16話 激闘! ブルラビット!
『ブルースライム Lv.6
HP 25/32』
「プルルルルッ!」
「はっ……!」
白い宝剣を振るう。
全身を使い、剣が弧を描くように攻撃を放つ。
目の前にいるのは青色の半液状モンスター。
スライムであった。
「プルルルッ……!」
「おっと!」
スライムが体当たりを仕掛けてくるが、体を横にずらして躱す。
小さく息を吐く。体から汗が滲む。
俺は今、スライムと死闘を繰り広げていた。
森の中を彷徨っているとこのモンスターと出会ったのだ。
スライムとは青い液体のようなものが粘り気を持ちながら、一つの塊として動いているモンスターだ。
目も口も無く、顔は無い。RPGゲームの先駆けとなった昔の某有名作品のような、愛嬌のあるスライムではない。
決して地球にはいなかった生物である。
ぷるぷると液体の体を震わしながら、地面を這うようにしてこちらににじり寄ってくる。
半透明の体の中心には、怪しく光る宝石のようなものが存在していた。
今まで出会った魔物は全員、このような宝石を体に付けている。
魔物の特徴なのだろうか。
「プルルルッ……!」
「よっ!」
スライムがまた愚直にも体当たりをしてくる。
攻撃は単調。回避するのは楽である。攻撃に工夫は無く、技巧も無い。
はっきり言って、雑魚の部類に入るだろう。
しかしだ。
「やぁっ……!」
敵の攻撃を躱した後、スライムを剣で斬り付ける。
『ブルースライム Lv.6
HP 22/32(-3)』
「くっ! たった3のダメージか……」
これである。
こっちの攻撃もあまりダメージが通らないのだ。
相手のレベルは6。昨日のヘビより2低い。
しかし、こっちのレベルはまだ3なのである。
数字だけ見れば倍のレベル差だ。
こちらの攻撃が少しずつしか通らない。
「プルルルル……!」
「あぁっ! じれったい!」
またスライムが突進を仕掛けてくる。
しかし、当たらない。当たるわけがない。馬鹿の一つ覚えの攻撃など、喰らうわけがない。
でも、こちらの攻撃もあまり通りが良くない。
ジリ貧だった。無駄に戦闘が長引いていく。
かといって、こちらの攻撃頻度を上げるわけにはいかない。
なんたってレベル差があるのだ。
スライムの体当たりを絶対に喰らわないよう注意しないといけない。
今はまだ一撃も喰らっていないからHPが全く減っていないが、敵の一回の体当たりでこちらのHPが大きく削られてもおかしくないのだ。
だから、こちらからの攻撃は慎重に。
攻撃に気を取られて回避がおろそかになったら、待っているのは死なのだ。
というわけで、結構なジリ貧だった。
「が、頑張ろう! レーイチロー……!」
フィアが手頃な木の棒を振って、スライムを叩く。
ダメージは1。俺よりも低いが、今はそれでもかなり有り難かった。
彼女は宝剣の精霊であり、彼女自身に戦闘能力は無いらしい。
だから、前に出るのは俺の役目。戦闘になったらフィアには剣の中に籠って貰う予定となっていた。
しかし、今の状況はジリ貧。
スライムの攻撃は避けやすく、彼女にも攻撃に参加して貰っていた。
かなり助かっている。
「ピギイイイィィィッ……!」
『ブルースライムを倒した。
Base Point 28 を獲得した。』
スライムが断末魔を上げる。
やっとのことでスライムを倒せたのだった。
「ふぅ……」
「お疲れ、レーイチロー」
「あぁ、フィアもお疲れ」
大きなため息をつきながら、お互いを労う。
苦戦ではない。俺たちはスライムの攻撃を一度も喰らっていない。
しかし、やたら時間のかかった戦闘であった。
「大蛇よりも長かったね……」
「やるせないな……」
昨日のヘビとの戦いは短期決戦だった。
10m近い崖からの落下、落下を利用した石での攻撃、喉奥への石の投てきなど、地形や状況を利用した高威力の攻撃を何度も喰らわせていた。
逆にあの巨体との戦いでちんたら時間を掛けていたら、万が一にも勝ち目はなかっただろう。
今回のスライムとの戦いは完勝である。
こっちのダメージは0だ。
でもなんか、達成感が薄かった。
「まぁでも、普通に勝てるモンスターもいて安心した。レベルを3にしたのが大きいな」
「私もなんか真っ当な武器が欲しいなぁ……」
フィアがぶんぶんと木の棒を振る。
そこら辺に落ちていた丁度いい感じの木の棒だ。あり合わせ感が満載である。
「じゃあ、この武器を貸そうか? どうも名のある宝剣のようなんだが……」
「それ私の剣じゃん!」
フィアがぷりぷりと怒る。
この剣を誰かに押し付けたい気持ちが見透かされてしまった。
そうやって、だらだらと話しながら森の中を探索する。
そんな時のことだった。
「ピギイイイィィィッ……!」
「ん?」
草むらの奥から、けたたましい動物の鳴き声が聞こえてきた。
「モ、モンスター……?」
「ピギイイイィィ、ピギイイイィィィィッ……!」
なにか切羽詰まったような、甲高い鳴き声。
その声には危機感のような感情が込められていた。
この草むらの奥にモンスターがいる。それは分かるのだが、それ以上に何か事件のようなことが起こっていることが察せられた。
「…………」
俺とフィアは無言で視線を交わす。
この草むらの奥には一体何が待っているのか。
俺達は身を潜めながら、音を立てないように注意して草むらの奥の様子を伺った。
「ピギイイィィ! ピギイイイィィィィッ……!」
「ウ、ウサギ型のモンスター……?」
『ブルラビット Lv.8
HP 48/48』
