根付子猫

@mizunotoi

第1話『とある人間の昔話』

 もうずっと昔。占いや風水が好きな叔母から、転換期という言葉を聞いたことがある。


 己の何かが、大きく変わりつつある時を示すもの。

 一生のうちで大きく分けて三度ほど、これからの生き方を変える出来事が訪れるのだという。

 当時の私は確か小学校に上がったばかりで、そんな先の未来など考える由も、いや、考える事すらまずしなかった。

 時に激しくストレスを抱えたり、時に突飛なひらめき、それに追従する行動力に体を押されたりと、転機にはある程度のエネルギーが必要なのだという。

 エネルギーが溢れかえっていると言えば、私は就学前の子供などを思い浮かべる。彼らの生きるエネルギーは素晴らしいものだが、何か成していたことが変わったからこその転換であるのだから、転換期とはまず対極にある存在だと思っていいだろう。

 変わったと言えば、私は極まれに子供の頃に帰りたいと思うようになった。

 何も知らなかったあの頃は、自分の価値すら良く分かっていいなかった。知らないのだから、己が一等勝った生き物であったのだから、加減なく羽ばたいていく事が出来る。

 そして己の壁にぶつかった時に初めて、子供から大人へと変化し、硬い外装を身に纏うのだと考える。

 その世界が広いという事に気が付かなければ、他人にあれこれと言われることが無ければ、自分はどんなに自由な人間になっていたのだろうか。

 歳を取った今だからこそ、何にも染まっていない子供という名の無敵の艦隊を羨ましく思う。

 他人との関わりを持つようになってくると、人から何かがすり減っていくのだろう。いや、足されるといった方が正しいのかもしれない。


 脳の奥にしまい込んだ人生の岐路の話。


 この転換期にあたるのだろう時期に、自分の身に起きた出来事を思い返してみれば、確かに、そんな気がしないでもないのだから、なんとも不思議なものである。

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