銀河英雄伝説論
加藤 良介
第1話 大人になってから分かるヤンの非常識さ
SF超大作の考察文を上げることになろうとは。
この考察には発狂レベルのネタバレを含みます。ご注意ください。
さて、エッセイも書きなれてきたことですし、そろそろ私もこの作品について考察してもいいんでないでしょうか。
もちろん。全巻読破。しかも徳間新書版(字が小さく、上下二段方式)で所持しておりますし、アニメも何周したか覚えておりません。
私は視力がよくありませんが、低下した理由は中学生の頃に寝っ転がりながらポテチ片手に、この小説を読んでいたからに違いありません。何処に損害賠償請求したらいいんでしょうか。
正直。短編ではなく「銀河英雄伝説概論」か何かで、連載にしたいぐらい好きですが、ライフワークになっちまうので、取りあえず短編で書きます。
皆様。この、エッセイを開いているという事は銀英伝についての基本的知識はお持ちの方々ばかりと、想定して話を進めていきますので、読んだことないよと言う方は、今すぐブラウザバックして、キンドルで買うなり、書店に走るなりしてください。
読んで損しないことだけは、保証致します。
では、始めて行きましょう。
ヤン・ウェンリーは魅力的なキャラです。
原作八巻で彼が死ぬまで、私は彼がこの作品の主人公だとばかり思っていたほどです。
子供であった頃は、本気でヤンみたいな人生を送ってみたいなどと考えておりました。
しかし、大人になってからは価値観が変化したのか「ヤンってやばくねぇ」と思うようになりました。才能ではありません。社会人としてです。
そして、私の中である提督の評価が上がっていきました。それまで、箸にも棒にもかからなかった人物です。人気投票しても100位以内に入れるかどうかも怪しい。
それは、第一巻でヤンの上司を務めていたパエッタ中将です。
パエッタ中将は参謀であったヤンの進言を聞かずに、艦隊を危機的状況に追い込んでしまいます。しかも、旗艦を攻撃され負傷し指揮が取れなくなってしまいました。
「なんだよ。ヤンの意見も聞かずに、希望的観測で判断して裏目に出た上に負傷退場なんて。カッコ悪いおっさんだなぁ」
って、ガキンチョの私は思っていました。いや、今でも若干は思ってはいますが。
小説版を読んでいた時はサラッと読み飛ばしていましたので、擁護できないミスだなと思っていましたが、アニメ版を見た時、少しだけ評価が変わりました。
パエッタ提督は負傷し医務室に運び込まれる前に、ちゃんと指揮権をヤンに移譲しています。
この時のパエッタ提督の選択は二つあったと思います。
一つ、司令部要員で五体満足のヤンに指揮権を委譲する。
一つ、分艦隊の指揮官に指揮権を委譲する。
軍組織的に言うと、後者の方が正解かと思われます。
ヤンは当時、准将でしたが肩書は参謀です。軍組織についてお詳して方ならピンと来るはずですが、本来、参謀には指揮権はありません。
通常の序列で言えば、分艦隊を指揮している少将なり准将なりに指揮権が移るはずです。第十三艦隊で言うと、フィッシャー提督か、アッテンボロー提督ですね。
しかし、パエッタ提督はヤンに指揮権を委譲しました。
お話の都合上と言えばそれまでですが、この時点でパエッタ提督は分艦隊の指揮官よりヤンの手腕を評価していたと考えられます。
「なんだ、ちゃんとヤンの事、評価してたのかパエッタ提督」
そうなんですよね。パエッタ提督ってヤンの才覚を理解しているんですよ。結果として、同盟軍は全滅だけは免れ、パエッタ提督も無事、生還します。
彼の判断は正しかったと言えるでしょう。
この「ヤンをきちんと評価している」という感覚は、ヤンが第十三艦隊を組織するときに確信に至りました。
