第43話『クラフト』
ガルアが出てきてしまった。
ヤバイなこれ、ややこしい事になってしまった。
こうなることがわかってたら、事前に説明していたかもしれないのに。
だけど、なんだろう、変な空気に包まれていた。
主な理由としてはセドナがガルアを見て、ア?とガンを飛ばしていること。
すげえなコイツ、いつも脅しのネタに使っている英雄にガン付けてるぞ。
一周回って尊敬しそうだ。
「誰だお前」
……聞き間違いか?
ガルアに向かって誰だお前って言わなかったか??
「お前だろ?オレの事を呼んだのは」
なんだ?
様子がおかしいな。
「ハァ?誰もお前みたいなくたびれたオッサンなんか呼んでねーよ!引っ込んでろバーカ!」
「ほう?」
思わずチラリとガルアを見る。
面白そうな顔をしていた。
なんだその表情。
「つか離せっつの!!」
セドナが拳を引っ込めて距離をとった。
すると、ガルアが俺をちょっとだけ押して出てきた。
そしてそのまま前へ。
「トキ、トキ」
「…ターリャ?隠れてなさい」
扉の裏からターリャが覗き見していた。
俺の言葉を無視してターリャは続ける。
「ねぇどうなってるの?」
「……俺にもわからん」
本当にわからん。
状況が不明すぎて困惑していると、ガルアがセドナに向かって言った。
「へぇー、お前が英雄の甥か。年は20ちょいくらいか?」
「だったらなんだよ!文句あんのかオッサン!」
「いいや、文句はないな。ちょっと質問なんだが、その君の言う英雄ガルア・クラフトは君の親族なんだな。どこら辺に住んでいるんだ?」
「そんなの知ってどうすんだよ!」
ガルアが笑顔を浮かべている。
怖い方ではなく、本当に面白がっての笑みだ。
これが逆に怖い。
「同じ名前なんだ、親近感がわく」
「……北部、エクーブング地方だ」
エクーブング地方は俺達が旅の初めにうろついていた地域だ。
「とすると、ミドルネームはチーグか。基本エクーブングから出てこない連中だ」
「…あ?」
ガルアがポケットからとあるものを取り出した。
「少し教えておくが、英雄の方のミドルネームは“ポー”で、そんなところに親族がいるなんて聞いたことはない」
チャリンと、タグがセドナの前に垂らされる。
「……」
何か言おうとした口が開きっぱなしで止まり、視線がタグに釘つけになっていた。
そうだろうな。
この認証タグは何より本物である証。
魔法で徹底管理され、複製しようとしても何故かタグと同じように文字が彫り込めない(必ず失敗する)から偽物は存在しない。
俺のもそうだ。
だから身分証として活用できていた。
ハクハクと口が開閉しているセドナ。
その視線がガルアに向いたとき、いつのまにか後ろから覗き込んでいたヤァドが「うひゃー!」と変な声をあげた。
「これマジっすか!?え?なになに?このオッサンが本物ってことはー??」
「違う!!これは偽物だ!!!」
感情的にガルアのタグを払い飛ばそうとしたけど、反応速度が上のガルアに避けられて空振り。
その間、後ろの方でエリカとアンリがヒソヒソしている。
「いやいやいや、セドナさんもわかってるっしょ?タグは偽物作れないようになっているんすよ?」
「……っ!ちがう!!ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!!!!俺は確かに聞いたんだ!!父さんが俺に言ったんだ!!お前の叔父が英雄だって!!」
ガルアが溜め息を吐きながら首を掻いた。
「そもそもクラフト姓は多い。それこそ住んでいる地域によってミドルネームを分けるほどにはな。それにガルアって名前も珍しくない。被る奴はいくらでもいる」
この世界の名前の付け方はわりと大雑把で、
あとは加護を願って、こうあって欲しい願いを古い言葉、ノーング語から取ってきたり。
確かガルアは“勇敢”って意味だと聞いた気がする。
「そ……、じゃあお前は俺の親父が嘘つきって言うのかよ!!!」
「さあな、騙された可能性もある。俺が脱隊してから、あちこちで俺の名前を名乗る輩が増えてたからな。最も、本物はこれを持っているが、お前の場合それも盗んだものだと言いたいんだろ?」
ぐっ、とセドナが言葉に詰まった。
図星らしい。
セドナはプライドが高くて負けず嫌いだ。
例え自分が悪かったとしても絶対に認めない。
ほら、今でもお前がなにか仕掛けたんだろうと言いたげな目をして睨んでいる。
もっとも、お仲間さん達は懐疑的な視線でセドナを見ているけどな。
「まぁそれぞれ譲れないものはあるだろうさ。で?オレが本物かどうかは置いておいて、オレの弟子をずいぶん勝手に貶してくれたな。しかも貶しておいて、戻れってのはどう言うことなんだ?」
「オメーには関係ねーじゃねーか!!これは俺とアイツの問題だ!!でしゃばってくるなよ偽物!!」
「そうだな、これはお前とアイツの問題だ。オレが手を出すもんでもないがな」
そうだろう!と少しばかり自信をセドナが取り戻した。
ガルアが俺を見る。
「本来なら話し合いでやる問題だが、難ある場合決闘と言う形で物事を決めるというのがこの地方にある。どうだ?」
セドナにガルアが提案した。
「お前さんは見たところ剣士。トキは盾職。決闘には基本双方とも剣でやりあうもの。トキが剣を持ってお前さんと勝負し、負けた方が勝った方の指示に従うってのは?奴はグズでノロマなんだろう?勝機は十分すぎる程だが」
うわ、ガルアが悪い顔してる。
そんな顔じゃ、誰も英雄だって思わないぞ。
というか、ガルア俺を抜きで提案か。
まぁ、しょうがないか。
セドナの場合、言葉じゃ絶対に引き下がらない。
なら、一番目に見える形で勝敗を付けた方が分かりやすく敗けを認めさせやすいもんな。
おまけにセドナの得意分野の剣でだ。
盾ばかりの俺には一切勝機の見えない勝負事だし、絶対に乗ってくるだろう。
ガルアと俺の予想通り、セドナは自分が有利だと思ったらしい。
俺を見てニヤリと笑うと。
「いいぜ!恨みっこなしの決闘に乗ってやるよ!俺が勝ったらお前は一生俺の下僕だ、逆らわずに俺のために尽くしてもらうからな!」
要は、元の関係に戻れと。
「良いだろう。なら俺は二度と俺に関わらない事を約束してもらおうか。口約束でも書面でもなく、魔法契約でな」
「は?望むところだ!俺だって魔法契約で固く結んでやらぁ!」
魔法契約は強制力のある契約書だ。
口約束は守ろうとしなければ守られないし、書面は損失すれば効力を失うけど、魔法契約はその人の魂で契約を結ぶから破棄は一生できない。
契約を破ろうとすると、すぐに全身に激痛が走って気絶するんだとか。
そうだ。
ついでにガルアにも関われなくした方が良いんじゃないか?
そうすれば俺みたいに脅される奴が二度と生まれないように。
俺とセドナの確認が取れたところでガルアが宣言した。
「決闘は明日の正午。魔法契約をできる魔術師立ち会いのもと、街の決闘広場にて開催する!」
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