその人は眉をハの字に曲げてこう言った。


「なんかよぉー、お前さんの事探している人いるんだけどさぁ」

「俺を?」

「どーにもうさんくせぇ連中だから気をつけろよぉ」


 うさんくせぇ連中?

 誰だ?


「わかりました。ありがとうございます」

「んじゃな。お嬢ちゃんにもよろしく言っといてくれ」


 そそくさと去っていく知り合いを見送る。

 誰だ?


 道具屋のグンジさんなわけないし、オブザーバーの皆さんは今でもシーラで活動中(手紙情報では)だし、可能性とするならばヨップファミリーだけどあの人たちは北上していったから違うだろう。

 ほんとうに誰だ?


「トキ!ちょっと手伝ってくれ!」

「はい!」


 倉からガルアが俺を呼ぶ。

 武器庫の倉をターリャが少し破壊してしまったので、今補給作業をしているのだ。










 トンテンカンと作業をし終え、昼休憩と家でご飯を食べていたら突然大声が響き渡った。


「トキナァリィィィィィィ!!!!!!!」


 聞き覚えのある声だった。

 しかも正確に俺の名前を呼べる人物はあいつしかいない。


「出てこいやオラアアアアアア!!!!」

「……」


 なんだ?とガルアが扉の方を見ている。

 俺はあと少し残ったご飯を食べて水場に持っていってから扉を開けた。


 まじかよ。

 なんでアイツいるの?


 思わず溜め息を吐きそうになった。

 何故ならば、庭で騒いでいるのは見飽きた人物。

 元仲間達+αである。


 肩で息をしているセドナが扉の開いた音に反応してこっちを見て、なんでか無言で見詰めあった。


「いたーー!!!!」


 さっきの謎の間はなんだったんだよ。


「なんだよ。なんか用?」


 もう色々めんどくさいから早くどっか行って欲しい。

 そんな気持ちをこめて言えば、何か癪に触ったらしく俺の方にずかずかとやってきた。


「はぁ?なにタメきいてんだよ?敬語だろ?けーいーごー!」


 後ろでエリカとアンリがクスクス笑っている。

 こいつらは俺がセドナに謝って殴られるのを楽しみにしているんだ。

 相変わらず趣味が悪い。


 後ろ手で扉を閉めて、セドナに一歩歩み寄った。

 予想外の行動だったのか、セドナは俺を見上げて止まる。

 そうだろう。

 俺の方がでかいからな。


「なんでだ?俺はもう仲間じゃないんだろ?セドナ、お前に敬語を使う理由がない」

「ッ!」


 セドナの顔がひきつった。

 この後の行動はだいたい手が出ていたが。


「……ふ」


 だけど今回は違った。


「ははっ!聞かなかったことにしてやるよ、俺様は寛大だからなぁー!」

「……」


 何か企んでるなコイツ。


「おい!光栄に思えよ?お前みたいなグズでノロマを雇う心の広い紳士は一人しかいないんだ」


 セドナがニヤリと笑ってこう言った。


「俺様の盾に戻れ、トキ。わかったな?」


 は?なに言ってんだコイツ。

 あまりのバカ発言に聞き間違いかと疑ってしまった。

 盾に戻れだ?

 んでもって、そんな命令俺が聞くと本気で思ってンのか?


「おら、返事は?」


 本気で思っているらしい。

 とことん呆れた頭、いやこの場合は脳内ハッピーセットとでも言ってやろうか。

 返答はもちろん決まっている。


「するわけねーだろ、バカかお前」


 セドナが固まった。

 後ろの元仲間も固まった。

 そりゃそうだろう。

 俺が反抗したこと無いもんな。

 なんで反抗しないのかも考えたことも無かっただろう。


「本当におめでたい頭だな、セドナ。なんで今も俺がお前のいうことを聞くと思ってんだ?聞くわけ無いだろ」


 固まっていたセドナの顔が怒りに染まっていく。

 いつもは俺の事バカにした顔だけど、今はぶちギレ顔。

 はははっ、目が血走ってるし唇震えてら。


「お…」


 さて、来るか?決まり文句。


「お前、俺にそんな口聞いていいと思ってンのか!!?拾われた分際の癖に!!汚ぇ異国人のくせして!!英雄ガルア・クラフトの甥であるこの俺に向かって逆らっていいとでも思ってンのかあああああ!!!!」


 振り上げられる拳。


 溜め息しかでない。

 英雄の甥がなんて?

 そんなん関係あるわけ無いだろう??


 セドナの拳を掌で受け止める。

 ぎょっとしたセドナ。


 まさか受け止められると思ってなかったんだろうな。

 そのままどうしてやろうかと思案していると、「おいおい」と後ろでガチャリと扉の開く音がした。


「誰だ?今オレの名前を呼んだのは?」


 セドナの決まり文句に反応して、ガルアが出てきてしまった。




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