48話 第20層ボス・骸骨戦士大隊長(1)
なんとなく前に進み続けていたら、俺達は第20層のボスへと辿り着いていた。
「キイイイイイイィィィィィィッ……!」
この階層のボスが甲高い叫び声を上げる。いや、それは厳密に言うと声ではない。声ではない何かしらの音だった。
『骸骨戦士大隊長 Lv22
HP 325/325』
敵は骸骨戦士なのだから。
舌も頬もない状態で叫び声など上げられるはずも無い。
白骨姿の敵が剣を構え、俺達を威圧する。
肌も無ければ肉もない。少し薄汚れた白い骨が不気味に動いている。頭蓋骨の額に赤黒く光る魔石が張り付いていた。
普通の生命体としての常識から外れた存在。まさしく目の前の骸骨はモンスターであった。
「キイイイイィィィッ!」
「くるよっ……!」
目の前の骸骨戦士がもう一度甲高い音を上げ、剣を大きく振りかぶる。
クリスの声に応じて、俺達は体に力を入れる。
骸骨戦士が体を回転させながら、力強く剣を振った。
「うおっ……!?」
「う、うわあああぁぁぁぁぁっ!?」
「きゃあっ!?」
敵の一撃によって、俺達3人が同時に弾き飛ばされる。
骸骨戦士は体を一回転させながら、その勢いを使って大きく剣を振るう、いわゆる回転斬りと呼ばれる技を放った。
強力な敵の剣技に、俺達はあっさりと吹き飛ばされてしまう。
敵の身長は250cmほど。
右手には剣を、左手には盾を握っている。
体が細い骨で出来ているとは思えないほど体は大きく、強い威圧感を発しており、強者としての風格をありありと醸し出していた。
「なぁんでこんなボスと戦うことになったんだっけぇっ……!?」
「いや、つい、ノリで」
「バカああああぁぁぁぁっ……!」
クリスに怒られる。
俺達は元々第12層でレベル上げをしようと思っていた。
だけどなんだか思っていたよりも敵が弱かったため、もう少し上の階層でレベル上げをしようということになった。
なったというより、俺がそうゴリ押した。
もう少し上へ。もう少し上へ……。
そんな感じでダンジョンを進むと、気が付いたら第20層のボス部屋まで辿り着いていたのである。
うん。
調子に乗って先に進み過ぎた。
いや、でも第12層の敵があまり歯ごたえ無かったんだもん。
「どーすんのさ、このボス! どーすんのさっ!?」
「ん、落ち着いて、クリス。負けそうになったら一目散に逃げよ」
「もう既に負けそうなんだけどっ……!?」
体勢を崩しながらクリスが叫ぶ。
敵のボスのレベルは22。
俺のレベルは9。一番レベルの高いクリスが19。
第5層から第20層に上がるだけで、俺のレベルは4も上昇していた。
そうはいっても、敵のボスの方が断然レベルが高い。
ホワイト・コネクトの能力でステータスが上昇しているとはいえ、流石にパワー負けをしてしまう。
レベル差のある不利な戦いとなっていた。
いや、自業自得なんだけどさ。
「キアアアアアアァァァァッ……!」
「フィア、来るぞっ! 気を付けろっ!」
「んっ!」
骸骨戦士が俺とフィアのもとへと突進してくる。
俺達は態勢を立て直し、迎撃に入る。
しかしパワーの差は如何ともしがたい。
骸骨戦士の素早い二連撃の攻撃に俺達は圧倒される。
ちゃんと剣で受けて防御をしたが、俺は片膝を地に付かされ、フィアはまた吹き飛ばされてしまっていた。
フィアの肩に傷が出来てしまっている。彼女は完全には受けきれなかったようだ。
今回の戦いで俺は宝剣を使用している。
ダンジョン内ではどこで人と遭遇するか分からないから無闇に宝剣を使用できない。しかし、このボス部屋では誰かが乱入するということは無いらしい。
宝剣は手に持つとステータスが上昇する。
だから、今回俺は宝剣を武器に戦っていた。
それでも力負けしてしまっているのだが。
「うらあああぁぁぁっ!」
クリスが横から割って入ってくる。
彼は二刀流の魔法剣士。二本の剣に炎を纏わせながら機敏な動きで地面を跳ね、骸骨戦士へと襲い掛かる。
二刀流で魔法剣士とか……中二心をくすぐられる。
「キィッ!」
「って、わぁっ!?」
しかしその攻撃は失敗。
骸骨戦士は左手に持った盾を上手く使い、クリスの攻撃を防ぐ。
しかも、防ぐだけではなかった。
盾は妙な淡い光を纏っており、クリスの体は不自然に弾き飛ばされる。
おそらく今、骸骨戦士は盾用のスキルを使ったのだ。
そのせいでクリスの攻撃は通常よりも強く弾かれて、空中で無防備な姿を晒す羽目になってしまっていた。
「キイイイィィィッ!」
「クリスっ……!」
隙を見せるクリスに対して、骸骨戦士が攻撃を仕掛けようとする。
流石に防ぎきれないだろう。俺が援護するしかない。
「うおおおぉぉっ!」
『【零一郎】 Skill《ハイ・ストロングスラッシュ》発動』
俺はクリスと骸骨戦士の間に割って入り、クリスに向けて振り抜かれた敵の剣に自分の剣をぶち当てる。
スキル《ハイ・ストロングスラッシュ》。
《ストロングスラッシュ》の上位スキル。俺が《剣士》のクラスレベルを上げた時に習得したものだ。