そこには、一風変わったウサギの姿があった。
見慣れたウサギよりも体が一回り大きく、頭には闘牛のような2本の角が生えている。
目は赤く血走っており、殺気が迸っている。けたたましく鳴き続けており、小さい体ながらも迫力に溢れている。
そしてやはり、額には怪しく光る宝石のようなものくっついていた。
ウサギ型のモンスター。
しかも、Lv.8だ。レベルだけで見たら、昨日のヘビと同じなのである。
俺はごくりと息を呑んだ。
「こ、これは、一体……?」
「…………」
フィアが草むらの奥の光景に目を見開いている。
驚きを露わにしながら、二度三度まばたきをする。
ウサギは妙な状況下にいたのだ。
「なんであのウサギ……宙吊りになってるの……?」
「…………」
ウサギの体はぶらぶらと宙吊りにされていた。
足に蔦が絡みついており、その蔦がウサギを引っ張り上げ、逆さ吊りにしている。
蔦は高い場所にある木の枝に括りつけられており、下に垂れ、ウサギの足を縛っていた。
「ピギイイイィィ、ピギイイイィィィィッ……!」
「…………」
ウサギは甲高い鳴き声を上げている。
しかし、そいつに出来ることは何もなかった。激しく暴れて抵抗しても、体が空中でぶらぶらと前後するだけである。蔦が揺れ、木の枝がしなるが、それだけである。
ウサギの体は逆さ吊りになっていて、完全に拘束されていた。
「ピギイイイイィィィィィッ……!」
「……? ……?」
隣でフィアが怪訝な顔をしながら、首を捻っている。
彼女の頭からハテナマークが飛び出ているのが見えるかのようだった。
「あの罠、上手くいったのか……」
「レーイチロー、何か知ってるのっ?」
俺がぼそりと呟くと、フィアの顔がこちらを向く。
そうである。
あれは、俺が昨日仕掛けた罠だった。
単純な跳ね上げ式の罠である。
しなる木の先に蔦を結び付け、いくつか木の枝を使い、その蔦の先端を地面に固定する。蔦の先には輪を作り、引っ張ればぎゅっと締まるような結び方をしておく。
何か動物が通りかかり、蔦の先を固定している木の枝を倒すと、蔦の先が動物の足に絡みつきながらしなる木が動物を跳ね上げるという仕組みだった。
つまり丁度今のように、モンスターのウサギが宙吊りとなる罠なのである。
「こんなに上手くいくとはなぁ……」
「ピギイイィィッ!? ピギイイイイィィッ……!?」
「え、え……? どういうこと……?」
俺は危険が無いことを確認してから前に進み、ウサギの前に姿を現す。
フィアが目をぱちくりさせていた。
俺は昨日食糧調達をしながら、この跳ね上げ式の罠を仕掛けていた。
とても原始的な機構の罠の為、慣れれば作り上げるのに時間は掛からない。
必要な木の枝や蔦をかき集めながら、食糧調達と並行して罠を作っておいた。罠の先に果物の欠片を付けておき、獲物を誘き寄せる餌としていたのだ。
そのように時折しゃがみ込んで罠を作る作業をしていたのだが、フィアには俺が何をしているのか分かっていない様子だった。
ただ、この罠が無駄に終わる可能性も高かった。
単純な罠の為、獲物が掛かる確率も低い。この場所の他にもいくつか同じ機構の罠を作っており、そのどれかに引っ掛かっていれば良い、という程度の物だった。
一応、何もしないよりかはマシっていう程度で作った罠であったが、まさかモンスターがこんなに上手く引っ掛かってくれるとは思わなかった。
ラッキーである。
「残酷だけど、これが生存競争なんだよな」
「ピギィッ……! ピギイイイイィィィィッ……!」
「文明の差を恨んでくれ、ウサギ」
「ピギイイイイイィィィィィッ!」
宙ぶらりんになって身動きの取れないウサギを、剣で何度も斬り付ける。
最早ウサギにはどうすることも出来ない。
罠に嵌まった後では何の抵抗も出来ない。
やはり、レベル差というものがあるのだろう。
一撃でウサギを斬り殺すことが出来ない。俺の剣はウサギの皮に小さな傷を入れることしか出来ない。
ウサギのレベルは8。
真っ当に戦っていたらかなり苦戦を強いられていたはずだ。
だが、俺は今一方的に攻撃が出来る状態だ。
何度も何度も斬りつけていけば、傷はどんどんと大きくなっていった。
「ピギイイイイイイイィィィィィィィッ……!」
やがてウサギは大きな断末魔を上げ、死亡した。
『ブルラビットを倒した。
Base Point 15 を獲得した。』
シェアリーの窓が開き、俺の勝利を祝うメッセージが浮かび上がる。
こうして俺は強敵のウサギとの激闘を制したのだった。
「ひ、卑怯じゃないっ……!?」
フィアが目を大きく見開きながら、苦言を呈す。
「な、なんか……とっても、卑怯じゃない……!?」
「卑怯ではない。これは、狩りだ」
「狩り!?」
そうである。
外敵から身を守るにも、獲物のお肉を手に入れるにも、真正面から戦いを挑む必要なんかないのである。
人類が何千年と進歩させてきた狩りの技術を使えばいいのだ。
「昨日の誇らしい戦いはどこへ行ったの!?」
「狩りには誇らしさなんて、不要だ」
いかに自己の安全を保障しつつ、一方的に獲物を殺すか。
狩りの技術の進歩とは、そこにあると言っても良い。
文明の技術に万歳なのである。
「なんにせよ、ウサギの肉ゲットだ」
「勇者っぽくなくない……!?」
勇者っぽくある必要なんかどこにも無い。
サバイバル生活二日目。
俺はウサギの肉をゲットするのだった。
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