【連載版】パーティをクビにされた聖女は、親が最強故に自分が規格外という自覚がない!!!
三月べに
第1話 クビにされた規格外な聖女。
「リヴィア。私のような大聖女とお父さんのような大魔法使い、どっちになりたい?」
昔。お母様にそう尋ねられた。
「私はお母様のような癒す人になりたいです!」
聖女になりたくて。
いつもはとても仲良しのお母様とお父様が喧嘩を始めたから、慌てて付け加えた。
「お父様のような大魔法も使ってみたいです!」
強くなりたくて。
私はそう意気込んだ。
「じゃあ、頑張るんだよ? 僕達の可愛いリヴィア」
「はいっ!!」
そうして、私は優しくも厳しく育てられた。
けれども、二人にはまだまだ遠く及ばない。
十六歳になって、自立しようと冒険者ギルドを尋ねた。
紹介されたパーティで、回復役を務めていたら、いつの間にか聖女と呼ばれるようになっていて。
嬉しい一方で、まだ私には早い称号ではないかとも思っていた。
属していたパーティは、勇者クラスと謳われるほど強くなっていく。
けれど、私は……ーーーー。
いつかは、こんな日が来るとは思っていた。
「リヴィア。お前、クビだ」
私リヴィア・ヴァルキュールは、そこから通告された。
もう聖女という称号も、返上したい気持ちだ。
「はい。わかりました。今までお世話になりました」
私は深々と頭を下げた。
「何それ。もっとこう、泣き付いたりすると思ったのに。ほんと、つまんない女」
「確かにちょっと期待してたのに、ざーんねん」
クスクスと笑うのは、魔法の使い手ナナコさん。
それから、ナイフの使い手ミーナさん。
顔を上げて見てみれば、嘲笑を浮かべていた。
「あーでも清々したぁー役立たずがやっと消えてくれるんだから」
「っ。すみません……」
しゅん、とまた俯く。
「あの……私の代わりになる回復役はもう見付けたのですか?」
「何だ、お前まさか、代わりが見付かるまで居座る気が?」
私にクビを通告したこのパーティ『勇敢なる剣(つるぎ)』のリーダーが睨み付けてきた。
白い鎧を身に纏った剣士ユーラシアンさん。
私はビクッと肩を震え上がらせて、慌てて首を左右に振った。
追いかけるように漆黒の長い髪も揺れる。
「ち、違います。ただ、どなたが回復役をなさるのか、気になっただけで」
「回復役なんて、もう要らねーんだよ」
グサリと刺さるユーラシアンさんの低い声。
「オレ達は十分強い。回復なんてポーションで事足りる」
そう口を開いたのは、盾役のオイスカーさん。
「そう、アンタの存在価値は所詮、ポーションぐらいだったのよ! きゃっはははっ!」
「……そう、ですよね」
ナナコさんに嘲わらわれて、私は肩を落とす。
「では、失礼します」
「期待していたんだがな」
宿屋の部屋のドアを開こうとした。
その手を止めて、振り返る。
「あの大聖女様と大魔法使いの娘だから、期待してたんだが」
私を見るユーラシアンさんの目には、軽蔑があった。
「期待外れー」
ミーナさんが声を弾ませるように言い放つ。
期待外れ。
涙が込み上がってきてしまったから、私は今度こそ部屋を飛び出す。
元仲間達の笑い声が、追いかけてくるようだったから、耳を塞いだ。
私の母は、大聖女と称えられた美しい人。
そして私の父は、右に出る者はいないほどの大魔法使い。
そんな二人の娘である私は、期待されていた。
なのに、期待外れ。期待を裏切ってしまった。
私が自立したことを喜んでくれて、今では安心して二人で旅をして回っている両親に申し訳ない。
きっと二人の顔に、泥を塗ってしまう。
わかってはいたのだ。
だって、私は所詮、回復役。
一瞬で傷を癒して、体力も魔力も回復させるが、ただそれだけじゃないか。
身体能力向上や攻撃力増幅の補助魔法も付与してきたが、微々たるものだっただろう。
後ろから魔物に襲われても、同じ付与を使って自分で吹っ飛ばしていた。
足手まといだけにはならないと、自負していた自分が恥ずかしい。
私って、なんて役立たずなのだろう……しょぼーん。
「……ううん、これからだ!!」
王都の街を歩きながら、私は今まで俯かせていた顔を上げた。
私はまだ十六歳。これから成長しよう。
お母様みたいに、魔物に不意を突かれてもワンパンで消し飛ばす聖女になる!
