46話 《精霊用ステータス》
「ふぅ、食った食った」
「んー、さすがにお腹いっぱいー」
「あぁ、美味しかったぁ! ……カマキリはちょっとコメントし辛いけど」
三人で椅子の背もたれに深く体重をかける。
俺たちは大量の魔物料理を食べきったのである。
今日の夕飯は
『ブレイドカマキリの唐揚げ』
『トライアングルアイズブルを使ったコンソメあんかけソースのハンバーグのタルッコ包み』
『スライムときゅうりともやしのイルチャッカソース和え』
であった。
とんでもない量の食事であるが、なんでかすんなりと腹に収まる。
以前なら絶対に食べきれない量だというのにだ。
まぁ、やはりと言うべきか、原因は《ホワイト・コネクト》のアビリティらしい。
たくさんご飯を食べられるようになるのも、このアビリティの副次的効果なのだとフィアは言っていた。
そういうわけで、今日食べたものはカマキリ9体分、スライム3体分、ゴーレム5体分、牛1頭となった。
食い過ぎである。
ブリジッタさんの子供たちが狩ったカマキリまで貰ってきたからな。カマキリだらけになってしまった。
今日はウサギのモンスターも狩ったが、その肉は数日間熟成させることとする。
《ホワイト・コネクト》の効果で得たスキル、アビリティは、
《カマキリスラッシュ》6回。(ブレイドカマキリより)
《能力上昇(小)・剣》1回。(ブレイドカマキリより)
《元祖オリジナル蟷螂拳》2回。(ブレイドカマキリより)
《軟体》2回。(スライムより)
《能力上昇(小)・魔法防御力》1回。(スライムより)
《ロケットパンチ》3回。(ゴーレムより)
《ロケットキック》1回。(ゴーレムより)
《マジックシールド》1回。(マジックゴーレムより)
《暴走するは我にあり》1回。(トライアングルアイズブルより)
となった。
「…………」
三人でシェアリーの窓をじっと覗き込む。
「……わけの分からないスキルがあるな」
「《元祖オリジナル蟷螂拳》と《暴走するは我にあり》だよね。……なにこれ」
スキルの詳細を調べる。
『Skill;《元祖オリジナル蟷螂拳》
カマキリによるカマキリのための蟷螂拳。彼らこそが元祖であり、オリジナルなのである。
物理的に人間には出来ない動きとかも含まれているため、人向きではない』
『Skill;《暴走するは我にあり》
〔暴走〕状態になるが、〔暴走〕状態をある程度コントロールできる能力を得る。
暴走することこそ、闘牛の本懐なのである』
「……なんかちょっとずつ無駄な注釈が付いてるな」
「これは、モンスター専用スキル……。詳細を見るのは僕たちが世界初なんじゃないかな?」
「んー、どう? 使えるスキル?」
「いや全然」
「全く」
「んー……」
フィアがちょっと悲しそうにした。
でももう既に《元祖オリジナル蟷螂拳》なんかには、『人向きではない』とはっきり書かれているのである。
「でもまぁ、有用アビリティもあったぞ。《能力上昇(小)・剣》と《能力上昇(小)・魔法防御力》だ」
こういうものは積み重なると効果が大きくなってくる。
どんどん手に入れていきたい。
「後は《マジックシールド》も良さそうだな。マジックゴーレムから取れたスキルだっけか?」
「ゴーレム食べてきたことがやっと報われたよ……」
クリスが感極まっていた。
彼が言うには《マジックシールド》は人もよく使うスキルであり、モンスター専用スキルではないようだ。
クリスは元々覚えており、今回でこの《マジックシールド》スキルレベルが上昇したようだ。
「ん、《ロケットキック》は調べなくていいの?」
「別にいいだろ、それは」
「どうせ足を切り飛ばすんでしょ」
俺もクリスもそこには興味なかった。
「そんなことよりっ! 魔石食べよう! 魔石っ! クラウンポイント上げていこうよ!」
「おぉ、そうだな」
クリスの提案により、鞄から今日取れた魔石を取り出してゴリゴリと食べ始める。
ホワイト・コネクトの効果により、俺たちは魔石を食べるとクラウンポイントを獲得することが出来る。
クラウンポイントは一般的に入手方法が二種類しか存在しない上、宝剣のレベルを上げるために必要なポイントなため、とても重要なポイントとされている。
そんなポイントを、俺たちは魔石を食べるだけで入手することができる。
理論上で言えば、俺たちは一回も宝剣の勇者と戦うことなく、宝剣のレベルを10にして宝剣祭に勝利することも可能なはずだった。
この特殊効果がホワイト・コネクトの中で一番強力だと、フィアもクリスもそう主張している。
クリスと共に魔石を口に入れて、ぼりぼりと噛む。
せんべいぐらいの硬さであるが、別に食べ物ではないので食べにくいし不味い。
『【零一郎】
Blade Ability《ホワイト・コネクト》発動
Crown Point 1 を獲得した。』
俺が今日手に入れた魔石は10個。
その全てを食べて、クラウンポイント10を入手した。
「これで俺、クラウンポイントが357になったな」
「いや、貯め過ぎじゃない? 使いなよ」
クリスにツッコまれる。
この前バックスの宝剣二本を壊した時に得られた280が大きい。クリスを倒した時の50もそのまま残ってるし。
使うか、クラウンポイント。
俺はシェアリーの窓を操作して、クラスと宝剣のレベルを上げるための画面を開く。
『クラス;《剣士》Lv.1
現在の保有クラウンポイント;357
習得可能クラス;
《剣士》Lv.2;必要クラウンポイント・60
《闘士》;必要クラウンポイント・60
《狩人》;必要クラウンポイント・50
《トラッパー》;必要クラウンポイント・70
