初めての恋はツンデレで追いかけっこにつきる
エホバのお姉さんが愚痴を聞いてくれたことで、私の胸に膨らんでいた不満は、少しずつプシューと風船に穴が空いたようにしぼんでいった。不満がなくなると、その部分、隙間があく。空いたスペースには、楽しみや、喜びが入る余地がある。
私の表情は、少しずつ変わり始めた。眉間のシワがなくなり、無表情がちょっと微笑んだ感じになり、口数が増えてきた。そんなとき、人生の転機が訪れた。恋である。
小学校五年になった。転校生の男の子が、隣の席にやってきた。
「なあなあ、富士山の歌、知ってる?」
「イトー堂でずっと流れてて俺覚えちゃったよ」
「こいのぼりの歌歌える?」
「円周率の小数点以下の数字どこまでいえる?」
とってもおしゃべりな男子だった。ガリガリでちびで、瓶ぞこメガネでお世辞にもカッコいいとはいえないが、私にたいしてなんの気負いもなく親しげにおしゃべりしてくれて、私は、楽しかった。
相手にされる喜びを感じた。その男子は次第に私をからかうようになった。きゅうり!が、私のあだ名である。何がきゅうりなのか訳がわからないが、私はうわべだけのアヤリンよりもきゅうり!のほうが気に入って。
「きゅうりじゃないっ!こらーっまてーっ!」と追いかけっこがはじまる。
「私がきゅうりならあんたはなすびじゃー!」
馬鹿馬鹿しいが、恋心を秘めていたので驚くほど楽しかった。
雪だるま式というのか?私が恋をすると、山寺みなみちゃんという友達ができた。山下直くんという障がい者の友達もできた。直くんは、自閉症だったが、みなみちゃんは直くんを心の底から可愛がっていた。みなみちゃんは私と同じ、合唱団にいて、さらにソフトボールも習っているカッコいい子だった。
小学五年にして、やっと春がきた。私は心から笑えた。追いかけっこが一番楽しく、悪口をわざと言って、いじられて私が怒ったふりをして追いかける、というパターンが出来上がった。そして捕まえてぶっ飛ばし、バトルが始まるっという遊び方だった。
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