お父様みたいに、魔物の群れも呪文一つで消し炭にしちゃう魔法も使えるようになろう!
「お金がないので、先ずは冒険者ギルドで仕事をしつつ、日々精進だっ!」
おーうっ!
私は右腕を空に突き上げて、気合いを入れた。
そして、冒険者ギルドへ。
◆◇◆
王都、冒険者ギルド会館。
リヴィア・ヴァルキュールの対応をするのは、ギルドマスターだという暗黙の了解がある。
何故なら、街一つ簡単に火の海出来るあの大魔法使いの愛娘。
一番上の者が丁重に扱うのは、当然だと判断が下された。
ギルドの仕事を請け負う度に、リヴィア・ヴァルキュールが手続きに来る。
それは勇者クラスと謳われるパーティ『勇敢なる剣(つるぎ)』が、顎で使っていたからだ。
ギルドマスターが一度「何故、ヴァルキュール様が手続きをするのですか?」と尋ねたところ、リヴィアは「一番活躍していない者がやるのは当然です」となんだか申し訳なさそうに笑って答えた。
『勇敢なる剣(つるぎ)』のパーティメンバーはさぞ活躍をして疲れているのだろう、とギルドマスターは思ったのだった。
ギルドマスターは、犬系の獣人である。
その鼻で嘘すら嗅ぎ分ける凄腕のギルドマスター。
名前を、リューワン・ワンダ。
茶髪の頭の上には、獣耳。鼻が突き出た顔は犬そのもの。そして、片眼鏡を常につけている紳士的な服装。
そんなリューワンは、青ざめた。
「実は、ユーラシアンさんのパーティをクビにされました……」
恥ずかしそうに、そして落ち込んだ様子で、報告をするリヴィア。
リューワンが、思い浮かべるのは、一つ。
王都が火の海になる……!
あの愛娘を、厳しくも愛おしく育てたという大魔法使いが激怒する。
「だから、もっと強くなろうと思いまして。落ち込んでいられません。私でも受けられる討伐依頼はありますか?」
「……ヴァルキュール様も、受けられる討伐依頼、ですか……」
特にパーティをクビにされて恨んでいる様子がないとわかり、リューワンは胸を撫で下ろす。
王都が火の海になるのは、避けられるだろう。
リヴィアは、とても謙虚だ。
小柄な少女の姿をしていても、リューワンにとっては背後にドラゴンが見えるほどの強さを感じる。
冒険者の強さを見分けられるギルド職員が多いため、だからこそリューワンが対応に当たっているのだ。
中には、リヴィアの強さを目の当たりにして、卒倒する者もいるほど。
そんな強いリヴィアに受けられない討伐依頼なんてないだろう。
だいたい、あの大魔法使いと大聖女の娘だ。
大抵の魔物は、蹴散らすだろう。
しかし、今までパーティで活動していたのだ。
ソロでもいけるような少し簡単な討伐依頼がいいだろう、とリューワンは判断した。
「アンタ、回復職か? だったら、臨時でウチのパーティに入ってくれないか?」
そこで、リヴィアに話しかける少年が現れる。
リヴィアよりも、ひょろっとした長身のダークエルフの少年だった。
リヴィアは白い服装に身を包み、いかにも回復職系を思わせる格好をしていたせいだろう。
「パーティ、ですか?」
「ああ。オレはアルティフィア。あと仲間三人で、フェンリルの森の魔物討伐に行きたいんだが、回復役がいなくてちょうど探してたんだ。会話を勝手に聞いてすまない。アンタも魔物討伐の仕事探しているならウチとどうだ?」
「私はリヴィアです。フェンリルの森にはまだ行ったことがないのですが……私でもお役に立てるでしょうか? リューワンさん」
自己紹介をし合うアルティフィアとリヴィア。
自信なさげなリヴィアが、リューワンの助言を求めた。
またまた謙虚な……。
今までユーラシアンのパーティで遂行していた魔物討伐の依頼に比べれば、簡単すぎるものだ。
むしろ、超がつくほど簡単。
「フェンリルにさえ出くわさなければ、大丈夫ですよ」
「そうですか! では、アルティフィアさんと仕事をしてきますね! いつもありがとうございます、ギルドマスターさん!」
「いえいえ。お気をつけてくださいませ」
リューワンはゆるりと尻尾を振って、笑顔でリヴィア達を見送った。
◆◇◆
「リヴィア・ヴァルキュールと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします!」
冒険者ギルドのギルドマスターに相談していたら、臨時だけれどパーティに誘ってもらえた。
