如月
—— ノクス…… ノクスッ!!——
師匠の呼ぶ声が聞こえ、ヒエムス・ルナ・ノクスは深い底から意識を引っ張り上げる。
背中に感じる雪の冷たさと、顔に感じる
ゆっくりと
「師匠と住んだ森では無いな……」
スクスクと伸びたもみの木も、師匠と過ごした
ノクスは自ら行使した魔法の変化をゆっくりと確認する。成功する自信はあった。師匠の
( 残された時間は十二ヶ月……、まずは師匠を探さなければ)
ノクスは身なりを確認する。師匠にもらった赤いストールを肩に巻き、上から星空のように青黒いローブを
腰に巻いたベルトに袋があり、中身を確認すると大小様々な金銀宝石が袋の半分まで入っていた。
(これだけあれば、当分金には困らないだろう)
闇の魔術師が現れ、四季から春を奪い去って以来国は崩壊し、ノクスの生きた千年先にこの時代の
ノクスは記憶を頼りに雪の上を南へと
( 確か千年前には、
ノクスは師匠の身の上話を聞くのが好きだった。
優しい口調の師匠から聞く春は暖かく、抑揚のあるリズムから夏に思いを
(もし予定通り魔術が成功したのならば、今はフムス暦七百十六年の二の月のはず。この頃師匠はスキエンティア魔術院に入学し、二年目の学生生活を送っているはずだ)
百八十六センチある長身のノクスは、
山の麓まで降りて来たノクスの目に、信じられない光景が飛び込んでくる。そこは雪が溶け、せっかちな春の花が芽吹き、大地に色をつけていた。
( 春がすぐそこまで来ている! なんて美しい景色なんだ……、だが何故?)
鮮やかな春の黄色い花が、ノクスの蒼白い瞳すら溶かすように輝く。しかしそれと同時に
「まさか時を
世界を冬に閉じ込めた悪の魔法使い。千年後に残った魔法使いの情報は少なく、女性であることと少しの見た目、それとノクスに
( もしも時間軸がズレ、師匠が産まれる前に戻ったのなら私の残された時間では足りない。どうか、どうか愛を知ることが出来る年齢まで、育っていて下さい……)
ノクスは天を仰ぎ、亡き師匠に祈る。
麓の村を見つけ、急いで中へ入るノクス。入って直ぐの井戸にて、
「ご老人! つかぬことをお聞きしますが、今はフムス暦何年でしょうか?」
老人は
「なんだいあんた、旅人かい?」
老人は初めて見るノクスに尋ねた。ノクスは視線を落とし、顔を背ける。千年後の人間と同じで、ノクスの容姿をきっと責めるだろうと思い、心が怯えてしまう。
「……はい。
嘘で答えてしまう。明らかに旅人には見えないだろうと思い、逃げ出そうかと迷う。
「そうかい、あんた学者か魔法使いかね。それにしても見聞を広めようって人間が、
パッと顔を上げ、目を見開くノクス。口元に自然と笑みが
( 良かった! 丁度一年ズレただけだった。だったら師匠の居場所はハッキリしている!)
ノクスの表情に一瞬驚く老人。
「そんなに
ノクスは一言老人にお礼を述べ立ち去る。
( ここからスキエンティア魔術院のあるサルトゥス王国まで、急げば一ヶ月で着く。上手くいけば入学試験に間に合い、師匠の同級生として生活できる。そうなれば私の目的も達成しやすいだろう」
雪解けの道を、西に向かって走る。師匠のいるスキエンティア魔術院に、志を抱きい足を動かす。
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