なぜなら、ヤンが艦隊を編成するにあたって選んだ幕僚たちは、全てヤン自身で選んでいるからです。ようするに同盟軍の艦隊編成は、司令官である提督の意向を相当強く出せるのです。と、言うことは、パエッタ提督が呼んだからヤンは彼の艦隊で勤務していたことになります。
「やっぱり。評価されてんじゃん。ヤン」
しかし、当のご本人は、司令官に嫌われているから、意見が採用されないんだ。みたいな考えをしています。
「違うよヤン。嫌われていたら、そもそも、呼ばれないから」
もちろん。パエッタ提督が超適当な指揮官で、自分の幕僚についても、名簿にダーツを投げて選んだり、統合作戦本部から適当に見繕った人物だけで構成されていて、たまたま、そこにヤンがいたのかもしれません。
しかし、自分の生き死ににだって直結する司令部要員を適当に選ぶ奴おる? いや、そんな奴おらんやろ。少なくとも私はしません。
私が一体どれだけの時間をかけて「艦これ」のイベント戦に参加する艦娘の札管理をしているというのか。
「この艦娘にしようかな、いや、後で出番があるかもしれないし、どうしよう。うーん・・・よし、お前に決めた」って感じですよ。
札管理マジでめんどい。
すみません。話がそれました。
私なら、経験や実績などを時間をかけて調べたり、本人と面談したりするでしょう。
選べない軍組織なら理解できますが、ヤンは自分で選んでましたからね。当然、他の提督もそうしているでしょう。
やはり、パエッタ提督はヤンを高く評価していたことが伺えます。
ではなぜ、アスターテ会戦でヤンの意見を退けたのでしょうか。
エル・ファシルの英雄として評価していたのであれば、彼の意見に賛同してもいいはずです。
しかし、パエッタ提督はヤンの進言を跳ねつけました。
これは、結果として彼のミスになってしまいましたが、責任の一端はヤンにもあるように思えます。
結論を言ってしまうと、パエッタ提督はヤンの才覚は評価していましたが、彼の人格は評価していなかったと思います。
それは、パエッタ提督自らが経験したからです。
時系列は忘れましたが、同盟軍で何かの集会が行われ、その席で、ヤンが偉大なる我らが国防委員長閣下相手に、言わなくてもいいことをペラペラと話しました。
「敵の三倍の戦力がなんとかかんとか」
敬愛すべき国防委員長閣下が、なんだこいつ、みたいな顔をした時に助け舟を出してくれたのが、隣に立っていたパエッタ提督です。
自分の部下が、更なる上司に対して言わなくてもいいことを、賢しら気に食っちゃべっているのですよ。私だって止めに入りますよ。下手したらこっちにまで流れ弾が飛んでくるかもしれませんからね。
ちゃんと部下を庇ってくれる上司。何ていい人なんでしょうか。
国防委員長閣下もパエッタ提督の意図に気が付いて、素早く話を変えましたよね。
二人とも大人だなぁ。
パエッタ提督に言わせれば。
「適当に相槌打って誤魔化せばいいのに、国防委員長相手に余計な事を言って不快にさせてどうするんだ。そんなもん、心の中だけで言え。ガキか」
きっとこんな気持ちだったに違いありません。
このせいで、ヤンの人格に対しての評価は下がったでしょう。
しかも、これだけではありません。
ヤンは、これ以上の事をやらかしてくれます。正に決定的な失態。
これは、レグニッツァ上空戦が終わった後に、パエッタ提督がヤンを食事に誘うシーンで起こりました。
この話、小説版にあったかどうか記憶にないのですが、とにかくパエッタ提督がヤンの進言を受け入れずに大損害を被った後です。
子供の頃は気が付きませんでしたけど、これって、パエッタ提督がヤンに「ごめん」って謝っているシーンなんですよね。
私も社会人ですから分かりますけど、基本的に謝りませんよ。上司は。
口先だけで、ごめんごめんする人はいますが、パエッタ提督が行ったのは、謝罪と和解の本気の「ごめん」です。悲しいかな中々できることではありません。
ああ、やっぱり。パエッタ提督は人格者だ。
