第21話『ゴードヴォンド』
甲板に上がると既に嵐に対する対処は終わっていて、甲板は船員達が動き回る以外は閑散としていた。
あの装置も止まっていて、故障しないようにか、頑丈そうな布に包まれて大量のロープで固定されていた。
さすがに嵐の中では風の魔導具といえど、無力なんだろうな。
船のヘリに掴まって海の様子を見た。
海の色がいつもより黒く、波が大きくうねっている。
陸での嵐でも十分に怖いのに、海上の嵐なんてどんだけ怖いんだよ。
ポツポツと雨も降り始めた。
そろそろ下に避難した方がいいな。
「さて、部屋に戻──「ゴードヴォンドだ!!!!」──?」
ゴードヴォンド?
帆を張る柱の上にある見張り台で誰かが水平線を指差し叫んでいる。
なんだ?聞いたこと無いけど、海の妖魔か?
「!」
汽笛のような音が聞こえる。
それは見張りが指差した方角から。
避難した方がいいのは分かっているけど、どんなものなのか気になってそちらに視線を向けた。
「なっ!?」
初め、大きな鯨が跳ねているのかと思った。
でも、二回目に姿を表したときその全貌を目にして震え上がった。
頭部は太くて頑丈そうなトゲに覆われ、背中とヒレからにも槍みたいに長いトゲが突き出している。
口なんか、何処が歯で何処がトゲなのかわからない程の構造をしていて、いうならば泳ぐモーニングスターだ。
いやそれだけならまだいい!
そいつはまっすぐにこの船を目指して突進してきていた!!
なんで!!?
もしかしてあれか!!?
縄張りに入られたからロックオンってか!!!
脳内に駆け巡る同じような行動を取った妖魔の記憶。
あり得なくはない。
そして、そんな時ほど容赦がない。
「やばいぞ、これ…」
あんな頭で頭突きなんかされてみろ、この船は相当なダメージを喰らうはず。
下手したら沈没…。
「急げー!!!防壁準備!!!」
「三重に張れ!!!出力最大にしろ!!」
船員達が怒鳴り声を上げながら何かの装置を甲板の床の下から持ち上げた装置を一斉にゴードヴォンドに向けた。
なんだ?
……あっ!!
「展開!!!」
すんででその装置が何なのかを思い出して、慌てて頭を下げたその上を光の幕が通過する。
コゥ式魔導防壁だ。
船の側面に金色に輝く障壁が張られる。
その障壁にゴードヴォンドが突っ込んだ、
凄まじい轟音を立てて障壁が粉砕した。
激しく揺れる船のヘリに必死にしがみつく。
「うわああああ!!!」
「くそっ!立て直せ!!次が来るぞ!!」
「ダメです!!障壁魔導具の半数が損壊!正常に作動しません!!」
船員達が悲鳴をあげる。
装置の魔法効果を発射する部分が砕けていた。
あれだと起動したところで意味がない。
え、やばいんじゃない?
それはガチでやばいんじゃない!!??
というよりもコゥ式魔導防壁が破壊されるなんて、どんな衝撃──
「うわああ!!引き返してきた!!!もうだめだあああ!!!」
さっきの衝撃で弾き飛ばされたゴードヴォンドが体勢を立て直して向かってくる。
このままだとこの船は粉々に破壊される。
それだけは阻止しないと!!!
でも、どうすればあれに対応できるんだ。
「……、ええい!!やるだけやるしかねぇ…!!」
盾の小型化を解いて構える。
「ちょっ!あんたなにしてんだ!!」
「死ぬ気か!!」
船員達が俺に向かって何か言っているが、今さら逃げたところでどうにもなら無い。
なら、出来ることをやるまでだ!!!
船のヘリに立ち、突進してくるゴードヴォンドを睨み付けた。
目が合った。
「 よし!!勝負だ!!! こいデカブツ!!! 」
腹から声を出して挑発。
すると妖魔は俺目掛けて速度をあげた。
「ふっ!!」
ゴードヴォンドのトゲが俺の盾に衝突。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
このまま、受け流して…ッッ!!!!
ギギギと軋む音がする。その音が船からなのかコイツのなのか、それとも俺の体なのかはわからないが、折れそうな不快な音を立てながらもゴードヴォンドの猛攻を受けきった。
そして、全身の力を振り絞り、受け流そうとしたのだが。
(…何処へだ)
今更ながら何処にも流せないことに気がついた。
右も左も不可能。
下へ流せば背ビレのトゲが降ってくる。
何処にも無理だと悟るや、すぐさま受け流しを中断した。
受け流せないとなると、すべての負荷が俺の体と盾にやってくる。
だけど、ここで負けるわけにはいかない。
全力で雄叫びを上げながら耐えていると、ガチャンとロックが外れた。
そうだ!!これがあった!!!
「喰らいやがれェェ!!!!!」
一気に剣を引き抜いた。
次の瞬間、剣から凄まじい魔力がゴードヴォンドの方へと解き放たれ、凄まじい衝撃波が発生。
「おわああああ!!!?」
勢いよく吹っ飛ばされて甲板を転がり、反対側のヘリへと衝突。
凄まじい波と共に船が横へと押し流され、ふと視界が空を向いたとき信じられないものを目にした。
頭が砕けたゴードヴォンドが空を飛んでいた。
あ、衝撃波で雲散って晴れてら。
ドオオンと盛大な水飛沫を上げてゴードヴォンドが海へと落下した。
もう一戦来るかと身構えたが、いくら待てどもゴードヴォンドは動かない。
押し勝った…のか?
「「「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」
「!!!?」
突然沸き上がった歓声にビビった。
「えっ!?えっ!?なに、うわああ!!?」
そして何がなんだか分からぬ間に担ぎ上げられて胴上げ祭りが開催され、ご馳走を振る舞われたり船長直々に船護衛のスカウトをされ、逃げ回ったりしていた。
三日後、とうとう水平線に陸地が見えたのだった。
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