山賊盗賊野盗

「師匠、大きな声を出さないで下さい」


 ノクスはベットで眠るミレの口を左手で塞ぎ、右手は人差し指を立て、自らの口に当てる。


「何者かがいます」


 ミレは少しだけ暴れたが、ノクスの言葉に大人しくなる。頭をコクコクと動かし、理解したことをノクスに伝える。それを見て手を離すノクス。


「小川の上流から、こちらへ向かって来る三人組が見えますか?」


 ノクスは小声で話しかける。


「うん、見える。でも旅人かもしれないわよ」


 月明かりはあるが、少し距離がある為ハッキリとは見えない。


「そうですね、様子を見ましょう。隠密魔法もかけていますので、余程大きな音を出さない限り気付かれることはないでしょう」


 何か喋りながら、ゆっくりとこちらへ近付く三人組。段々と声も顔も認識出来る距離になる。


「……アイツらの顔見たかよ!」


「あぁ、最高だったな!」


「だけど大して金目のものは持ってなかったな」


「これじゃ一晩飲み歩いたら消えっちまうぜ」


 物騒な会話の内容がノクスとミレの元へ届く。


「どうやら野盗のようですね」


 ノクスがミレに耳打ちする。吐息に顔が赤らむミレ。


「あのね、大事よ距離感!」


 小声で怒鳴るミレ。三人はかなり近くまで来ている。この場所に不釣り合いな大きなベット。いまだパチパチと音をたて、炎がゆれる焚き火。


「これ絶対気付かれるわよ。どうするの戦う? 逃げる??」


 未だに暖かいベットの中に座るミレ、かたわらにしゃがむノクスへと聞く。


「いえ問題ありません」


 端的に答えるノクス。王都に来るまでも何度が似たような状況になったが、真横に立たれても気付かれることはなかった。


「そう、そこまで私の魔法を信用しているのね」


 過度な評価に内心喜ぶミレ。


( あっ…… )


 魔法を内緒で掛け直したことを思い出すノクス。


「とっ、とにかくここはやり過ごしましょう。先ほども申し上げましたが、大きな音を出さない限り大丈夫です」


 一応念を押すノクス。もう三人は五メートルも離れていない。


「そんなことよりも師匠」


 ミレを見つめ質問する。


「あの三人で、好みのタイプはいますか?」


「はぁっ!?!?」


 突拍子も無い質問に、思わず大声を出すミレ。ノクスが止める間もなく、叫び声は三人に届いた。


「「「誰だっ!?」」」


 同時に叫ぶ三人。サッと短剣を抜き、月明かりに光る。


「何でこんなところにベットが!?」


 突然現れたベットに困惑する三人。ノクスは仕方が無いと杖を抜き、立ち上がる。


「私の名前はヒエムス・ノクス! スキエンティア魔術院の特級生だ! 痛い目にあいたく無ければここから立ち去れ!」


 師匠にもしものことがあってはならない。出来るなら穏便にすませたいノクス。脅す意味合いも兼ねて、金のブローチを見せる。


「あぁんっ? 痛い目だと!? 俺達三人相手に脅し文句を垂れるとは良い度胸じゃねぇかっ!」


 小さな頃から山の中で過ごした三人に、ブローチの効果は無かった。変わりに興味を注いでしまう。


「なぁ、あれきんじゃねぇか??」


 一番背の低い男が、隣の中背の男に話しかける。


「……おう、ありゃ良いかねになるな」


 中背の男は頷き、一番背の高い男に声をかける。


「相手はガキが二人、しかも魔法使い。こんなところでヨロシクやってる変態どもだ、楽な仕事だぜ」


 背の高い男はニヤリといやらしい表情をする。対人戦において魔法使いは弱かった。短い詠唱では威力は弱く、長い詠唱には隙がうまれる。そのことを経験から理解している三人。それに今は距離も近かった。


