第7話『狩りの準備』

「ありがとうございましたー!」


 少し高めのフライパンと鍋を買った。


「お料理するなら、フライパンもう持ってたのに」


 ターリャが首をかしげていた。

 確かに俺はすでにフライパンを持っていた。小さいけれど、一人分作るにはわけないフライパンだ。

 だけど、俺はフライパンを購入した。それはなぜか。


「まぁ、それは後で教えるよ。その前に確認しておかないといけないのがある」

「?」


 看板を見ながら素材屋を探す。

 ギルドの近くには絶対にあるはずだと見渡せば、思った通り素材屋を発見した。


「何か買うの?」

「今回は購入じゃないよ」


 店の中に入る。

 見慣れた店内、棚に並んだ瓶や缶。壁には見本としての毛皮と妖魔の頭蓋骨が飾られ、それぞれに値札が付いている。


「らっしゃい」


 人相の悪いオッサンが店番をしていた。

 カウンター越しに圧を感じる。


「何かお探しで?」

「いえ、今回はお聞きしたい事がありまして」


 めんどくさそうにオッサンがこちらを見る。


「ここは素材の買取りもやってますか?」

「ああ。やってる」

「その際に必要なものはありますか?」

「なんだ?冷やかしか?」

「いえいえ、買い取ってくれる場所を探しているのですが、冒険者の資格を持ってないもので」

「ふん。なるほど」


 手招きされた。


「うちは商人や解体屋なんかも来るからな。特に資格は必要ない。まぁ、余程のものでなけりゃー買い取ってやる」

「なるほど。これなんかは買い取ってくれるのですか?」


 鞄からサーペントサーベルの牙を取り出した。

 毒が凄いので油紙でぐるぐる巻きにしていたのをほどくとオッサンはたじろいだ。


「……拾ったのか?」

「いえ、倒して抜きました。毒腺は持ってこられませんでしたけど、これは買い取れますか?」

「…………。ちょっと待ってろ」


 オッサンは一旦カウンター裏の暖簾に向こうに引っ込み、何やら分厚い本を持ってやってきた。


「どのタイプだ?」


 本を広げられる。

 羊皮紙にはサーペントサーベルのイラストと特徴が詳しく記載されていた。

 もっとも文字は苦手なのでイラストしか見てないけど。


「ええと、これですね」


 三種のうちの紫色と書かれているものを指差した。


「デッドサーペントサーベルか…。危険度B3のだぞ?本当に倒したのか?」


 疑いの目を向けられる。

 これは仕方がない。


「ちょっと前までは元冒険者でして、一応B級パーティーにいました」

「なんだ…、そうか。なら可能性はあるわな」


 納得してくれてよかった。


「しかし、こんな取り扱い要注意の劇物はさすがに予期してなかった。悪いがうちは今手持ちがない。もう少し待ってくれるのなら買い取れるが、どうする?」


 手持ちというと、支払う金の事か。

 え?これ実は高級品だったりするのか?


「ちょっと考えてみます」

「……、サービスするぞ」

「例えば?」


 なんだ?サービスって。


「ダイアベアーの毛皮をやろう。これでマントを作れば背中に傷は付かない」

「なるほど」


 ダイアベアーは爪が銀色の小柄な熊種の妖魔だ。

 小柄だが防御力が凄まじく、剣も矢も無効化され、しかも俊敏で気性が荒くて討伐に手間取った経験がある。

 確かにあれでマントを作るのはいいな。


「では、予約の契約書を交わしますか」

「! ではすぐに用意する」


 オッサンはカウンターの下から手形を出した。

 その真ん中に水をたらし拭き取って、串で文字のひとつを書く。

 これで予約完了。

 あとはこれを二つに割ってお互いが所持すれば完了。


「では、また来ます。行くか」

「ん!」


 手を繋いで店を出る。

 さて、素材が低レベルなら売れると分かった。

 次は薬屋。


「ええで」

「マジですか」

「なんならこのリストにあるの早々に持ってきてくれたら早期報酬やる」

「やります」


 なんだこのトントン拍子と思わず『罠…?』と疑いたくなった。

 じゃあ今までハズル町での謎ルールは一体…??

 あれも嫌がらせだったのかな。


「次はどこ行くの?」

「次はターリャの装備を買うぞ。これから森に潜って狩りをするから、その為の防具が必要だ」

「森は今までいたじゃん。これで平気だったよ?」

「あの森もまあまあ妖魔が出る所だったけど、できるだけ刺激しないように縄張りを避けたり獣避けをしてたからな。でも今回はあえて縄張りに踏み込んでいくから結構危険なんだ」

「……」


 ターリャが何を想像したのか怯え始めた。


「もちろんターリャには安全な所で隠れてて貰うから大丈夫だ」

「…うん」


 ターリャが指先で俺の袖を掴む。

 心配だよな。でもこれが一番手っ取り早いんだ。


 防具屋でターリャの身の安全を守るための防具を揃えた。

 首の保護付きマントに膝当て、足首を守るサポーターに胸当て。

 そこそこ高かったけど、防具はけちったら良くない。


「どうだ?」

「重い…」


 それは仕方ない。

 素材が素材だし。


「慣れるしかないな」

「うー…」


 最後に道具屋で回復ポーションと傷薬を購入して出発した。


「さて、薬屋のリストによると、北の森で採れるものが集中しているらしい。ついでにそこで狩りもする」


 というより、また北か。

 もしかしてもう少し北に行けって事だったのか?

 どっちにしてもまずは資金作りが重要事項だ。


 鬱蒼と繁る北の森に踏み込む。

 思いの外草の丈がある。

 これは奥に行くまではターリャを担がないと迷子になるな。


「よっ」

「わっ!」


 ターリャを担ぎ上げて森の奥を目指す。


 ザクザクと落ち葉の音が歩く度に鳴る。

 焼き芋食べたいな。


 あちこちに注意を向けながら、勘を頼りに探していくとあっという間に薬草が集まっていった。

 だてに10年薬草漁りしていた訳じゃない。


「……!」


 動物の糞を見つけた。


「何? うんこ?」

「これは猪のだな。えーと」


 近くの木を見ると、固いもので引っ掻いたようなものが幾つもあった。

 間違いない、ホーンボアだ。

 肉は固いけど、角は薬の原材料になるから売れる。


「よし、決めた」


 猪狩りだ。

 鞄からフライパンを取り出す。

 それを見てターリャが首をかしげていた。


「今夜のご飯は猪だ」









「いた」


 ホーンボアの群れを見つけた。

 数は瓜坊も合わせて17匹。雄が5か。


「ターリャ。先に言っておいた通りにこの上で待ってて」

「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。しっかり掴まってて」

「うん…」


 ターリャを木の上に乗せ、荷物を預けた。

 よーし!久しぶりにやるぞ!

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