50話 骸骨戦士大隊長ラーメン・ファングボアのゴロ肉たっぷり乗せ
「はい、というわけでこちらが昨日8時間煮出した骸骨戦士の出汁でございます」
「なにが、というわけなんだよ」
ここはダンジョン第21層。
第20層のボス、骸骨戦士を倒してから5日が経過し、十分な休息を取った後、俺達はレベル上げのために第21層を訪れていた。
『転移宝玉』を使えば攻略したところまでは転移できるので、一瞬で第21層まで飛んでこられる。
もう少し先に進んでみないかという提案をしたらクリスに頭を叩かれたので、大人しくこの層でレベル上げをするのだった。
そしてモンスターを狩っていると時間が経ち、昼時となる。
俺は飯の準備に勤しんでいた。
「僕のアイテムボックスにその大鍋入れてって言われて持って来たけど、それはなんなのさ?」
「言っただろ? 骸骨戦士の出汁。骸骨戦士の骨をじっくり8時間煮込んで出汁を取ったんだよ」
「え゛……?」
この前倒した骸骨戦士を、豚骨と同じ要領でことこと煮込んだ。
拠点でその出汁を取っておいて、今この場に持って来たのである。
ちゃんとその説明をするとクリスの顔が強張る。
いや、フィアの顔もぎくりと強張っていた。
「ま、またレイはゲテモノ料理にチャレンジしようとするっ……!」
「じ、自分でおかしいと思わなかったの!? レーイチロー!?」
「仕方ないじゃないか。ホワイト・コネクト発動させようと思ったら、この骨食べなきゃいけないんだから」
「なんでも食べなきゃいけないってわけじゃないんだからねっ!?」
二人のブーイングを聞き流しながら、俺は昼飯の準備を進める。
クリスのアイテムボックスに入れておいて貰ったキャンプキットを取り出し、大鍋を火に掛けて温め直す。
アイテムボックス便利過ぎる。
いつか俺も欲しい。
骸骨戦士は人型の骨であったからとても不気味に思えるかもしれないが、クリスから話を聞くと、どうもあれは厳密に言うと人ではないらしい。
ダンジョンの魔物はダンジョン内の瘴気から生まれるものであり、普通の生命とはあり方が異なるとのこと。
あの骸骨戦士を例にとって言うと、人間が死んで白骨化したものが動き出して魔物化するとかそういうことはなく、骸骨戦士は初めから骸骨戦士として瘴気の中から生まれてくるのである。
つまりあの骨は瘴気から生まれた正体不明の骨であり、別に人の骨というわけではないのだ。
だからそれから出汁を取っても、同じ人族を調理しているわけではないのである。
「屁理屈はやめろー!」
「レーイチローは人間性が欠如しているー!」
だけど、そう説明しても二人からのブーイングは止まらなかった。
無視して調理を進める。
この出汁は骸骨戦士とリンゴ、玉ねぎ、ネギ、ニンジン、ニンニク、ショウガを一緒に煮て、じっくり出汁を取ったものだ。
その出汁をこの場で温めてから皿に移し、塩と香辛料、酒を加えて味を調える。
そう、今日の昼飯はラーメンだ。
骸骨戦士で出汁を取ったラーメンを作る予定なのである。
麵の方も当然手作りだ。
強力粉と薄力粉を1:1の割合で合わせながら、水と重曹、塩を加えてよくこねる。
重曹とはつまり炭酸水素ナトリウムのことだ。
自分の元居た地球では医薬用や洗濯掃除用、食品添加物など幅広い分野で使われていた。
こっちの世界で流通しているのだろうかと探してみたら、錬金術師用の店に置いてあった。一応聞いてみたら、食用に使っても問題ないらしい。
使う。
そして混ぜ合わせた生地をしっかりとこね、1時間ほど休ませた後、包丁で麺の細さに切り分けていく。
当然、ここまでは事前に用意しておいてこの場に持って来た。
この場では麺を茹で、スープの味を調え、具材を調理していくだけである。
具材はもやしに煮卵、めんま、今日この場で運命の出会いを果たした『ファングボア』というイノシシ肉を入れることにする。
本当はチャーシューを用意したかったのだが、チャーシューを作るためには砂糖が必要である。
しかし、この世界は砂糖の流通量が少ない。
砂糖が欲しい、砂糖……。
ちなみにめんまは手作りした。たけのこを上手く味付けする。
そんなこんなで、『骸骨戦士大隊長ラーメン・ファングボアのゴロ肉たっぷり乗せ』が出来上がった。
「よし、二人とも、出来たぞー」
「うっ……」
「できちゃったかぁ……」
ラーメン皿を運ぶと、二人から露骨に嫌な顔をされる。
ダンジョンの遺跡の小部屋にキャンプセットの机と椅子を置き、そこに三人で座る。
俺達は手を合わせた。
「いただきます」
「んー、不気味だなぁ……いただきます……」
「い、いただきます……」
俺達は恐る恐るラーメンを食べ始めた。
「んっ……! お、おいしいっ!」
さっきまでの不安げな様子はどこ吹く風、一口ラーメンを食べるとフィアが目をキラキラさせながら満足気な様子を見せ始めた。
やはり、彼女は飯チョロである。
「えーっと……面白い料理だとは思うけど、少し味が薄くないかな?」
「クリスは分かってしまうか」
だけど、クリスはこの料理の欠点を即座に指摘する。
やはりこいつは飯チョロでは無い。
味の薄い理由は極めてシンプル。
骸骨戦士からあまり出汁が取れなかったのだ。