願ってもいない。回復職である私には、ソロは荷が重いだろうし、とても助かる。
臨時とは言え、また役立ずと言われないように頑張らなくては。
「アタシはキリナ。よろしくね、リヴィア!」
アマゾネス族らしい黒髪と小麦色の肌と露出多めの格好のキリナさんが、歓迎をしてくれた。
「わたしは、アイシュエンゼ。アイシュでいい」
リヴィアよりも小柄なエルフ族のアイシュさんは、そう短く名乗る。
キリナは大剣を背負っていて、アイシュさんは魔法杖を手に握っていた。
「オレっちは、バン! 接近戦オンリーだから、回復よろしくー!」
獅子の半獣人であるバンさんは、獅子の丸い耳と、毛先がもふっとした尻尾を生やした少年。
武器らしきものはないが、両手の鋭い爪が武器だろう。
「で、オレがリーダーのアルティフィア。アルティでいい。パーティ名は『白銀の刃』だ」
改めて自己紹介してくれたアルティさん。
腰には短剣が左右に携えてある。
なるほどなるほど。
「皆さん……シルバーランクの冒険者なんですね」
「え? リヴィアは違うのか?」
皆さんが首や腕につけている冒険者ライセンスは、シルバー色。
アルティさんは、私もシルバーランクだと思ったらしい。
「あ、私はゴールドランクなんです。と言っても、ほとんど今までいたパーティのおかげなんですけれど」
「おお! リヴィアはすっげーんだな!!」
「ゴールドぴかぴか!!」
胸元から取り出したゴールドのライセンスを見せると、バンさんとキリナさんが目を輝かせてくれた。
「そうとは知らず、なんかすまないな。格下のパーティに誘っちまって」
申し訳なさそうにするアルティさんに、私はぶんぶんっと頭を左右に振る。
「いえ!! 格下なんてとんでもありません! お声をかけてくださり、本当にありがとうございます。私の実力なんて、きっとシルバーランクかどうかも定かではありませんし……」
「なんだよ、自信持てよ? ゴールドランクなんだから!!」
「うわっ!!」
ばしっとバンさんに背中を叩かれて、私はよろめいた。
「ちょっとバン! 気を付けなさいよ!! 人族の女の子は、か弱いんだからね!!」
「あっ、ごめん! 痛いか?」
「いえ、全然大丈夫です。励まし、ありがとうございます」
流石、半獣人族。
力が強いなぁ、と感心してしまう。
「アイシュ。さっきから黙っているが、どうした?」
「ああ、いえ……ヴァルキュールって名前に聞き覚えが……」
「あ、それはきっと」
アイシュさんが考え込んでいるから、きっと私の両親の名前だと教えようとした。
「そんなことより、早く行こうぜ!! そして夜は宴しようぜ!!」
「お前は毎日宴をしたいって言っているな……」
「楽しいじゃん!!」
バンさんが急かすから、王都の門の前にいた私達は歩き始める。
フェンリルの森までそう遠くはなく、三時間ほどで到着した。
二階建ての建物よりも、もっと大きな木々が、鬱蒼と生い茂っている。
昔、お父様に私を強くするために「一人で生き抜きなさい」と放り込まれた樹海を思い出す。
魔獣がうじゃうじゃいて、とても怖くて、ろくに睡眠もとれなかったっけ。懐かしい。
「フェンリルの森は、初めてなのよね? リヴィア」
「はい!」
「ルールは一つよ。フェンリルに見つかるな。見付かったら……命はないと思いなさい」
アイシュさんが淡々と告げるから、私はゴクリと息を呑む。
そ、そんなに強いのかしら! フェンリル!
確かに、幻獣種は強いと聞くけれど……。
「シルバーランクのパーティが敵う相手ではないな、間違いなく」
アルティさんも、断言した。
そっか。
私が補助魔法をかけても、やっぱり難しいのだろう。
うん。フェンリルには見付からないようにしよう!
気配に気付いて、顔を上げると、木の枝に美しい狼型の獣がいた。
白銀に艶めく長い毛に覆われたその獣は、海のように青い瞳で、私を見下ろしている。
なんて綺麗な生き物だろう……。
「リヴィア。行くぞ」
「あっ、はい!」
アルティさんに呼ばれて、私は返事をして追う。
もう一度木の枝に目をやると、その美しい生き物はもういなかった。
そんなに強そうには見えなかったから、まぁいいっか。
臨時の回復役。色々気を引き締めてかからなくてはいけない。
今回の討伐の魔物は、ホブゴブリンの群れ。ゴブリンの上位種。
たまに通りかかる人々を襲っては、さらっていくこともあるそうだ。
早く討伐しないといけないわ!
