第7話 眼鏡科に入学しました


眼鏡科は湖畔(こはん)にたたずむ、荘厳(そうごん)な白亜のお城だった。

春休みの期間に突貫工事(とっかんこうじ)で作り上げたとは、とても思えない。


1クラス20名でAからCの3クラスあり、学年は3学年ある。


今年が創立1年目なので、基本的には1年生からスタートするのだが、年齢や入学試験の点数を考慮して2年生スタートの生徒もいる。


私とアキトは2年A組だった。


「お嬢様。こちらへ」


入学式の後、アキトに手を引かれ、私は人波でごった返しているエントランスを抜けた。


その間にも、はっとした表情でこちらを見る人や、「プリスタインの」と口走る人もいる。


普段、公爵令嬢は人前にめったに姿を見せることはないから、新鮮なのだろう。


しかも私は眼鏡科唯一の女子生徒であり、学園長でもあるのだから目立って当然だった。


2年A組の教室に足を踏み入れると、クラスメイトたちのおしゃべりがぴたりとやんだ。


じろじろと見つめる者、こそこそ声でささやき合う者もいるが、誰もが遠巻きにしているだけで近づいてこない。


うーん、しばらくの間は、普通に接してくれるのはアキトだけかも?


わりと神経太めの私も、ここまで好奇の目で見られると、ちょっぴり緊張してしまう。


「あ、プリスタインのお姫様だ~」


ひらひらと手を振ったのは、亜麻色の髪に黒い瞳、それに赤縁の眼鏡(ここ重要)をかけた少年だった。


赤縁の眼鏡って男の人がかけるのはハードル高めなんだけど、制服をおしゃれに着崩している彼は完璧にさまになっている。


「席ここだよ」


示された席には、確かに私の名前が書かれた名札が置いてある。

隣はアキトの席だった。


私が腰かけると、前の席に座っている亜麻色の髪の少年は、振り向いてにっこりと笑った。


「初めまして。俺はエルっていうんだ、よろしくね」


手を差し出す前に、彼の手が伸びてきて握手される。


これは貴族社会だとマナー違反だ。


というのも、話しかけるのも握手も、基本的に身分が上の人間からしかやってはいけないからだ。


身分が下の人が上の人に話しかけたり、体をさわることは無礼なこととされている。


アキトがさりげなく割って入ろうとしたが、私は首を振って制した。


「初めまして、エル。ご一緒できて嬉しいわ。ティアメイと申します。これからクラスメイトとしてよろしくね」


ざわり、と周囲が色めき立つ。


「お嬢様」


たしなめるようにアキトは言ったが、私はきょとんとした顔をしてみせた。


「いけない? ここでは身分も立場も関係ない、私たちはただの生徒だもの。クラスメイトに敬語はいらないでしょう?」


「はははっ、メイちゃんおもしれー」


笑いながらエルは私の頬に手を伸ばした。


「それに、想像してたよりかわいいな。俺、好きになっちゃうかも~」


ちゃ、チャラ男眼鏡キター!!


主に大学の芝生とかオシャレカフェに生息してた、パリピ軍団の人だー! 


やばい人とお近づきになっちゃったかも? でもパリピ眼鏡も悪くない!!


「はいはい、席つけよー」


教室のドアが開いて、入ってきたのは白衣に縁なし眼鏡(ここ重要)をかけた男性だった。


うわー、白衣眼鏡も最高すぎる。ここは天国か? 私はとうとう天に召されてしまったのか?


「各自、自分の名前の書いてある席につくように。今から手短に自己紹介とオリエンテーションを行う。

ちなみに俺はこの2年A組の担任教師、フィリップ・F・D・エリオットだ。先生とかエリオット先生とか適当に呼ぶように。ただし、おっさんと呼ぶ奴はあらゆる手段を使って退学に追い込むからそのつもりでな」


藍色のぼさぼさの髪をかきまぜ、だるそうに喋ってはいるけど、顔だちは整っているし何より眼鏡が似合っている。


ああ神様、生まれ変わって早16年、ようやく生きる希望が湧いてきた気がします!


最高の幕開けに浮かれている私の横で、アキトは複雑な表情でため息をついた。

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