やはり骨であれば何でもいいわけではないらしい。豚骨や鶏ガラのようなメジャーな出汁と一緒にしてはいけないらしい。
今のラーメンの味は調味料にかなりの部分を頼っている。
……というわけで、俺は用意をしていた。
「そういう指摘がくると思っていたから、本気の豚骨ラーメンを用意しておきました」
「な、なんだってー!?」
市販の豚骨から出汁を取ったちゃんとした豚骨ラーメンも作っておいたのだ。
骸骨戦士とかを使ったチャレンジ料理ではない。この世界で作れるだけ作った本気豚骨ラーメンである。
遺跡の小部屋の中に豚骨の強い香りが広がった。
「う、美味いっ……!」
「んー!? なにこれ、すっごく美味しいっ……!?」
本気ラーメンを食べ、二人が驚きの声を発する。
「うまいっ! うまいっ!」
「んまいっ! んまいっ!」
一心不乱にラーメンを食べるクリスとフィア。
流石は俺の元居た世界を魅了した大衆料理ラーメン。これには飯チョロでないクリスも満足気だった。
「この世界にはラーメンってないのか? クリス?」
「えぇっと……ロジュア王国の方の食文化で似たようなものがあるって聞いたことあるような……。いや、詳しく知らないんだけどさ」
ロジュア王国というのは知らないが、やはり麺文化は力強いのだろう。世界は違えど、どこかで生まれて親しまれている。
「ん、おいしいから何でもいい」
「ちゃんと『骸骨戦士ラーメン』も食べろよ?」
「そっちだって十分においしいよ。……不気味だけどさ」
三人で二種類のラーメンの味を堪能する。
『【零一郎】
Blade Ability《ホワイト・コネクト》発動
HP 112/137(+1) 攻撃力53(+3) 魔法攻撃力15(+1)
Skill《骸骨回転斬り》を獲得しました。
Skill《暴走するは我にあり》がLv.4に上昇しました。』
『【フィア】
Blade Ability《ホワイト・コネクト》発動
HP 65/71(+1) 攻撃力25(+3) 魔法攻撃力39(+1)
Skill《骸骨回転斬り》を獲得しました。
Skill《暴走するは我にあり》がLv.4に上昇しました。』
『【クリス】
Ability《白絆の眷属》発動
HP 101/114(+1) 攻撃力55(+3) 魔法攻撃力62(+1)
Skill《骸骨回転斬り》を獲得しました。
Skill《暴走するは我にあり》がLv.4に上昇しました。』
《ホワイト・コネクト》が発動し、能力とスキルの獲得を告げてくる。
「うまいっ! うまいっ!」
「んまいっ! んまいっ!」
だけどそんなことには目もくれず、異世界人二人はラーメンの魅力を一心に堪能するのであった。
――その時だった。
「……なんだろう、こっちの方から良い匂いが」
「……って、え?」
「え?」
俺達がいるダンジョンの小部屋を覗き込んでくる人たちが現れた。
同じダンジョンの攻略者。
俺達はダンジョンの中で同じ同業者に遭遇した……遭遇したというより、豚骨ラーメンの匂いによって冒険者をこの場に誘き寄せてしまった。
「え?」
「え? 零一郎……?」
そしてそれは以前見たことのある顔だった。
草原のダンジョンで出会った自称異世界からやってきた男『武者小路 陽翔』であった。
「え? レイイチロウ様にフィア様……? クリス先輩も?」
そしてその隣には同日に見たフードを被った少女……俺達の推測ではこの国の王女様、ルルティナ姫と思われる女性もいた。
今はフードを被っていないで、水色の髪を露わにしている。
他にも3名、見知らぬ顔がいた。
金髪の少女と緑髪の大人びた女性、青髪の男性。陽翔の言っていた、他の『異界の勇士』とやらなのかもしれない。
推定ルルティナ姫の『クリス先輩』という発言には気になるが、それよりも今気にしなければいけないことがこの場にある。
遺跡のダンジョンの中でラーメンを食べている俺達。
それに怪訝な顔をする陽翔たち。
そして俺達の傍には、ラーメンの具材に使ったイノシシの解体された跡が残っていた。
この世界では普通、魔物を食べることはしない。魔物の瘴気が人間にとって毒となるからだ。
だけど、この状況は明らかに魔物のイノシシが調理されているように見えて……、
「何やってるんですかぁっ!? レイイチロウ様!? フィア様っ……!?」
いの一番に大きな声を上げたのは、推定ルルティナ姫だった。
「魔物は食べたらダメなんですよ!? 瘴気が毒となりますからっ! 知らなかったんですかぁっ……!?」
「ちょ、ちょっ、落ち着いて……」
「すぐに吐いて下さい! 吐いてっ! すぐに病院に行かなきゃっ……!」
「ま、待って下さいってば!?」
華奢な腕には見合わない力で、少女に肩をぶんぶんと揺すられる。
心配してくれているのは分かるが、飯食った後に激しく揺らされるのはちょっと苦しかった。
「まだ間に合うかもしれませんからーっ! 吐いてー! 吐くんですーっ……!」
「ちょ、ほ、本気で待ってくれ……! うぷっ」
割かし真面目に苦しくなりながらも、俺は男としての尊厳を守りきる。
俺とフィアは今日、妙な人たちと再会するのであった。
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