上段斬りのシンプルながら強力な技であり、スキルによって上乗せされた攻撃力を防御のためだけに使う。
俺と骸骨戦士の剣が交錯し、火花を散らす。
敵はスキル無しの通常攻撃。俺はスキル有りの強力な攻撃。
それでもやっと互角。
しかし、今までパワー負けし続けてきた俺の剣は初めて敵の攻撃を完全に受け切った。
「キイイッ!」
「まだまだぁっ!」
だが、それで終わりではない。
俺達の攻防は続く。
『【零一郎】 Skill《三連閃》発動』
続けて放つスキルで骸骨戦士に襲いかかる。
《三連閃》。これも《剣士》のクラスを上げた時に習得した新たな技だ。
袈裟斬り、左袈裟斬り、逆袈裟斬りの素早いコンビネーション技を敵に放った。
剣と盾を巧みに使われ、攻撃は全部防がれてしまうものの敵を一歩後ろに押し込むことに成功した。
「キイイイィィィッ……!」
「うらああぁぁっ!」
まだ一連の攻防は終わらない。緩んでいる暇なんかない。
無我夢中になりながら、次のスキルを放つ。
『【零一郎】 Skill《カマキリスラッシュ》発動』
それはカマキリを食べて得たスキル。
剣を逆手に持ち変え、その剣を思いっきり振り切った。
またもや剣の威力は互角。いや、俺の方が少し押し負けたか。
剣と剣が打ち合わされた衝撃によって、俺と骸骨戦士はお互い一歩後ろに後退りした。
ただ、ここまで攻撃を打ち合ったとなれば他の二人の態勢も完全に整う。
このタイミングで二人からの援護が入った。
「ん、《アイス》」
『【フィア】 Magic Skill《アイス》発動』
フィアが後方から氷の魔法《アイス》を放つ。
しかも、攻撃を当てた場所が絶妙だった。フィアは敵の足にアイスの魔法を当てたのだ。
足にぶつかった氷は大きくなって、地面にまで広がっていく。
フィアは氷の魔法によって、骸骨戦士の足を地面に縫い付けたのだ。
「キィッ!?」
分かり易く行動を阻害され、骸骨戦士が戸惑ったような声を発する。
どうやら氷の強度はそれほど強くないようだった。
敵が大きく足を振ると、氷は粉々になって拘束はほどける。氷の魔法で敵の行動を制限できたのはほんの数秒だった。
だけど、その数秒はあまりに大きかった。
「ナイス! フィア! 《ツインアタック・ファイア》ぁっ……!」
『【クリス】 Skill《ツインアタック・ファイア》発動』
フィアが作った数秒を活かし、クリスが敵に攻撃を仕掛ける。
炎の魔法を纏った二刀流剣技。そのスキルを骸骨戦士に直撃させていた。
「キイィィィッ!?」
クリスとボスの骸骨戦士にそこまでのレベル差はない。
まともに当たれば、流石の敵も大きく仰け反った。
フィアとクリスが作った隙を俺も活かしていく。
前へ出て、骸骨戦士の腕を手に取る。
……少し考えていたことがある。
骸骨戦士の関節って、どうなっているのだろう?
普通の人間の場合、骨と骨の関節は肉や靱帯、筋肉で覆われている。だけど骸骨戦士にはそれがない。
それがなかったら、骨と骨を繋ぐものがあるはずないのである。
ならば、不思議な力……魔力によって繋がっていると推測することが出来る。
物質的なものでは骨と骨を繋げているものはないけれど、そこに魔力が覆っているから骨同士はくっついているのだろう。
ならばそこは明らかなウィークポイント。
靱帯でも筋肉でも守られていない関節なんて、外れ易い弱点なのではないか。
だから、今から掛けるのは関節技。
自分の左手で相手の左手を取り、敵の背後に回るようにしながら自分の右脇で相手の上腕部分を挟み込む。
いわゆる『
後は自分の全体重を敵の腕に掛けながら、倒れ込む。相手の左腕を伸ばした状態で、肩関節を逆側にぐっと曲げてやる。
俺と骸骨戦士の体が地面に衝突すると同時に、パキンと軽い音が鳴った。
やはりだ。
骸骨戦士の腕が肩からもげた。
骸骨にとって、関節の破壊は体の部位をもぎ取られることと一緒だった。
『【零一郎】
Skill《腕挫腋固》を習得しました』
『【零一郎】 Skill《腕挫腋固》発動』
何故かスキルの習得と発動が同時に起こった。
元々習得していた技術なんだが……、異世界人だからなにか変なことになっているっぽいな。
俺も骸骨戦士も素早く立ち上がり、体勢を整える。
腕一本もげたが、骸骨戦士は痛みに悶えるような様子はない。痛覚無いのかね。普通の人間だったら関節破壊されて、のたうち回って苦しむはずなんだが。
ちなみに、立ち姿勢からの腕挫腋固、そして倒れ込みの流れは危険過ぎて、大抵の公式試合では禁止技だ。
絶対に使ってはいけない。
ただ、戦場なら話は別だ。
積極的に敵を破壊していく。
「腕、ぶんどったぞ。これであいつは盾が使えない」
「ナ、ナイスー……」
盾を掴んでいる左腕をぽいと投げ捨てる。
クリスが若干引き気味になっているが、そんなことは気にしない。
俺たちは第20層のボスともなんとか渡り合えている。
さて、攻め時だ。
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