「早くやっちゃおうぜっ!」


 背の低い男が叫ぶ。身構えるノクス。


「まぁ待て。相手が名乗ってるんだ、こちらも名乗るのが礼儀だろうよ」


 背の高い男が背の低い男を止め、ニヤニヤと笑いながら名乗る。


「俺の名前は!」


 ナイフを逆手に持ち構えるサンゾク。


「そして俺が!」


 サンゾクから離れ、右に位置を移すトウゾク。


「そして最後にオイラが!」


 サンゾクから左手に位置取るヤトゥ。


「ヤトゥ!? そこは野盗ヤトウでしょ! 何で最後だけちょっとオシャレなのよっ!!」


 未だにベットから出ない大物ミレ。予想が外れ思わず叫ぶ。ビックリする四人。


「しっ、師匠……」


 初めての戦闘にガチガチに緊張していたノクス、師匠の一言により緊張がほぐれる。心の中で礼を言い、より一層尊敬するノクス。

 

「何言ってんだこの女!?」


 意味がわからないヤトゥ。心の中で頷くサンゾクとトウゾク。


「( 私が戦闘で役に立たないことは)分かってると思うけど、問題ないわね弟子」


 ベットの中から確認するミレ。


「( 師匠の手を煩わせる程の相手で無いことは)分かっています。仰せのままに」


 冷静になった頭で考えるノクス。


( 勝利条件は師匠に傷を負わせることなく、相手の制圧……、問題ない!)


 杖を握りしめ、力が湧いてくるノクス。


「もう良い、お前ら女は殺すなよ! さぁ、やっちまえっ!!」


 サンゾクの掛け声に、飛び出すヤトゥとトウゾク。ナイフを持って飛びかかってくるヤトゥに、ノクスは顔の向きを変えずに杖先だけ向け、呪文を唱える。


!』


 空中で静止したヤトゥ、そのままの格好で地面に突っす。


 トウゾクはミレを捕まえようと襲いかかる。ミレは頭を抱えて身を守ろうとし、その上空をノクスの長い脚が、空を切って伸びる。


「師匠に触れるなっ!」


 ノクスの放った蹴りはトウゾクの顔面を捉え、後方へと蹴り飛ばす。顔を蹴られ怒り心頭のトウゾク、直ぐに飛びかかろうと体制を立て直す。


「待てっ! トウゾク!」


 ノクスの動きを見て警戒心を最大限に高めるサンゾク。


( 詠唱が早過ぎる、コイツは一筋縄じゃいかねぇぞ……)


 横目でヤトゥを確認するサンゾク。死んではいないが、戦闘に参加するのは無理。そう判断する。


「油断するな、二人で同時にやるぞ!」


 トウゾクに指示を出し、ナイフをもう一本取り出す。それを見たトウゾクが頷きタイミングを計る。


 サンゾクがナイフを投げる動作と共に動き出すトウゾク。ナイフが相手に命中するのと同時にトウゾクの右拳が相手を捉え、時間差で二本目のナイフが命中する。トウゾクの背中にある手斧で追撃しトドメを刺す。二人の必殺コンボのはずだった。


 ノクスはサンゾクがナイフを投げる動作と同時に呪文を唱える。


しん!』


 大地は大きく揺れ、まともに立つことすらままならない。地面に手をつき動けない二人にノクスは追加の呪文を唱える。


「師匠を襲った事、後悔するが良い……『ひょう!』


 一瞬で氷に包まれる三人。ノクスの起こした魔法の数々に、呆然とした表情を浮かべるミレ。


「師匠! お怪我はありませんか?」


 ミレを確認し、無事な姿に安堵するノクス。


「フフッ、何これ?」


 氷漬けの三人を見て、笑いがこぼれる。


「……ちょっと、イヤかなり引くレベルだけど私に魔法を教える資格はあるようね」


 何故か上から目線のミレ。


「合格」


 ひざまずき、こうべを垂れるノクス。

 

「ありがたき幸せ!」


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