第45話 生徒会規則を確認しました


応接室は、先ほどまでとは打って変わった緊張感に満ちていた。


オスカーは不敵な笑みを浮かべ、自信と余裕が感じられる。


ウェンゼル学園の面々も驚いた様子はなく、オスカーを諌める者もいない。


「プリスタイン公立学園眼鏡科、生徒会規則第十条。

『生徒会長は最高意思決定者として、眼鏡科生徒の半数以上の同意を得た場合、学園運営についての方針を決定できる。なお、決定に学園長・理事長の許可は必要としないものとする』」


淀みなく述べられた生徒会規則に、まず反論したのはアキトだった。


「お言葉ですが、オスカー様。今おっしゃったものは、正しい生徒会規則ではありません。

正しくは、『生徒会長は最高意思決定者として、眼鏡科生徒の半数以上の同意を得た場合、学園運営についての方針を学園長に提案することができる』です」


私は思わず、ばくばくする心臓に手を当てた。


規則とか、そういうややこしいことはアキトに任せっきりだったから、はっきり覚えていないけれど、生徒会長が全権を握るような条項にはなっていなかったはず……。


でも、正直言って自信はない。


「疑うのなら、生徒会規則をこの場で改めてみるといい」


オスカーは傲然と言い放った。


「なぜ、部外者であるあなたが、眼鏡科の生徒会規則に精通しているのですか」


鋭い目でアキトは尋ねたが、オスカーは答えなかった。


「ぼ……僕は、生徒会規則を作ったときに確認しました。アキトさんのおっしゃったとおりです」


ぶるぶると手と声を震わせながら、真っ赤な顔でリュシアンは言った。


「ここで口論していても仕方がない。お嬢さん、生徒会規則の原本は学園長室にあるはずだな」


フィリップ先生に言われ、私は力なく頷いた。


「え、ええ……」


「最終確認は、学園長であるお嬢さんが行い、サインしたはずだ。違うか?」


「先生のおっしゃるとおりですわ」


「俺は教師だから、生徒会規則の制定には携わっていない。この場で唯一利害関係のない人間だ。だから、俺が取りに行ってくる。それまで全員、この部屋から一歩も出ずにお待ちいただきたい。アキト」


フィリップ先生はアキトに目配せをし、


「しばらくの間、ここを頼む」


「承知いたしました」


学園長室は応接室から階段を上がって、すぐのところにある。


先生は私の机の鍵を預かると、ものの数分で部屋に戻ってきた。


その青ざめた顔を見て、私は何が起こったのかを察した。


「これが生徒会規則の原本だ。ここにお嬢さんの署名もある」


美しい羊皮紙の巻物に、眼鏡科の紋章が刻まれ、一条から三十二条までの生徒会規則が記されている。


そして第十条は、オスカーの言ったとおりの内容だった。


「どういうこと……?」


私はうわずった声で言った。


「こんなのおかしいわ。だって、私が確認したときは、この内容じゃなかったはず」


「内容を確認したのはいつだ?」


フィリップ先生に尋ねられて、私は記憶をたどる。


「二週間前の放課後、アキトと二人で、学園長室で……」


言いかけたとき、アキトが口を入れた。


「お嬢様はサインする前、エルネスト様に呼び出されて席を外されました。わたくしも一緒に部屋を出ました」


「その間、学園長室や机に鍵はかけたのか?」


私の心臓は沸騰しそうに熱くなった後、みるみるうちに凍りついた。


最悪の答えが――考えたくもない答えが、頭の中で導き出されていく。


「かけるわけないじゃん。馬鹿みたいに甘ちゃんだもん、メイちゃんもアキト君も」


エルが辛辣な笑顔で言った。

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