獅子の半獣人であるバンさんが、鼻を使って探し出す。
ホブゴブリン達が棲み処にしている洞窟を発見。
相手もこちらに気付き、戦闘は開始された。
◆◇◆
ーーおかしい。
アルティフィアのパーティメンバーは、全員異変に気付いていた。
ーー身体があまりにも軽い。
ーー相手が、脆く、弱い。
ホブゴブリンは巨体で、かなり手強い。
しかも、数は勝る。今回は、三十体近い。
だから、苦戦は覚悟していた。
しかし、あまりにも簡単に、ホブゴブリンは次から次へと倒れていく。
アルティフィアの短剣はスッとホブゴブリンの首を刎ねる。
バンの鋭い爪は、ホブゴブリンの肉を深く切り裂く。
キリナの大剣は、ホブゴブリンの身体を両断する。
アイシュエンゼの魔法は、ホブゴブリンをまるまると凍らせた。
ーーあまりにもおかしい!!
超鈍感なバンでさえ、気付く。
いつもと違う要因は、一人しか考えられない。
つい一同は、戦いの最中だというのに、後方にいるリヴィアを振り返った。
「危ないです!!」
リヴィアが叫ぶ。
バンがスイングされるこん棒を受けた。
吹っ飛ばされても、なんとか踏み留まる。
「いった……くない!? なんだお前! こんのっ!!」
痛みはない。そう言ったバンは、すぐさま反撃してホブゴブリンを倒す。
ーー痛くない?
そんなことがあるわけないだろう。
大きなこん棒が直撃して、痛みを感じないなんて、バカな話があるわけがない。
アルシュエンゼだけは、ある可能性を思いつく。
ーー痛みを感じる暇がないほどのスピードで、治癒されたのだとしたら?
ーー規格外の治癒魔法を施されているとしたら、ありえる!
ーーつまり、彼女は規格外な治癒魔法を行使している!!
アイシュエンゼは、再びリヴィアを振り返った。
もうホブゴブリンとの戦いは、決着がついている。
リヴィアも力を抜いていて、振り返ったアイシュエンゼを不思議そうに見た。
「あ、あなた……何者なの?」
そう問う。
そんなリヴィアの後ろに、ふっと音もなく現れた美しき白銀の獣。
大きさは余裕にリヴィアを超えていた。
リヴィアを噛み殺そうと、大口を開けて飛び掛かる。
「リヴィア!!」
「逃げっ」
逃げろ。その言葉は、あまりにも間に合わない。
次に目に映るのは、噛み殺されたリヴィア。
そのはずだった。
振り返ると同時。
リヴィアは漆黒の長い髪を靡かせながら、拳をその獣の顔に叩き付けた。
「キャウン!!」
次の瞬間には、子犬のような声で鳴いて、獣は木にぶつかる。
アルティフィア達は、驚きのあまり口をあんぐりと開いた。
「やっぱり後をつけていたのね、全く。人を襲ってはいけません、めっ!」
「くうん……」
リヴィアは、子犬扱いをして、叱りつける。
よろよろと起き上がった獣も、降伏を示すように俯せになって鳴く。
「ごめんなさい! この子、森に入る前から私を見ていて……狙っていたみたいです。……どうしました?」
絶句をしている一同を見て、リヴィアは首を傾げる。
「あ、すぐに報告しなくてすみませんっ!! 私なら対処出来ると思って、本当にごめんなさい!!」
報告を怠ったことに必死で謝るリヴィアを見て、一同は顔を合わせる。
「リヴィア……それ、フェンリルだぞ」
「へ?」
声を絞り出して、アルティフィアが教えた。
「この子が、フェンリル……? その子どもですか?」
きょっとん、とするリヴィア。
子どもと思えるほど、リヴィアには弱く感じた。
そう一同は悟ったのだ。
「どう見ても、そのフェンリルは大人だ!!」
アルティフィアは、自棄で声を上げた。
「えぇっ!? こんなに弱いのに!?」
「よわ、弱い? 弱い、だと!?」
アルティフィアが、さらに激しく動揺する。
どう見ても、伏せてはいるが、そのフェンリルにはアルティフィア達を食い散らかすほどの強さがあるとわかる。
しかし、見てしまったのだ。
リヴィアがたった一撃で、そのフェンリルを降伏させたところ。
間違いなく、この場で一番強いのはフェンリルではなく、リヴィアだ。
何故、気付かなかったのだろう。
「ヴァルキュール!!?」
そこで、アイシュエンゼが声を上げた。
