第4話 ショタ眼鏡男子と邂逅しました



「お嬢様!?」


後ろからアキトの声がしたけど、猛烈ダッシュしている私を止めることはできなかった。


「君!!」


「ひっ」


大通りを曲がった角のところで、私はエメラルドグリーンの髪をした人影を捕まえた。


振り向いたのは、少女と見間違えそうなぐらい、線の細い美少年で――くりっとした瞳には眼鏡をかけていた。


『眼鏡をかけていた』


ここ、大事なことなので二回言いました。


「あ……ああああああ……」


感動で打ち震えて、言葉が出てこない。


眼鏡だ。眼鏡があった。


この世界にも、眼鏡が存在していたんだ!!!


「お……お姉さん、どうしたんですか……?」


ショタ眼鏡男子は、心配そうな目で私を見上げてくる。

可愛い。めっちゃ可愛い。

緑色の目に濃緑の縁をした丸眼鏡、めっちゃ似合ってる!!


「お姉さん……?」


「お嬢様!!」


ようやく追いついてきたアキトに、ぐいっと腕を引っ張って、立ち上がらされる


気づかないうちに、地面に座り込んでいたらしい。


「お怪我は?」


と言いながら、アキトは剣呑な目でショタ眼鏡男子を見つめている。


彼は怯えたように後ずさりし、私の手を離そうとした。


「待って!!! お願い、逃げないでっ!!」


力の限り私は叫んだ。同時に、熱い液体がぱたぱたと地面に落ちた。


あ……私、泣いてる。


それを見てアキトは眉を寄せ、ショタ眼鏡少年はすくみ上がる。


確かに、客観的に見て怖いよね。初対面で見知らぬ女に手を掴んで捕まえられるわ、ぶるぶる震えるわ、いきなり泣き出すわ。


「ご……ごめんなさい。大変失礼しました。わたくしはティアメイと申します。あなたがかけている、その眼鏡のことが気になって」


眼鏡という単語に、アキトの顔色が変わった。


ショタ眼鏡少年は、ぽかんとした顔で私を見つめている。


「これのことですか……?」


「そう、それ!」


「これは、僕の父さんが作ったんです。僕が小さい頃から目が悪くて、よく人や物にぶつかったりして怪我してたから」


「ショタ……ごほん。あなたのお名前は?」


「リュシアンです。リュシアン・リムロック」


「お父様は、眼鏡を作る職人さんなの?」


リュシアンはふるふると首を振った。


「父さんはガラス細工師で、ガラス細工のお店をやっています」


「ガラス……。だからレンズが作れたのね」


思わず独り言を呟くと、リュシアンは澄んだ目で私を見つめて言った。


「父さんは、これを拡大鏡って呼んでました。眼鏡って名前を聞いたのは初めてです」


「少し見せてもらってもいい?」


リュシアンは素直に眼鏡を外し、私はためつすがめつした。


鉄でできたフレーム、留め金に、薄く削ったレンズ。


ところどころ荒削りだったり、私が知っているものとは違う形状だったりするけど、おおむね眼鏡と同じ造りをしている。


「ありがとう」


「いえ、どういたしまし……え?」


リュシアンに眼鏡を返しつつ、渡した瞬間、その手をぎゅっと握りしめる。


「お嬢様。なぜでしょう、とてつもなく嫌な予感がするのですが」


アキトの突っ込みをスルーして、私はリュシアンに訴えた。


「ねえ、リュシアン。私を、あなたのお父様に会わせてくれない?」

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