【特別項目】
《宝剣》;必要クラウンポイント・120』
貯まりに貯まったクラウンポイントを消費するため、俺はクラスレベルや宝剣レベルのどれかを上げようとしていた。
「……なんか《トラッパー》っていうのが増えてる」
「トラップ関係のクラスだよ。レーイチロー、トラップ多用するから」
「習得できるクラスは自分の経験に応じて増えていくね。まぁ、大抵一つのクラスに全てのクラウンポイントつぎ込むものだから、新しく候補が増えても関係ないんだけどね」
「ふぅん」
皆で俺のシェアリーの窓を覗き込む。
クラウンポイントを使うというのはここの異世界人にとって大きなイベントなのだろう。
フィアとクリスの二人の瞳がいつも以上に真剣であった。
「なんのレベルを上げるべきだと思う?」
「《宝剣》一択」
「まぁ、フィアの言う通り《宝剣》だろうね」
フィアとクリスの意見が一致する。
じゃあ、《宝剣》にクラウンポイントを使用するか。
……いや、宝剣の担い手になるつもりは今もないのだが。
でもこの宝剣を手放すまでは、強くなれる機能はなるべく積極的に使っていきたい。
俺はクラウンポイント120を消費して、《宝剣》のレベルを上げた。
『《宝剣》《ホワイト・コネクト》がLv.1になりました。
宝剣ステータスボーナス;
HP 36 MP 36
攻撃力11 防御力11 魔法攻撃力11 魔法防御力11 速度7
Ability《精霊用ステータス》を獲得しました。』
「ほぅ……ほぅ?」
「ん?」
「おっ……!」
フィアの宝剣がLv.1になったことが表記される。
Lv.1になったってことは、今まではLv.0みたいな感じだったってことか。
情報量は多い。
『宝剣ステータスボーナス』というのがよく分からないし、新たに得たアビリティ《精霊用ステータス》というのも効果が分からない。
さて、どれから考察していくべきか。
シェアリーの窓を覗きながら、俺とクリスは首を捻っていた。
だが、いち早く反応したのがフィアであった。
「やったー! 《精霊用ステータス》手に入ったぁー!」
「フィア?」
彼女が両手を上げて喜びを示す。
「フィア? 《精霊用ステータス》ってなんだ?」
「私も人と同じようにステータスとかレベルを獲得できるようになったの! 見て見て! これが私のステータス!」
フィアが俺たちにステータス画面を見せる。
『名前;フィア 種族;宝剣精霊
Lv.10 HP 31/31 MP 50/50
攻撃力10 防御力10 魔法攻撃力25 魔法防御力25 速度10
クラス;――
スキル;《ホーリーランス》Lv.1
《
《
《ヒール》Lv.1
《キュア》Lv.1
《ファイア》Lv.1
《アイス》Lv.1
《ウォーター》Lv.1
《サンダー》Lv.1
《マジックシールド》Lv.1
《深呼吸》Lv.1
《興奮》Lv.1
《アリジゴク》Lv.1
《ウサギ飛び》Lv.1
《カマキリスラッシュ》Lv.1
《元祖オリジナル蟷螂拳》Lv.1
《ロケットパンチ》Lv.1
《ロケットキック》Lv.1
《暴走するは我にあり》Lv.1
アビリティ;《ホワイト・コネクト》Lv.1
《精霊用ステータス》Lv.1
《能力上昇(小)・攻撃力》Lv.1
《能力上昇(小)・魔法防御力》Lv.1
《軟体》Lv.1
Crown Point;0
Base Point;0』
「おー」
「おー」
俺たちは感嘆の声を漏らす。
そうか、フィアは今まで自分に戦闘能力はないと言っていたが、それはレベルのシステムそのものが無かったということか。
それで、今回の宝剣のレベルアップによって《精霊用ステータス》というアビリティを獲得し、ステータスを得たというわけか。
「これで私も戦える! 戦闘でも足手まといにならないからっ!」
「いや、まぁ、今まで一度も足手まといになったことはなかったけど……」
いつものジトっとした目をキラキラと輝かせ、フィアは嬉しそうに声を張り上げていた。
「というより、俺よりレベル高いじゃないか。俺はまだ5なんだが……」
「ふふん。レーイチローより強くなっちゃったかも」
「俺がホワイト・コネクトで手に入れたスキルもフィアに共有される感じなのか? って、魔法スキルがある。いいなぁ」
「ふふん」
フィアがどや顔で俺のことを見てくる。
「いやぁ、フィアって本当に普通の人間じゃないんだね……」
少し目を丸くしながらそう言ったのはクリス。
彼にはもうフィアが宝剣の精霊であることを話している。俺が記憶喪失の異世界人であることもだ。
こいつはもう《ホワイト・コネクト》について深く関わってしまっている。
逃がさん。知らなくてもいいことを教え、死ぬときは一緒になって貰うつもりだ。
「……そもそもパラメーターの存在しない生き物っていうのがいたんだ。……生きていくのも大変そうだなぁ、そんなの」
「ほんと、戦いに参加できないのはむず痒かった」
クリスの言葉にフィアがふんと鼻を鳴らす。
地球だとそのパラメーターがない方が普通だったんだがな。
ちなみにクリスに確認したところ、やはり『宝剣の精霊』という存在は普通じゃないらしい。珍しいというより、今まで聞いたこともないようだ。
フィアの存在は一体何なのか。
それは彼女自身もよく分かっていないようだった。
「とにかく、これで私も戦いに参加できるから! 期待して!」
「まぁ、ほどほどにな」
「んっ!」
フィアが大きく胸を張る。
彼女の参戦が決定した。
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