物静かな彼女らしくない。
それだけではなく、アイシュエンゼは跪いた。
「あの偉大なヴァルキュールご夫妻の娘!? ご、ごめんなさい!! そうとは知らずっ、無礼をお許しください!!」
「偉大な、ヴァルキュール夫妻……?」
「十年前に『妖精の古の森』を、火炎竜の襲撃から救ってくださった大魔法使い様!!! その娘様よ!!」
「あの大魔法使いの!?」
「様を付けなさい! アルティ!!」
ただただ驚くアルティフェアに、アイシュエンゼは怒った。
妖精の古の森。妖精種であるエルフとダークエルフにとっては大事な場所だ。
アイシュエンゼの反応はよく理解していると、リヴィアは少々苦笑を溢す。
「えっ、つまり……大聖女様の娘!? あの拳一つで巨大な魔物も消し飛ばすあの大聖女様!?」
「まじで!!?」
キラキラーッとキリナとバンに憧れの眼差しを向けられ、またもや苦笑を溢してしまうリヴィア。
「はい……でも弱い私に、お父様とお母様の娘だと胸を張って言う資格はありません……。役立たずだとパーティをクビにされてしまいましたし……」
そうしょんぼりと俯きながらも、伏せたフェンリルの頭を撫でる。
パーティを壊滅させるかもしれない強い幻獣を手懐けた……。
「役立たずって……」
「聞き捨てなりませんね。リヴィア様は役立たずなわけありません」
アルティフィアの言葉を遮って、アイシュエンゼはキリッと言い切った。
リヴィアは、瞠目する。
「え、様?」
「リヴィア様は大恩人の娘ですので。リヴィア様は、わたし達に補助魔法をかけてくださっていたのですよね? とても身体が軽く感じ、敵の動きも遅く感じられました。そして魔法も攻撃も、威力が三倍は膨れていましたね」
「あっ!! 補助魔法ってやつのおかげだったのね!!」
「バンのダメージをすぐさま癒したのは、規格外な治癒魔法! 痛みすら感じさせる暇を与えずに治す! まさに聖女ですね!!」
「治癒魔法のおかげだったのか!!」
アイシュエンゼは、力んだ様子で語った。
キリナとバンは、それを聞いて納得する。
「えっと、そうですけれど……別に普通では?」
リヴィアは何がそんなにすごいか、わからないといった様子で首を傾げた。
「補助魔法をパーティ全員にかけた上に、治癒魔法も瞬時に使い、その上フェンリルをパンチ一つで沈めたのですよ!? 規格外な聖女です!!」
「そんな、大袈裟ですよ。勇者クラスと謳われるユーラシアンさんのパーティ『勇敢なる剣(つるぎ)』では、全然役に立てなかったですし……」
またしょんぼりと肩を竦めるリヴィア。
「そっか! リヴィアはそこをクビになったんだっけ?」
なんて、バンは今更思い出す。
「リヴィア様」
立ち上がったアイシュエンゼは、リヴィアの元まで歩み寄った。
「多分、勇者クラスと謳われるほど強かったのは、リヴィア様が居てこそだったはずです。わたし達と同じ補助魔法や治癒魔法を使っていたのでしょう?」
「え? ああ、はい、そうですけれど……」
「なら、ユーラシアンとかいう人のパーティは、これから苦労するはずですよ。今までの力が出ず……」
最悪、命を落とすだろう。
アイシュエンゼは、そこまでは言わないでおいた。
この規格外な聖女様を、役立たずとクビにした報いだ。
リヴィアから見えないように、フッと意地の悪い笑みを浮かべた。
見てしまったアルティフィアは、見なかったことにする。
「まぁ、とにかく……ありがとう!! リヴィア」
キリナがお礼を言い出す。
「こんな爽快に戦えたのは、リヴィアのおかげだよ!!」
「あっ、オレっちも治癒魔法をありがとう! 今回はすっげー楽しかった!! リヴィアのおかげ!!」
キリナに続いて、バンもお礼を伝えた。
お礼なんて、いつぶりだろうか。
リヴィアの視界は、チカチカと輝くようだった。
役に立てた。……こんな自分でも。
それがわかり、リヴィアは涙を溢す。
大泣きを始めたリヴィアに、アルティフィア達は大慌てしたのだった。
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