指揮官としての能力には問題があるかもしれませんが、相手はラインハルトでしたし、これはしょうがないんじゃないかな。ナポレオン相手に勝ってこいと言われましても・・・
しかし、こともあろうか、ヤンはこの謝罪を一蹴します。 一人で紅茶を飲むとかほざくんですよ。こいつは。
「おい。マジかヤン。上司がごめんなさいしてるのに、それを跳ね除けるって、何様」
ここは、100%ヤンが悪い。
非常識にもほどがある。
この態度でパエッタ提督のヤンの人格への評価は決定的になったと思います。
謝罪すら受け取らないんですよ、この男は。どうしろって言うのさ。
別におべんちゃらを言えとは言わないが、謝罪を受け入れて一緒に食事をするべきでした。
その席で、自分の考え方なり作戦なりをパエッタに伝えてコミュニケーションを取り、パエッタの理解を得ていれば、人格者の彼の事ですから、アスターテでの進言にも耳を傾けてくれたかもしれません。
親友のラップが戦死した責任の幾分かは、ヤンの非常識で無礼な態度にあったと確信しております。
パエッタ提督も人間です。正しい意見だと思っても、いけ好かない人間の提案にはマイナスのバイアスがかかってしまい、反射的に意見を却下してしまったのでしょう。
結果として間違いでしたが、充分に情状の酌量の余地があります。
しかし、ヤンはこれを冷笑します。横にいたアッテンボローも余計な茶々を入れよります。
私は声を大にして言いたい。
「馬鹿はお前だ。ヤン・ウェンリー」
あんな態度を取っていたら、そうなることは予想できるだろう。
正しい意見が常に正解ではないんですよ。それを口にした人間の人格が、受け入れられるか否かに関わって来るんですよ。
恥ずかしながら、この歳になってようやっと理解いたしました。
結論。
「パエッタ提督は悪くない。ヤン・ウェンリーは非常識」
非常識な人間の意見なんて誰が聞くんですかね。
それでも、負傷し艦隊の危機を理解したパエッタ提督は、自分を律してヤンに指揮権を委譲しました。
やっぱり、ヤンの事を高く評価していたんですね。閣下は。
その抜擢のお陰で、帝国軍に一矢報いることが出来ました。ありがとうございます。
パエッタ提督に敬礼。( ' ◇ ' )ゞ (`・ω・´)ゞ /);ω;)
ヤンをぼろくそに書きましたが、私が一番好きなキャラはヤンです。
どれぐらい好きかと言うと、アニメ版の「魔術師、還らず」の編は一回見たきりで、もう二度と見ることはないでしょう。
私の中ではヤンは死んでいない。あいつは星に帰っただけだ。
追記
ヤンのカッコいい所の一つに、旗艦ヒューベリオンを最前線の近くに展開して陣頭指揮するところがありますよね。
あの、ロイエンタールをして闘将と言わしめる戦いぶりを見せてくれます。
やっぱり、指揮官と言えども常に部下の後ろにいるのではなく、いざとなったら指揮官先頭の心意気を示してほしいものです。
激戦のバーミリオン会戦ではヒューベリオン艦長シャルチアン中佐(艦隊旗艦の艦長が中佐? )の進言。「集中砲火の的になるから艦を下げたいので許可を下さい」と言われ「艦の運用は艦長に一任しているから好きにして」からの「何だってこんなに後退するんだ、指揮がしにくいじゃないか」の我儘理不尽コンボ。
大好きです。
この話からすると、艦隊指揮は先頭集団にいた方がやりやすいことになりますね。
あれ、艦隊先頭に旗艦を配備して、奇襲攻撃の第一撃を受け負傷した指揮官がいたような・・・誰でしたっけ。
まぁ、ともかくヤンもこの指揮官を見習って艦隊運用を行っていたという事ですね。
短編版の感想欄で色々な読者様とディスカッションした結果。やっぱり、パエッタ提督って有能な指揮官だったんじゃないでしょうか、という気持ちが強くなりました。
終わり
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